コロナ禍で示したメッセージが響いた
「私は、もう一度、資生堂を信じようと思った」。2020年3月24日、資生堂社長と兼務となった魚谷雅彦資生堂ジャパン社長の動画メッセージを聞いた有力専門店経営者は、このような感慨を抱いたと語る。資生堂の専門店政策を振り返ると、改革の繰り返しの歴史と言ってよい。一貫性のない施策は、専門店を戸惑わせ、お客一人一人に時間をかけてアプローチし、愛用者を増やす専門店のビジネスモデルと乖離が生じたことは否めない。それでも、今回の動画メッセージに専門店経営者が耳を傾けるのは、魚谷社長の実績によるところが大きい。詳細は省くが、14年の資生堂社長就任以降、国内外で矢継ぎ早に行った改革で、瞬く間に事業規模を1兆円超に押し上げた。このスピード感と実行力があれば、資生堂の専門店政策は抜本的に変わるのではないか。「動画を見て自分の中で資生堂に対する期待値が高まっていった。改めて魚谷社長のカリスマ性を認識しました」と言う専門店経営者の言葉に偽りはないだろう。
資生堂は、専門店政策の改革を急ぎ過ぎた。魚谷社長が課題に挙げたように、ビジョンや戦略が右往左往したばかりか、マーケティング部門が考案した戦略を営業部門を通じて専門店に流すだけに終始してしまった。その象徴は、18年8月31日に発表した化粧品ブランド「ディシラ」の販売終了だろう。資生堂から専門店への唐突な通知はもちろんだが、「ディシラを廃止しなければ、クレ・ド・ポー ボーテやSHISEIDOなどの生産ができないという説明は腑に落ちるものではなかった」と専門店経営者は振り返る。これは専門店に資生堂の意図を伝える営業部門が機能していなかったことを如実に示している。資生堂の専門店政策は、メーカーから店頭まで、一気通貫のスキームが機能不全を起こしていたと言ってよい。
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