商慣習に固執しない打ち手の数々

商品としては、2000年代前半に発売されたヘアカラー剤『アクセスフリー ハーブカラー』のヒットが大きい。これは徹底的に低価格が意識された戦略商品で、ミルボンの『オルディーブ』がサロン価700円なのに対し、ナプラの『アクセスフリー ハーブカラー』は、一部代理店を経由せず直販を行い、カラー剤1本200円台後半~300円前半という破格のプライスで、面を広げていった。直販は、プロファッショなる業界の商慣習に馴染まない手荒い商法で、大手代理店のきくや美粧堂などとは、販売に関してトラブルがあったようで、現在、同社はナプラとの取り引きがない。一時期、ナプラは、価格破壊の代名詞で、かなり暴れん坊のイメージがあったのは、この手荒い商法が影響しているかもしれない。

徹底的な価格訴求の戦略で、教育的なフォローや付帯サービスは完全に二の次。最近は、スタジオ設備も充実させていて、教育活動にも力を入れているものの、過去には「商品はウチのを使っていただいて、講習はウエラさんで受けてください」などという冗談のような話が、本当にあったらしい。

一方、2000年代以降のプロフェッショナルケアの鉄則は「カラー剤を制する者が市場を制す」だ。ミルボンがこの業界でナンバー1メーカーに上り詰めるのも、07年に発売したヘアカラー剤『オルディーブ』のローンチが大きい。それまでミルボンには、戦える強いカラー剤がなく、それが長く同社のアキレス腱になっていた。『オルディーブ』の開発は、まさに同社が社運を賭けたプロジェクトだったのだ。

カラー剤でキラーコンテンツがないメーカーは、浮上できない。最近の例で言うとロレアルがそうで、捲土重来を期して、今春発売された『iNOA』であるが、思ったように配荷が伸びず、低迷状態から脱却できずにいる。

ナプラは、マーケティング戦略も秀逸だった。前述のように、『アクセスフリー ハーブカラー』をドアオープナーとして、取引先を開拓。シェアをどんどん伸ばしていった。この剤は、価格の安さもさることながら、ナチュラルハーブエキスを使用したヘアカラー剤ということで、オーガニック志向が強まってくる時代の気分にマッチングした。

ちょうど、高齢化でグレーカラーが注目された時期で、当時のグレーカラーは、施術後、髪が硬くなってしまう製品も多かった。『アクセスフリー ハーブカラー』は完全なオーガニック商材ではないが、自然派のイメージがあり、仕上がり感が柔らかく手触り感が良かった。傷まない白髪染めを望む世代によく売れた。

そして、ナプラのブランド力を圧倒的に高めたプロダクトが17年に発売された。それが『N.(エヌ・ドット)』である。

これは前述の『アクセスフリー ハーブカラー』とは全く異なった戦略によって市場へアプローチされた商品だといえる。SNSのインフルエンサーをフルに使い、『WWD BEAUTY』や『美的』などの媒体で積極的な話題づくりを行った。これが功を奏し、ヘアサロンというより、一般のコンシュマーの間で発売前から話題になり、スタートダッシュに弾みをつけた。

美容室専売品は一般のコンシュマーに向けて、広告宣伝をかけるということは、過去、あまりされてこなかった。それは、美容室に対する義理立てなのか、業界内で金を回すという、悪しき慣例から来るものなのか、理由は定かでない。ただ、ナプラは、そういった慣習にとらわれることなく、フレキシブルに販促PRの戦略を考えているに違いない。