鳥巣知得 Onedot株式会社CEO


 

7月27日、中国Eコマースプラットフォームの「拼多多(Pinduoduo)」が米国ナスダック市場に上場しました。2015年9月のサービス開始からわずか3年弱でのスピード上場であり、アクティブユーザーは3億人以上、流通総額は過去12カ月で6兆円弱という凄まじい成長です。

これまで中国Eコマース市場は、阿里巴巴(アリババ)と京東(JD.com)の二社のプラットフォームが圧倒的なシェアを占めて来ましたが、現在では、拼多多が5%以上のシェアを獲得し3番手に食い込んでいるという調査も見られます。

サービス開始からわずか3年弱で米国ナスダックに上場

拼多多の急成長の理由として、地方都市(中国の分類では、三級、四級、五級都市)および農村部のユーザーを獲得したことが挙げられており、統計によれば利用者の6割は三級都市以下の居住者が占めるようです。これまで中国Eコマース市場の牽引役は比較的所得水準の高い一級、二級都市のユーザーが中心でしたが、これまでとは異なる層の利用を大きく引き出すことに成功したわけです。

この地方都市ユーザーの獲得に効果的だったと思われるのが、並んでいる商品の驚くほどの安さです。一つの調査では、20元(約320円)以下の商品が全体の3割、50元(約800円)以下の商品が全体の6割程度を占めるとも出ています。

また、加えて特徴的だったのは、微信(WeChat)で友人を購入に誘うと、その分だけ価格が安くなる「拼団(Pingtuan)」という仕組みです。これまでも、購入者が一定数集まることを条件に値下げ販売をする団体購入という仕組みは中国でよくありましたが、それを個々のユーザーの招待数に応じて動的に実現する仕組み(友人を呼べば呼ぶだけ安くなる)を実現し、更なる値下げとバイラル効果によるユーザー獲得を実現してきました。拼多多が「ソーシャルコマースプラットフォーム」とも言われる所以です。

この拼多多の成功を見て、これからは中国市場でも地方都市/農村部が重要だ、その市場を取りに行かねばならぬ、との気運が高まっています。それは一面の真実ではあるのですが、事はそう単純ではなさそうです。

先ず、拼多多が先に述べたような廉価な品揃えを実現するにあたり、大手ブランド製品のコピー商品や偽物の流通をある程度許容してきた、という事実があります。このこと自体は、もちろん消費者に対してネガティブなことなのですが、余りにも価格が安いことで「仕方ないか」と受け取られたり、利用者層に比較的リテラシーが高くない層が多く、模造品と気づかずに利用しているということもあると言われています。

この運営ポリシーが、既存の大手プラットフォームである阿里巴巴や京東との競争においても有利に働いたようです。これらの既存大手は、同時期に自社プラットフォームの「正常化」として、コピー商品や偽物の排除を進めていました。拼多多の強みが分かっていても、その成功要因を真似ることは既存の利用者を失うことを意味し、手が出せなかったという訳です。18年に入って、阿里巴巴は廉価な商品を揃えた「淘宝特価版」なるプラットフォームをリリースしていますが、これは既存の自社プラットフォームである「淘宝網(taobao)」では対抗できない、という理解の現れかと思います。

なお、このコピー商品や偽物に対するポリシーに関しては、上場に前後して批判が高まっており、拼多多ですらも、徐々に変化を強いられるようになってきているようです。コンプライアンスやブランドイメージに敏感な日本企業の多くにとっては、拼多多が伸びることが分かっていてもそれを利用できたか、もしくは似たようなアプローチで展開できたのか……と問われると、かなり難易度は高いように思います。

無論、中国市場における地方都市や農村部の重要性を否定するわけではなく、そこを攻略できれば果実が大きいことは間違いありません。一方で、拼多多の事例は、阿里巴巴や京東といった絶対的にも見えた強者に対し、彼らの強みが弱みに転換されるポイントを上手く活用した、ベーシックな戦略的勝利と捉えた方が、より応用範囲の広い学びとなるように思います。

もう一つ、コピー商品や偽物をも含む廉価な品揃えに加えて、拼多多の急成長を加速した要因が、微信との連携です。こちらも、「農村部を狙うなら微信」と単純化できるものではなく、微信自体の変遷に上手く合わせて拼多多がサービス進化を遂げてきた様子がうかがえます。

初期(15〜16年頃)の拼多多においては、前述した「拼団」という仕組みを通じ、利用者が自分の微信の朋友圏(モーメンツ/タイムライン)にて一緒に購入する友人を募集し、それがきっかけとなって拼多多自体も認知が広がるというバイラル拡散が強く機能していました。しかし現在の微信では、前月号の本欄にも書いた通り、微信自体がこの朋友圏の商業利用を禁じる傾向が強まっています。

微信の朋友圏を活用しある程度知名度を上げたがその継続が難しくなってきた頃、17年には拼多多は微信のミニアプリを中心に展開していたようです。このタイミングもまた、微信自体がミニアプリの機能を大々的にプロモーションしていた時期と重なり、代表的なアプリの一例として採り上げられることで、多くの恩恵を享けたようです。

しかし更に拼多多が成長すると、微信からも徐々に脅威を感じられるようになったのか、最近では拼多多の経営者が微信からの支援がなくなってきたことに不満を漏らしていると言います(さすがにここまで大きくなってしまうと既存ソーシャルメディアを活用するのも難しくなってくるのでしょうが、これだけ利用し尽くせれば十分でしょう)。

拼多多は微信自体の変化に上手く乗っただけではなく、このタイミングで、微信というソーシャルメディアを主戦場にしたことも大きな勝因となったと言えそうです。ご存知の通りECプラットフォームの最大手は阿里巴巴であり、競合するグループである騰訊(テンセント)系の微信は活用しづらい。

またそれだけではなく、マクロの要因もあります。現状注目されている地方都市や農村部における需要拡大は、単純な経済規模の伸びだけではなく、それらの地域におけるモバイルインターネット利用率の伸びが掛け算となって加速しています。現在の中国でモバイルインターネットを利用し始めた人が最初に利用するアプリの一つが微信であり、その上でサービスを展開することは地方都市ユーザーを獲得するのに最適な手段だったということだと思われます。

巨大プラットフォーム自体も激しい競争を繰り広げながら、刻々と変遷を遂げている中国。その上でサービスを展開するにせよ、彼ら自体に挑むにせよ、相手の進む先と時流を上手く見極め、最適な手立てを講じ、なお先取りしていく必要を強く感じます。

Onedot株式会社
中国と日本で育児動画メディア「Babily」を提供。育児に役立つ情報をスマートフォンで見やすい1分動画で制作・配信し、中国では育児動画メディアとして最大手