鳥巣知得 Onedot株式会社CEO
前月号の本欄で、「中国ではソーシャルメディア・プラットフォームの多様さが特徴の一つ」と書きました。その中でも、今日最も話題になっているのが「抖音(Tik Tok)」です。
抖音は2016年9月に開始された、スマホ動画を投稿できるプラットフォームです。ニュースアプリ大手の今日頭条(Toutiao)傘下のサービスとして開始し、瞬く間に人気を博しました。主な機能面での特徴はスマホ画面一杯に映る縦型動画であること、15秒が上限の「超」短尺動画であること、そして動画につけるBGMを正規音源から自由に選ぶことが出来ること、などです。
これらの機能を活用して、当初はティーンエイジャーほどの若いユーザーが口パク動画(音楽に合わせて自分が歌っているように見せている動画)などを投稿し始めたことで一気にブレイクしました。その後、現在まで急成長を続け、18年3月にはDAU(日次アクティブユーザー数)が3000万人超、1日の動画再生回数が1億回を超えたそうです。一説にはDAUで微博(Weibo)を超えたと言う調査も出ており、中国でも最大手のプラットフォームの一つにまで拡大しています。
また、一時期はApp Store(Appleのアプリストア)中国のダウンロードランキングで一位をしばらく維持していました。動画やソーシャルメディアといった括りを超えて、中国ネット業界全体を代表する規模になってきたと言えます。私の周囲でも実際に熱中しているユーザーが多く、日本人でも「仕事中もずっと見てる……」と話す友人が居るほどです。
規模がここまで拡大するにつれ、ユーザー層やコンテンツの種類も変容が見られています。ある調査によれば、現在では20〜30代の女性が全体の7割程度を占めていると言います。コンテンツもティーン向けのエンタメコンテンツのみならず、そういった世代に向けたファッショナブルなものや、実用的なコンテンツも増えてきました。
私が経営している育児動画メディアの「Babily(中国名は貝貝粒)」でも、当初はユーザー層の違いから抖音には注力していなかったのですが、規模の拡大と質的な変容を見て動画コンテンツの展開を始めたところ、開始から1カ月でユーザーが100万人を超えるまでに急成長し、非常に驚かされました。また、その規模感もさる事ながら、我々の動画に寄せられるコメントが他のプラットフォームと同様に非常にリアルかつ真摯で、アクティブなユーザーが集まっていることが感じられます。
この抖音は、先に書いた中国のプラットフォームの多様さ、変化の激しさの象徴的な例と言えます。スマホ動画・ショート動画(中国語では〝短視頻〟と言います)は微博(Weibo)や美拍(Meipai)・秒拍(Miaopai)といったプレイヤーが既に席巻していたと思われていたところを、遅れるところ数年にもかかわらず新たなモデルで抖音がチャレンジし、見事にこのような大ブレイクを果たしました。
また、実は抖音と類似のモデル(縦型・超短尺)の動画プラットフォームに快手(Kuaishou)というプレイヤーもおり、こちらもほぼ同時期に急拡大しています。抖音が1級・2級都市ユーザーが多いのとは対象的に、快手は3級・4級都市のユーザーが多く、そういった地域の生活をネタにしたコンテンツが多いことが特徴です。地域に応じて抖音とユーザー層を分け合うような形になっています。
戦いは更に続いています。騰訊(Tencent)もこの縦型動画のモデルに着目しており、自社グループが持つ微視(Weishi)という動画プラットフォームを、CEO直轄で磨き直すという発表をしました。早速優良なコンテンツ創作者に対する優遇策を打ち出し、囲い込みを図っています。
この競争の激しさ、そして飽くなき起業家精神が現代中国の大きな一つの特徴です。巨大な既存プレイヤーがおり傍目からは勝負が決まっているように見える市場でも、新たなアイデアや改善をひっさげて挑戦者が現れます。このダイナミズムこそは、日本人が刺激を受け、見習うべきところではないでしょうか。かく言う私自身も、ベンチャーを名乗る企業に身を置いているにもかかわらず毎度驚かされ、驚いている自分を恥ずかしく感じます。
より実務的な示唆としては、激しく入れ替わるプラットフォーム間の波を上手く乗りこなすために、幅広いプラットフォームを常にウォッチし、波が来た時に乗れるようにしておくことが重要です。我々の「Babily」でも、常に30以上のプラットフォームでサービスを展開し、それぞれのサービス特性やユーザー属性ごとにコンテンツの最適化を試すといったことを繰り返しています。うまく網を張っておくと、今回の抖音のような急激な変化の果実を得ることができると感じた次第です。
実はこの抖音、“Tik Tok”の英語名で中国外にも広く展開しており、東南アジアや日本でもかなり人気のアプリになっています。日本では未だティーンがユーザー層の中心であり、それもあって、「Babily」が抖音で拡大していると話すと、日本のTik Tokをご存知の方からは意外に思われますが、中国での抖音の状況をお話すると納得されます。
見方によっては日本のTik Tokは中国における1〜2年前に相当すると言えるかもしれず、中国での展開を見て日本での今後の先行きを読むことが出来るかもしれませんし、逆に言えば、日本のTik Tokを見ているだけでは、中国の状況は読み誤るとも言えます。無論日本と中国では市場環境も異なるため一概には言えませんが、そのようなことも起きるステージに入ってきたことを日本企業・日本人としては意識する必要が出てきたと言えそうです。★
Onedot株式会社 中国と日本で育児動画メディア「Babily」を提供。育児に役立つ情報をスマートフォンで見やすい1分動画で制作・配信し、中国では育児動画メディアとして最大手 |