鳥巣知得 Onedot株式会社CEO
本稿を執筆している現在(2月中旬)、中国は旧正月の最中です。春節とも呼ばれるこの時期は一年で最大のイベントであり、今年は暦上の正式な祝日は2月15日から22日までですが、街中は1月末頃から赤い飾りで華やぎ、人々もどこかお休み気分(?)の人が増えてきます。
この時期、前後は帰省や旅行による移動で交通手段がごった返すことで有名ですが、休暇中は実家や旅行先でのんびり過ごす人も多く、ネット利用も普段と同様以上に行われます。特に大晦日にかけてのタイミングでは、春節における昔からの習慣である「紅包(ホンバオ)」を使ったプロモーションがソーシャルメディアを中心に大変盛り上がります。
「紅包」とは、中国でのいわゆるご祝儀袋、お年玉的な習慣で、春節の時期に色々な人に配るための小さな赤い袋のこと、もしくはその袋を配ることを指しています。日本のお年玉とは異なり、大人から子供にだけではなく、会社から従業員にボーナスの一環として配られたり、上司から部下にちょっとしたギフトとしても配られます。場合によっては金額の多寡よりも、授受自体が縁起物として喜ばれることも多いようです(無論、受け取る側としては多いに越したことはないと思いますが……)。
この紅包、過去3〜4年間は、微信支付(WeChat Pay)や支付宝(Alipay)といったモバイル決済サービスの普及を後押しするものとして、それぞれの決済サービスの提供会社自体が積極的にプロモーションに活用してきました(ちなみに微信支付の少額支払い機能は「紅包」、まさにそのままの名を冠しています)。その決済サービス自体がかなり普及した現在では、それらの「紅包」送金機能を活用し、決済以外のサービスや企業がプロモーションを行うことが増えてきています。
中でも現在特に目立つのは、ソーシャルメディア化している各種の大手プラットフォームです。微信(WeChat)や微博(Weibo)といった老舗は勿論のこと、それらを追随するニュースアプリ(としての機能を軸に、ソーシャルメディア化しつつある)の今日頭条(Toutiao)は10億元、微信と同じテンセント社が提供しているQQでは2億元分の現金に40億元相当の利用券といった大規模な紅包が用意されることが前もって報じられていました。またECサービスでも、淘宝(Taobao)や蘇寧(Suning)といった大手が数億元規模の現金を配っています。
なお、これらのプラットフォーマーの中には、自社サービスについて「微信のモーメンツ(タイムライン)に投稿したら◯◯元」といったような施策を打つプレイヤーも居ましたが、微信側がそのような形でのモーメンツ利用を禁じたりといった、プラットフォーム間の競争を窺わせるような一幕もありました。
こういったプラットフォームのみならず、個別の企業や製品ブランドも紅包を多く配っています。例えば微博の中では、企業が自社のアカウントを通して紅包を配ることで、プロモーションを行うことができます。微博では、紅包の配布方法に関して細かい設定も含めて、プロモーション利用のための様々なメニューがあり、今後の活用方法の参考となりそうです。
一つには、そもそもの紅包の配布目的の設定。自社アカウントのユーザーを増やすために、「このアカウントをフォローしてくれたら一定の確率で紅包が手に入る」といった設定がある一方、「◯◯カ月以上前からのフォロワーのみを対象に紅包を配る」といった、既存ユーザーへの感謝を示す(活性化を狙う)ような設定も存在します。
紅包を活用したプロモーション施策は、ややもすればお金目当てのバーゲンハンターばかりが集まってしまい、本来のターゲットユーザーから焦点がズレてしまうリスクを孕みますが、既存ユーザーの活性化という目的で活用すれば、確かにそういったリスクは抑えられるように思え、地味ですが賢い利用方法のように思います。
配布の仕方にもいくつかの形があります。自社のアカウントで告知し、自社単独で粛々と実施することも勿論可能ですし、数十万元以上の大きな金額を用意すれば、微博のトップメニューで企業ロゴの大々的な露出と共に告知をすることも可能です。また、芸能人や網紅(ワンホン、オンライン上の有名人)とタイアップした上で、企業ブランドとのダブルネームで紅包を配ることも出来ます。こういった有名人とのタイアップによって、その有名人のもつファン層に効果的にアプローチすることもできそうです。
このように様々な形で利用できる紅包ですが、利用の際には、微妙な消費者心理を考慮することも必要そうです。紅包を配る際、金額(特に総額)があまりにも小さいと「しょぼい」と思われてブランドイメージには悪影響をもたらすリスクがある一方、無名のブランドが突如大きな金額を配ることで知名度アップを図ると、特に最近の若い消費者には「金満的だ」と嫌がられてしまう、という可能性もあるようです。
そのようなことを考えると、無論多くの例外はあるものの、正攻法としては、ある程度の知名度や信頼感のあるブランドが、伝統的な習慣に則ったプロモーションとして展開することで、より消費者に愛されるための手段とすることに向いていると言えそうです。その意味では、日本企業にも活用価値は大きいと思います。今年は中国のソーシャルメディア上で日本企業が紅包を配る姿を見ることは多くはありませんでしたが、来年以降、活用を検討する余地があるかもしれません。★
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