鳥巣知得 Onedot株式会社CEO


 

微信(WeChat)をソーシャルメディアと位置づける時、その中には主に三つの機能があります。一つは朋友圏(モーメンツ)、もう一つは訂閲号(購読アカウント)、そして服務号(サービスアカウント)です。

朋友圏(モーメンツ)は、主に個人が自分の友人に向けて、リアルタイムで情報共有するために、タイムラインに写真や文字を投稿できる機能です。訂閲号は、法人や個人が自分のアカウントのフォロワーに対して、毎日(1日1回)の情報配信をできるというものです。服務号は、配信できる回数は月に4回までと限られていますが、微信の決済機能などとも統合でき、より高度なものを提供できるようにした機能です。

これらのうち、朋友圏については微信の方針により、法人によるプロモーション目的の利用が厳しく制限されるようになってきました。現在では法人は、決められた広告枠への出稿のみに利用が限られます。また服務号は、情報配信回数が限られていることから、メディアとしてではなくカスタマーサポートツール等の目的で使う企業が多いようです。

そのため、企業が微信(WeChat)を使って消費者に対する情報配信を行うという場合には、訂閲号が第一の選択肢になることが多いと思われます。実際、日本企業の中でも、まずは訂閲号を立ち上げるというステップからソーシャルメディアへの取り組みを始める企業が多いようです。

この訂閲号に、最近数カ月で大きな変化がありました。訂閲号は、微信のメッセージボックスの中に専用のフォルダがあります。従来は、そのフォルダをクリックすると、ユーザーがフォローしている訂閲号の各アカウントの一覧が並ぶという仕様になっていました。アカウントを選ぶと、その中に最新の記事が表示される、という順番です(図❶)。

これが数カ月前から、訂閲号のフォルダをクリックするとアカウントの一覧ではなく、自分がフォローするアカウントの最新記事が時系列に並ぶという仕様に大きく変更が行われました(図❷)。

文章に書くと些細な変化のように見えますが、ユーザー体験上は非常に大きな変化が起きています。これは背景に、微信(WeChat)の運営主体による設計思想の大きな変更があると考えています。

変化の一つは、アカウント中心の設計からコンテンツ中心の設計への移行。これまでの訂閲号は、ユーザーはあくまでお気に入りのアカウントをまず指定し、その中で最新の記事をチェックしに行くという体験を前提にした仕様でした。

これが新しい変更後の仕様では、アカウントを横断して新規のコンテンツの一群がまずユーザーの目の前に現れます。その中で、ユーザーは内容の面白そうなものをクリックするという流れになっています。

これまではアカウント全体としてユーザーに支持されていれば自然とある程度の確率で読まれるはずだったものが、変更後の仕様では、個々のコンテンツが都度評価されることになります。逆に言えば、面白いコンテンツを作ることができれば、それまで支持の少なかったアカウントでもユーザーの注目を浴びやすくなったということです。

変化の二つ目は、コンテンツのビジュアル面の重視です。フォルダの中に新規コンテンツの一覧が並ぶことによって、ユーザーは個々のコンテンツから自分が読むべきものを短時間で判別する必要が出てきました。その際に判断基準となるものは、記事のタイトルだけではなく、記事に付せられた画像が大きな役割を担うことになります。

このディレクトリ型からタイムライン型への移行、およびコンテンツにおけるビジュアル面の要素の増大といった変化は、明らかに最近の抖音(tiktok)を中心とした動画系ソーシャルメディアの伸長に微信側が対応した結果だと感じています。

微信の訂閲号がこれまで提供してきた、「お気に入りのアカウントが発行する文章をじっくり読む」というユーザー体験だけでは、最近の、特に移り気な若いユーザー達の支持を失う恐れがある、もしくは失いつつあったということが背景にあるのではないでしょうか。

この変更は、アカウントを運営する企業にとって大きく二つの示唆がありそうです。

一つは、これから新しくアカウントを運営し始める企業、もしくは既に開始しているが未だ小規模に留まっている企業が、コンテンツの強化改善により、比較的成長を目指しやすくなるということです。

これまでの仕様では、どうしてもユーザーは大手の人気アカウントから順にチェックするため、ある程度の数の記事を読むとそれ以上は読まなくなってしまい、結果フォルダには大量の未読記事がたまる、ということになっていました。そのため人気のアカウントは継続的に大きなアクセスを享受しますが、比較的新しいアカウントがユーザーアクセスの拡大を狙うには、ハードルが高い状況にありました。

変更後の仕様では、まず個々のコンテンツがユーザーに評価されるため、現時点で小規模に留まるアカウントでも、一度フォローさえされれば、ユーザーの目を引くコンテンツを提供することによって、大手の人気アカウントよりも先にコンテンツを見てもらえる可能性が高まるということになります。

もう一つの示唆は、コンテンツのビジュアルを重視する必要性が高まってきたということです。現時点では、記事のトップ画像に指定できるのは静止画だけですが、近日中にはこれが動画も指定できるようになっていく可能性があります。そうなった際に、ユーザーの目を引く良質なビジュアルコンテンツ、動画コンテンツをいかに継続的に毎日の記事に掲載できるかということが勝負の分かれ目になる可能性が出てきています。

微信はメッセージサービスや決済サービスとしても利用されており、ソーシャルメディアとしても膨大な利用者を誇るプラットフォームです。今回の大きな変化に対応し、うまく微信上でのユーザー接点を拡大したいものです。

Onedot株式会社
中国と日本で育児動画メディア「Babily」を提供。育児に役立つ情報をスマートフォンで見やすい1分動画で制作・配信し、中国では育児動画メディアとして最大手