ソーシャルメディアの中では独特のコミュニケーションがしばしば作り出されます。新たな造語や複雑なニュアンスを含む言い回しなどが、日本のSNSの中でもよく見られます。それらはSNSごとにも異なるものがあり、同じSNSの中でもコミュニティごとに多様なものがありますが、その中のいくつかが広く浸透し、ほぼ普遍的・一般的なコミュニケーションの「新常識」となるものもあるようです。
中国のソーシャルメディアにおいても例外なく、そのような独特のコミュニケーションが多く存在します。本稿ではその一例として、微信(Wechat)と微博(Weibo)の絵文字が持つ驚くべき(?)意味をご紹介します(なお最初にお断りしておくと、ことの性質上、ここで紹介する「意味」も必ずしも中国人ユーザー全員に共通するわけではなく、あくまで、最近のユーザーの多くで通用する・このように感じられていることが多い、という類のものです。通じなかったとしてもお恨みなきよう…)。
図Aが微信(Wechat)の絵文字です。iPhoneやFacebookで日本人も見慣れている絵文字と雰囲気は大きく変わりません。
この中で最も気をつけるべきは最初に出てくる「(図1)」だと思います。
図1「Smiley face」
・元来の意味:優しく微笑んでいる。うれしい気持ちやポジティブな反応を示す
・最近の意味:目が笑っていない。うれしくない反応、なんとも言えない気持ち、「は?もう一回言ってみな」という感じのニュアンスを含むときすらある
・使用例①:
Aさん「あれ?あなた最近太ったんじゃない?」
Bさん「(図1)」
・使用例②:
(賛成できないことをしている人を念頭に置いて)「あいつだよ!(図1)」
・本当にうれしい気持ちやポジティブな反応を示したい場合は、(図2)のような絵文字を使った方が良いようです。
本来考えられていた意味と、ほぼ真逆に捉えられているわけですね…。私も会社のメンバーに指摘されるまで、文字通り微笑ましい気持でこの絵文字を使っていましたが、ある日真の意味を伝えられ、大変驚きました。
微信(wechat)の絵文字では、(図3)も注意すべき一つです。
図3「Byebye」
・元来の意味:お別れの際に手を振っている絵、バイバイ、という程度の意味
・最近の意味:(図1)と同じく目が笑っていない状態で手を振っている。もういいよ、そんな話は聞きたくない、「消えてくれ」というニュアンスを含むときすらある
・使用例:
Aさん「見てみて、私はなんてラッキーなんだろう、あの抽選に当たったよ!」
Bさん「ふーん。私は外れたよ(図3)」
・シンプルにさようなら、バイバイ、という意味を示したいときは、(図4)の絵文字を使った方が安全でしょう。
図4「Substitution-byebye」
同じような例が、微博(Weibo)の絵文字にもあります。図Bは微博の絵文字の2ページ目ですが、この中で犬の絵文字である(図5)や(図6)はなかなか複雑です。
図5「dog_s head-shiba」
図6「dog_s head- huskie」
・元来の意味:柴犬やハスキー犬の絵文字
・最近の意味:(図5)は、相手を小馬鹿にする意味合い。(図6)は、呆れた感情を示す。こちらも相手を馬鹿にしたニュアンス
・使用例:「この人の意見はすごくわかりやすいですね(図5)もしくは(図6)」
・特に複雑なニュアンスなく犬の絵文字を使いたい場合は、(図7)などを使う方が良さそうです。
図7「Substitution-dogs_ heads」
このようなニュアンスで使うことによって、他人から指摘される前に予防線を張る意図もあるようです。コメント欄で激しい意見の応酬がしばしば見られる中国のSNSならではのコミュニケーションです。
同じく微博(Weibo)の絵文字では、(図8)のようなものもあります。
図8「Leaf_Breeze」
・元来の意味:葉っぱの絵文字。そよ風が吹いていることを示すこともある
・最近の意味:不賛成の意を示す。対象の人や行為を好まない意図を言葉少なに表すニュアンス。
・使用例:「うーん・・あの人の印象はいまいちかな・・・(図8)」
いずれも絵文字をそのまま見ただけでは想像もつかないような意味ですが、最近のユーザーの間では(少なくとも、筆者の周りではかなりの割合で)通用しているようです。
いずれにせよ非常にハイコンテクストな世界であり、ただでさえその世界にどっぷり浸かっていないと正確なニュアンスを掴むのは難しいものを、外国人として理解することは困難を非常に難易度の高いものです。しかし、少なくとも自社サービスに関連するものや、日々の業務で目にしたものを知っておくことは重要と感じます。
ソーシャルメディアの特徴は、どこまでいってもユーザーとユーザーの間の個人的なつながりや、法人やメディアであっても個人と対等な立場でのコミュニケーションが重要なところにあります。本欄ではマクロなデータや、企業としての戦略論を話題に挙げることが多くありますが、こういった「柔らかい」話も同等に重要なトピックであると筆者は考えています。
こういったコミュニケーションは流行り廃りも激しいものであり、本稿の内容もいつまでどの範囲のユーザーに当てはまるかは怪しいかもしれませんが、空気の一端を表しているとは思います。読者の皆様も、中国ネイティブの方と「この絵文字ってつかって大丈夫?」と一言確認するだけで、「お、意外とわかっているな」と思ってもらえるかも?しれません。