鳥巣知得 Onedot株式会社 CEO


 

去る5月30日、「インターネット・トレンド2018」が発行されました[http://www.kpcb.com/internet-trends]。米国の著名ベンチャーキャピタルKPCBのパートナーであるメアリー・ミーカー氏が毎年発行している本調査レポートは、発行される都度、ネット界の話題をさらいます。前職モルガン・スタンレー社のアナリストだった時代の回から数えると既に23回目の発行となりますが、レポート中の、中国に関する情報の割合は年々増えているようです。

今回も、294ページにわたる全編の中で、中国に関する言及はいたる所に見られます。その中でも、本稿では中国のソーシャルメディアや動画といったテーマに特に関わりの深い部分について焦点を当てて紹介してみようと思います。

まずは目を引くのは、本編の中で独立して設けられた「China」パートの1枚目([図❶、本編237ページ])。“CHINA INTERNET = ROBUST ENTERTAINMENT + RETAIL INNOVATION”とあります。ここでの“ENTERTAINMENT”は、主に「動画」と「ゲーム」であることが、後になって示されます(なお、後半の“RETAIL INNOVATION”の部分も、本稿の読者の皆様には大変関心の深いテーマであると思われますが、そちらは別稿に譲ります)。

図1

この「エンターテイメント」の成長について、より俯瞰的な証左となるのが、中国モバイルインターネットにおけるデータ消費量のチャートです([図❷、本編243ページ])。チャートを見ると、2016年から明らかにシフトチェンジし、2017年には昨年の2.5倍程度にまで増えていることが分かります。実はこの一つ前のページには、中国のモバイルインターネットの利用者数の伸びが減速しているデータが掲載されています。この二つのデータは、合わせて見ると、中国のモバイル市場が、単純な利用者増加からリッチコンテンツによる一人あたりの利用データ増にフェーズが切り替わったことを示しています。中国でモバイルというと、まだまだ通信環境は貧弱なのではないか、という感覚を持つ方も未だ多いのですが、この1年で状況は大きく変わりつつあることが、このデータからも読み解けます。

図2

そして、その利用コンテンツの中身がうかがえるのが次のデータです([図❸、本編245ページ])。モバイルコンテンツの利用時間別の割合が示されています。こちらによると、16年から18年の間で、“Video”(動画)が大きく割合を伸ばしています(13%→22%)。モバイルコンテンツ全体の利用時間そのものが1.6倍程度になっているので、動画コンテンツの利用時間はこの2年で3倍近くになっている計算です。

図3

ちなみに最も大きな割合を占めるのは“Social Networking”(ソーシャルメディア)で、割合として減ったとはいえ、利用時間の絶対量はこちらも増えています。なお、音楽など他のコンテンツと比べて動画の成長が著しい要因の一つに、ソーシャルメディアとの相性がよい(もしくは、プラットフォームによっては、この二つがほぼ一体化している)という点も挙げられそうです。

そして、その「動画」の種類別に利用時間の推移をブレイクダウンしたものが、次のチャートです([図❹、本編246ページ])。ここでは、モバイル上の動画コンテンツが、“Long-Form Video”(5分以上の長尺動画)、“Short-Form Video”(5分以下の短尺動画)、“Live & Game Streaming”(ライブ動画)の3種類に分けられています。

図4

一つ目の長尺動画は、愛奇芸(iQiyi)や優酷(Youku)といったプラットフォーム上で楽しむ、オンライン上での映画やドラマなどが主になっていると思われます。従来より中国でも愛用されてきたもので、微増傾向にありつつ、依然として大きな時間を占めています。

二つ目の短尺動画は、チャート内でも17年初頭からの急激な伸びが目を引きます。17年開始時点では長尺動画の2割に満たなかった利用時間が、1年間で長尺動画と同水準にまで成長しています。これは、微博(Weibo)などの大手ソーシャルメディア上で短尺動画が大きく流通し始めたことや、抖音(Tik Tok)や快手(Kuaishou)といった短尺動画プラットフォームの急激な成長に依るところが大きいでしょう。

なお、定義の通り、短尺動画は一つ一つのコンテンツの利用時間は短いはずですから、全体として長尺動画と同水準の利用時間が消費されているということは、何倍もの種類や数のコンテンツが消費されている、と考えられることになります。

私の経営する育児動画メディアでもまさにこの波に乗ったこともこれまでの成長の要因だと考えており、こちらのデータで示されている17年からの急激な伸びや、コンテンツの利用される数・場所について、現地で事業に携わっている肌感覚とも合致していると感じています。

本チャートの三つめは、ライブ動画です。こちらも短尺動画とほぼ同じ時期から注目されていました。特に一部の著名な芸能人などが提供する番組で、瞬間的に大きなアクセスを集めたり、動画視聴と併せた物販が短時間で大きな売上を上げるなど、大きな話題を呼んできました。

一方、このようなデータで俯瞰的に見ると、ユーザーの利用時間ということでは実はあまり伸長していないようです。無論、今でも大きなイベントの際の実況中継や、ライブ動画(生放送)に注力している一部のKOL(中国版YouTuber)は未だに活況を呈しているようですが、やはり(こちらも定義の通り)視聴時間が特定の時間帯に縛られるという特性もあり、短尺動画ほど裾野が広く、身近なものになってはいないのではないか、というのが私の感覚です。

普段近くて遠いように感じられる中国市場も、このように俯瞰的なデータで見ていくことで抑えられる事実も多くありそうです。

なお、それ以外のテーマでも、中国インターネット企業が世界の中でどれほど存在感を増してきたのか、AIやECといった領域でどれほど先進的な取り組みが進んでいるか、といったテーマについて、本レポートには大変興味深いデータや事例が多く掲載されています。ご関心のある方は、本稿冒頭に記したKPCBのサイトからご一読をお勧めします。★

Onedot株式会社
中国と日本で育児動画メディア「Babily」を提供。育児に役立つ情報をスマートフォンで見やすい1分動画で制作・配信し、中国では育児動画メディアとして最大手