鳥巣知得 Onedot株式会社 CEO


 

中国と日本で育児動画メディア「Babily」を提供。育児に役立つ情報をスマートフォンで見やすい1分動画で制作・配信し、中国では育児動画メディアとして最大手

今月号から『国際商業』で連載を持たせて頂くことになりました。私が代表取締役を務めるワンドット社は、育児のノウハウ、育児用品や知育玩具の紹介、離乳食のレシピなどを、スマートフォンでも見やすい1分動画にまとめて配信するサービス「Babily(ベイビリー、中国名:贝贝粒)」を中国および日本で提供しています。中国では、2017年末にユーザーが250万人を超え、育児動画メディアでは最大手となっています。

中国で自らインターネットサービスを立ち上げ、運営してきた経験だけでなく、上海に住む一人のユーザーとしての視点から、現在世界で最もホットと言っても過言ではない、中国のソーシャルメディアや動画サービスについての情報をお届けします。第1回は、18年の年明け早々に中国で大きな話題を攫った「ライブクイズアプリ」について紹介します。

「ライブクイズアプリ(中国語では〝直播答題〟)」とは、スマホアプリ上で、ユーザー参加型のクイズ番組をライブ放送するもの。クイズには賞金が用意され、正解を続けたユーザー同士で総額を分け合うという形式です。解答を間違えても友人を招待すれば敗者復活できるといった機能により、口コミで急速に広まる仕掛けも備えています。

ライブクイズアプリは、17年11月頃から米国で盛り上がりはじめたところ、その僅か1カ月後の12月末には中国で複数のアプリがリリースされました。その後の2週間程度で、その一つである「冲顶大会」はアプリが500万回以上ダウンロードされるほどの人気となり、最大手になりました。ヒットの始まりは、1月3日にあるセレブが10万元という高額な賞金を用意してクイズを開始したこと。有名人による呼びかけと、高額な賞金という二つの要素によって大きく話題となりました。

さらに凄いのは、その後数日以内にこの「冲顶大会」と同様の機能を持つアプリが複数現れ、より高額の賞金(100万元のものも!)や芸能人をバンバン起用し、いずれも数百万のユーザーを抱える規模にまで急成長したことです。また、利用者数の急増を背景に、クイズ番組への企業スポンサーを獲得するプレイヤーも現れ、スポンサー費用が1億元を超えるものも出てきたことで驚きを呼びました。

その後、さらに数週間が経ち、一部のアプリは徐々に失速しつつあり「さすがに加熱しすぎだったのではないか」という声も聞かれ始めています。このライブクイズアプリ、確かに賞金による動機づけや、有名人の仕掛けといった「流行りモノ」としての側面も否めないのですが、中国でソーシャルメディアやマーケティングに関わる者として、幾つか重要な示唆があるように思います。

一つは、何よりその展開までのスピード感。このライブクイズアプリは米国で先行して流行していたものですが、その1カ月後には中国で複数の類似サービスがリリースされ、発信地の米国を超える勢いで大流行しているというのは、社会全体に起業家精神があふれていることを強く感じさせます。これをもって「いつもの中国のパクリではないか」という冷笑的な態度を取ることは簡単ですが、日本では米国での流行自体が一部メディアで伝えられたのが年末頃、立ち上がったサービスが(現時点では)大きく流行もしていない状況ですから、中国で活躍するビジネスパーソンのアンテナの感度が鋭いのはもちろんのこと、トレンドを把握してから実行するまでの力に、彼我の差を感じた次第です。

また、展開後の流行、すなわちユーザー間の伝播の早さも、現在の中国の状況を示している気がします。元々サービス自体が、ソーシャルメディアなどを活用したユーザー間の招待などを促進する特徴のあるものですが、それが短期間にこれだけ活用され、話題になるのは、中国のユーザーが世界一「ソーシャルメディア漬け」であることと無関係ではないでしょう。

そして何より、サービスが急激に立ち上がった後に、それをマーケティングに活用するスポンサーがすぐに現れたことがビジネス全体のスピード感、新しいものに対する柔軟性を示していると感じます。具体的な内容を見れば、このライブクイズアプリへのスポンサーシップによって企業は自社サービス自体に関するクイズを出すことができ、サービス理解を多くのユーザーに促すことができるようです。

また、ライブ放送であり、クイズの出題から解答まで画面を見続ける必要があるため、ブランドの露出・認知には非常に有利な形式であるとも言えます。ただの「流行りモノ」に乗っかっただけではなく、サービス側にも、スポンサー側にも、成果を見込む充分な算段のあった取引だったのではと思います。

中国での消費者マーケティングに向き合う者として感じることは、この国ではこのスピード感(サービス提供者側、消費者側、スポンサー側いずれにおいても)についていかねばならぬということです。無論、今回のケースではこのライブクイズアプリの流行が弊社の事業に大きな影響を与えるということはありませんでしたが、仮に隣接する領域であったとしたら、この波に乗り損ねることが大きな損失になっていた。ポジティブに言えば、上手く乗れれば急成長のきっかけとなっていた可能性もあるのではないか、と感じます。

ソーシャルメディアの話題には欠かないのが今の中国。次回以降も、刺激的なニュースをお届けします。★