博報堂生活綜研(上海)上席研究員
王 慧蓉(WANG KEIYOU/おう けいよう)


 

電子決済の普及による自動販売機利用が気楽に

紙幣を入れても入れても戻されてくる、コインを入れたのに品物が出てこない、お釣りがちゃんと出るか心配なので利用するのを諦めよう……。このように自動販売機を敬遠するシーンはつい最近まであったようですが、電子決済とIoT技術(Internet of Things=モノとネットの連動)の急速な普及によって、状況がガラッと変わりました。

街のいたるところで自動販売機が増加(著者撮影)

利用者はスマホで自動販売機のQRコードを読み込むと、簡単に支払うことができます。支払い履歴や品物の在庫状態も全てデータベースに保存されますので、品物の補充やトラブルの検知なども随時対応できて、生活者にとっても安心して使えるようになりました。


街のいたるところで自動販売機が増加(編集部撮影)

若年層に好まれる「セルフサービス」

生活綜研(上海)の独自調査(北京・上海・広州、20〜59歳の男女1440人)で、スーパーやレストランの「セルフ注文」「セルフ決済」などのセルフサービスの利用意向について尋ねました。結果を見ると、20〜30代の若年層の多くは「セルフサービス」を好む傾向が分かりました。周りの若者にその理由を聞くと、利便性や時間の短縮だけではなく、単純に店員との交流の必要が無くなるため「気楽でいい」と答える人も多くいました。

今まで自動販売機は、道端や地下鉄の構内、オフィスや工場の休憩室など、店員のいないところに設置されることが多かったのですが、最近は店員のいるコンビニやレストランの中でも、よく見かけるようになりました。購買行動の変化に適応した新しい接客スタイルと言ってもよいかもしれません。

「体験マシン」「インタラクティブマシン」としての期待

さらに、テクノロジーを搭載する自動販売機は、モノを売る単一機能のマシンではなくなっています。写真を撮ると、自動販売機のパネル上に様々な商品を試用・試着したイメージが映し出されたり、自動販売機のパネルに表示される質問に答えると、今の気持ちに合わせてお薦め商品を提示されたり、自動販売機はどんどんゲーム感覚で楽しめる体験型マシンになっています。

自動販売機で買い物を楽しむ親子(中国上海、編集部撮影)

一方、企業にとっては、自動販売機はプロモーション効果が期待できる販売手法となっています。あるデパートの入り口に設置されている自動販売機は口紅サンプルを格安金額で提供しています。サンプル品を購入するには、メーカーの微信(WeChat)のQRコードをスキャンし、オフィシャルアカウントをフォローする必要があります。微信オフィシャルアカウントの中の買い物入り口から進まなければなりません。企業と潜在ユーザーをつなぎ、オンラインとオフラインを融合させることは、自動販売機で実現されている気がしました。自動販売機が販売という限定された機能に留まらず、これからメーカーにとって、販売や商品への理解促進、顧客とのインタラクティブな関係づくりなど、ブランドイメージの形成と強化に役立つブランディング効果も期待できると思います。


王 慧蓉(WANG KEIYOU/おう けいよう)
中国上海市出身。上海外国語大学英文学部を卒業。ロンドン都市大学MBAを取得。 メーカーのインハウス調査部門、市場調査専門会社を経て、博報堂生活綜研(上海)に入社。課題の把握やソリューションの提案などの経験を持つ。中国、日本、イギリスでの在住経験を活かして、物事を多角的に捉えるのが得意。角度を変え、新しい側面を見つけたときの「アハ」の瞬間を求め、常に脳の体操をし続けている。