博報堂生活綜研(上海)総経理/主席研究員
鐘 鳴(しょう・めい)


 

13億の人口を抱える中国でも少子高齢化が進んでいるという報道が多く、世論の主流となっていると感じる。一方で、「一人っ子政策」の是正についての議論はようやく落ち着いたようにも見える。国連の予測によると2020年までに、中国の65歳以上の高齢者人口は1億6700万に達し、世界の高齢者総人口の約24%を占めることなるという。

その対応策として、16年元日、34年間実施されてきた一人っ子政策にようやく終止符が打たれることになった。一人っ子政策の影響が色んな側面で議論されているが、特に「421家族(祖父母4人、夫婦2人、子ども1人)」という現象は、中国の家庭構造として一般的となっている。最近、大都市に暮らす「421家族」の若い夫婦が「年老いた両親の面倒をみられない」という憂慮だけではなく、「子育てにはどこまでお金をかければよいか」という現実的な問題に直面している。

中国国家統計局の発表によると、17年新生児の数は1723万人となり、うち「二胎(2人目の子供のこと)」の割合が51%を占め、前年比10%増となっている。それに伴い、「二胎」関連の家庭消費が更に活性化すると期待されている。実際に、粉ミルクや衣服、ベビー用品、早期教育関連などの広告宣伝が盛んになり、テレビCMや屋外看板、ウェブ広告などもよく見掛けるようになっている。子ども関連消費の活発化を実感できる。

一方、今まで消費を牽引してきた先進的な消費価値観の持ち主とも言われる若年層世代(主に80后、90后生まれの世代)が、ライフステージとして結婚や出産を迎える年齢となっているため、彼らの消 費行動が確実に市場に影響を与えることになると考えられる。

特に、彼らの消費意識が子どもの誕生によってどのように変化するのか、多くの企業マーケティングの関係者が強い関心を寄せている。そのための確認も兼ねて、弊社オフィスで働く現地の社員達にも聞いみたのだが、「不能輸在起跑線上(日本語訳:人生のスタートラインで他人に負けてはいけない)」というフレーズが、いまだ健在なことに少々驚いた。過去、ネット上でも騒がれて一時的に大きな話題となったこの言葉が、若い夫婦層の間ではまだ影響が残っているようだ。

中国上海市にある幼稚園児向けの早期教育施設(英語レッスン)

同僚の男性研究員である包さんの場合は、生後4カ月の息子のためにすでに赤ちゃん向けのオモチャの遊び方、スイミングスクール、発声練習などの複数の乳幼児向けの教室に申し込んだといっている。他の多くの80后夫婦と同じように、平日は夫婦共働きのため、子どもの面倒は夫婦双方の両親に任せている。週末には、妻と二人で赤ちゃんを連れて、近場のショッピングモールに出かけ、子ども向けの各種教室に通うことがお決まりの行動パターンとなっている。

包さんは、今まで仕事から解放される週末になると、趣味のパソコンゲームとジムでのトレーニングに夢中になることが最大の楽しみだった。しかし、若い夫婦二人としては、もっと遊びたい気持ちがあるものの、子どもが生まれて以来、子育てに時間を費やさなければいけなくなり、状況が大きく変わったともいえる。

「子どもが大きくなるに連れ、週末に行う子育ての内容がもっと増えるに違いない」と自慢げに包さんは語る一方、教育熱心の妻の影響もあって、当面は夫婦二人で力を合わせて子育てに専念しなければいけないのが現実だろう。

また、時間だけではなく、子どもの早期教育のための費用と手間を考えれば、想像以上に負担となっていることも分かった。乳幼児向けの教室の入り口で待っている多くの若い夫婦の姿を見て、今時の親達の愛情と責任感が感じられる一方、本当にそこまでやる必要があるのかとも考える彼らの葛藤も想像できる。

他にも、自宅やレストランなどの公共の場などでは、スマートフォンやタブレットPCを子どもに与えて、一人で静かに遊ばせている若い夫婦が少なくない。キッズスクールや習い事教室の費用を節約するためにデジタルデバイスを積極的に取り入れて活用している家庭も多い。確かに幼い子どもにデジタル機器を触れさせることは良くないと考える人もいると思う。しかし、生活者の利用実態として確実にこのような状況が増えていると実感できる。

18年5月実施の博報堂DYメディアパートナーズの「子供のデバイス利用状況 ~ 中米日三ヵ国比較調査(※)」の結果によれば、「デジタルデバイスは子供の教育にとって欠かせないものだ」と答える人の割合が中国は最も高く、続いて米国、日本という順。特に、乳幼児(0~2歳)の子供にもデバイスが必要と回答する人が、日本より中国と米国がずっと高い数値となっていることが分かった。

すでにデジタルライフが進んでいる中国市場では、今後、AI技術やデジタル機器の進化に伴って、子供の消費市場の更なる活性化と拡大が見込めると同時に、消費市場の全般を押し上げる経済成長の原動力になるだろうと予測できると考える。

(博報堂生活綜研(上海)http://www.shenghuozhe.cn