博報堂生活綜研(上海)上席研究員
王 慧蓉(WANG KEIYOU/おう けいよう)
■「親の「活発的な活動」を子は前向きに評価
中国の公園や広場に定年退職後のお年寄りの方が多く集まり、大音響に合わせて踊る「広場ダンス」。日本のメディアにもレポートされたほど、シニア層の「活発的な日常行動」が目立つと言われています。「公共の場でダンスするのは恥ずかしくないのか」「音楽を大音量で流すのは、近所迷惑だ」といったネガティブな意見が多いにもかかわらず、広場ダンスの規模は縮小する気配が全くないと感じています。
「広場ダンス」をやっているお年寄りについて、その子供たちはどう思っているのか。「恥ずかしいから、やめて!」と親に言う人がいないのかな、と個人的に気になっていたため、数人の知り合い(30代)に聞いてみたところ、予想外にもポジティブな回答が多く、驚かされました。
「(広場ダンスの方が)体を動かすから、一日中座って麻雀をやっているより、余程健康にいいではないか」
「親が楽しんでいるし、自由にやらせればいいじゃない。これこそ、親孝行だよ」
と口をそろえて語っていました。
「なるほど、親孝行なのか!」。確かに、その意味でいうと、親に自分らしい趣味を見付けてもらい、自由に楽しめる時間を与えることは、今時の「親孝行」の定義になっているようです。
中国の家族意識において、頼り合うという関係は一般的に知られていると思います。親は子供の結婚、育児の面倒を見る。子供は親の介護など、老後の面倒を見ます。論語に「父母在せば遠く遊ばず」という教えがあるように、中国では昔から、親の傍にいる、親の言うことを聞くことは「親孝行」であると認識されています。
しかし、近年、地方の若者が都市部に働きに出る人の数と、都市部の若者が休暇を利用して海外旅行をする人の数から見ると、「子供は親の傍にいない」「親を最優先にすることができない」といった現状がうかがえます。
近年の親子関係には、子供の独立性を育てるには、親から子供に自由を与えるべきだと強調される場合が増え、それが影響しています。一方で、子供から親に自由を与えることも同様に重要ではないでしょうか。親にやりたいことや好きなものを見付けてほしい、毎日楽しく過ごしてほしい。そんな「親思い」には、子供が傍にいなくても、親が充実した暮らしを送れる「新しい親子関係」が望まれていることも読み取れます。
■「経済力の向上で「親孝行消費」も変化
親子関係の変化によって、「親孝行」も多様化しています。親の肩をもんであげるような、従来の形にとらわれていません。特に、親にプレゼントを贈る「親孝行消費」は中国生活者の経済力の向上に伴って、拡大していることが注目されています。
生活綜研(上海)の独自調査(北京・上海・広州、20〜59歳男女、1440人)の結果を見ると、母親へのプレゼント品でトップ3は「化粧品・スキンケア」「服・かばん・靴類」「花」になっています。親孝行の定番品である「食品・栄養食品・健康食品」が上位にランクインしない、ちょっと意外な結果でした。親に「長生きして欲しい」だけではなく、「キレイで、カッコ良くて、毎日楽しく居て欲しい」という子供たちの気持ちが現れているのでしょう。
また、「商品券・現金・電子マネー」を贈る人も少なくないという傾向もあります。これは、もちろん、この2〜3年、「微信支付」や「支付宝」といった電子マネーの普及が関係していると思います。現金や銀行送金でお金を渡すより、気軽に縁起の良い数字(中国の風習では、末尾の数字に8が付くと縁起が良いと言われる)で、小さい額でも送れることと、現金を手渡すきまりの悪さ、気恥ずかしさ、そして送金の不便さも解消されて、利用しやすくなっています。それに、親に自分が好きな物を選んで、自由に使って欲しいという気持ちも含まれていると考えられます。
なお、親に掃除代行サービスやシニア層向けの旅行パッケージなどをプレゼントする人も増えているようです。親に対して、経済の自由、時間の自由、行動の自由を与えたい気持ちが上昇気流となり、現代中国の「親孝行」の新しいトレンドになりつつあると思います。★
王 慧蓉(WANG KEIYOU/おう けいよう) 中国上海市出身。上海外国語大学英文学部を卒業。ロンドン都市大学MBAを取得。 メーカーのインハウス調査部門、市場調査専門会社を経て、博報堂生活綜研(上海)に入社。課題の把握やソリューションの提案などの経験を持つ。中国、日本、イギリスでの在住経験を活かして、物事を多角的に捉えるのが得意。角度を変え、新しい側面を見つけたときの「アハ」の瞬間を求め、常に脳の体操をし続けている。 |