今回、花王サロンジャパンの設立によって、花王は大きく三つの手を打ってくると予想される。
一つ目は、花王の独自技術により開発された製品をゴールドウェルからプロフェッショナル業界へ供給。もう一つが流通の再構築。三つ目がプロフェッショナルケアへの新ブランドの投入である。
製品的には、花王は富士フイルムと共同で開発した「レインボー染料」を使った「Pure Pigments」を欧州においてゴールドウェルブランドで展開している。レインボー染料には富士フイルムの写真感光材料技術が活かされており、「Pure Pigments」はこれまでのヘアカラー剤よりも鮮やかな発色を実現しているプロダクトだ。
製品詳細は、他に譲るが、端的に記すと、髪の動きや光の入射角度に応じて、色相が無数に変化する多次元的な発色に最大の特徴がある。この特徴を言い表すカラーモーフィングなる造語(#colormorphing)をつくった。若年層を中心にインスタグラムで急速に拡散させているが、現状、そこまで大きな動きにはなっていないようだ。
しかし、通常のカラー剤とは別カテゴリーのファッションアイテムとして認識される可能性すら感じさせる。日本では市場投入が遅れ、2020年の発売が見込まれているが、もしこれが実現すると、ヘアカラー市場の勢力図を一気に変えるほどのポテンシャルを秘めているといわれている。
二つ目の流通再構築であるが、ゴールドウェルは9月1日よりディーラー最大手のガモウとの取引を開始する。現状30数社の代理店と販売契約を結んでいるが、一部既存代理店との契約を解除しているとの情報があり、今後の製品供給に関して、美容室の現場がかなり混乱している。「既存代理店を整理して流通を絞ってくる可能性がある」(ある代理店幹部の談話)との見方が有力だ。
さて、三つ目の新ブランドの投入であるが、昨年末、花王は米国の高級ヘアケアブランド・オリベ(Oribe Hair Care)を推計450〜500億円で買収している。
オリベは日本であまり馴染みがないが、米国内では、プレミアムケアブランドとして有名で、売上げは1億ドル(111億円)程度。北米では「ケラスターゼキラー」の異名をとるが、50ドル~100ドルといった価格帯からそういわれているに過ぎず、実際はサロンの中でケラスターゼの棚と併存しているケースが多い。
このオリベは設立が2008年と若い会社で、1億ドルブランドになるのに10年かかっていない。ラグジュアリー・ブランド・パートナーズとういう投資ファンドがバックについたことが、急成長の一要因といわれる。
オリベは昨年、日本の代理店数社と接触を持ち、日本での商品供給ルートがほぼ決まったという情報もあったが、花王の買収後、この話は雲散霧消状態で、その後、どうなったのかよくわからない。ただし、ここへ来て、花王サロンジャパンから、かなり早い時期(2019年春頃か?)にオリベを日本でローンチするとの情報が流れている。プロダクトの処方設計は最初から世界展開を視野に入れているから、いつ日本市場にローンチしても驚きはない。
そもそもオリベは2011年頃より花王USAのサロンデビジョンのトップを務めるコーリー・カウツと接触。カラー製品がないオリベは、ゴールドウェルと補完関係になれることを早くから意識していた。花王は、オリベを愛用するトップスタイリストのネットワークを通じて、ゴールドウェルのブランドイメージアップが図れる。一方、オリベは、花王の保有ブランドであるゴールドウェルとの協力により、世界展開をスピーディーに進められる。
花王はオリベのグローバル展開で、高級価格帯のブランドポートフォリオにおける確固たるプレゼンスの確立を目指している。日本にオリベが入ってくると、ブランドのプレミアム性からいって、ソールエージェントによる専売、もしくは代理店数社による独占販売などの形態が濃厚だと思われるが、今回のゴールドウェルの流通再構築は、じつはオリベ導入の露払い的な意味合いも強い。
美容アナリスト・桐谷玲(第3回に続く・8月28日に公開予定)