ライオンは、口腔疾患の予防には、従来の「プラークコントロール」に加えて、「口腔内細菌叢(口腔環境に生育する細菌の集団のこと。以下、口内フローラ)」をコントロールし、「菌バランスを整える」ことが重要だと考え、研究を進めている。今回、「ナイセリア属細菌」などの口腔内細菌が亜硝酸を代謝することで、歯周病関連細菌の増殖を選択的に抑制することを見いだした。

同研究成果は、「口腔内の菌バランス」を整えて歯周病を予防する新しいケアの考え方に役立つ重要な知見であり、5月22~23日に静岡県・アクトシティ浜松にて開催された「第69回春季日本歯周病学会学術大会」で発表した。発表演題は「口腔細菌の亜硝酸還元による歯周病原細菌の抑制」。

むし歯や歯周病を防ぐには、歯みがきなどで汚れ(プラーク)を落とす「プラークコントロール」に加えて、「口腔内の菌バランス」を整え、病気になりにくい口腔の環境をつくることが重要だと考えられている。口腔内には数百種類以上の細菌が棲みついており、バランスが崩れると歯周病などのリスクが高まる。

近年、「口腔状態が良い人に多い細菌」に注目が集まっている。こうした細菌の中には、亜硝酸を代謝する細菌が存在し、その代謝の過程で産生される代謝物によって、一部の細菌の増殖を抑える可能性があると報告されている。

そこで同社は、口腔内細菌の中から、亜硝酸を代謝する細菌を選定し、実際にその働きが歯周病関連細菌の増殖を抑えるかを検証した。研究の結果、二つの成果を得た。

1.「ナイセリア属細菌」は、亜硝酸を代謝する力(亜硝酸還元活性)が特に高かった

口腔内細菌の中から、亜硝酸の代謝に関連する遺伝子を持つ候補細菌12種を選び、亜硝酸の代謝量(亜硝酸還元活性)を比較した。その結果、「ナイセリア属細菌」が亜硝酸を特に多く代謝し、高い亜硝酸還元活性を示すことが分かった(図2)。

2.「ナイセリア属細菌」と亜硝酸が共存する環境下では、歯周病関連細菌の増殖が選択的に抑制された

亜硝酸を特に多く代謝した「N.subflava(以下、ナイセリア)」と、P.gingivalis(歯周病原細菌)(※1)を一緒に培養し、条件の違いによる歯周病原細菌量の変化を調べた。その結果、ナイセリアと亜硝酸が存在する条件下で、歯周病原細菌の増殖が抑えられることが分かった(図3)。

さらに、F.nucleatumなどの歯周病関連細菌を含む複数の細菌種が、バイオフィルム(細菌のかたまり)を形成する条件下(※2)で実験を行った。結果、ナイセリアと亜硝酸を含む条件下では、P.gingivalis(歯周病原細菌)と歯周病関連細菌であるF.nucleatumの量が減少することを確認した。一方で、V.parvulaの量は減少しなかった(図4)。

また、バイオフィルム中の菌バランスを確認すると、P.gingivalisおよびF.nucleatumが占める割合が有意(※3)に減少することを確認した(図5)。この結果は、ナイセリアが亜硝酸を代謝することで、歯周病関連細菌を選択的に抑制することを示唆している。

以上の結果は、「ナイセリア属細菌」などの口腔内細菌が亜硝酸を代謝することで、歯周病関連細菌の増殖を抑え、「口腔内の菌バランス」を整えることを示唆している。このことから、「ナイセリア属細菌」が歯周病予防に役立つ“口腔内の善玉菌”である可能性が示された。

ライオンは、口腔トラブルを繰り返さないためには、原因細菌を一時的に除去するだけでなく、口腔内に存在する細菌全体のバランスを整える「菌バランスコントロール」が重要であると考えている。今後も、「口腔内の菌バランス」に着目した新たな視点での予防法の重要性を踏まえ、口腔からはじまる全身の健康増進に貢献していくとしている。

研究メンバーの一人である九州大学大学院 歯学研究院 口腔保健推進学講座 口腔予防医学分野 竹下徹教授は、以下のようにコメントを寄せた。

「私たちはこれまでの疫学調査で、口腔の健康な方の口内フローラでは誰もが保有する常在細菌の一つであるナイセリアが優勢な傾向にあることを報告してきました。今回の研究は、このナイセリアが亜硝酸還元を介して歯周病関連細菌の増殖を選択的に抑えることを示すものであり、本菌の口腔の健康増進への関与を示唆する重要な成果だといえます。

歯みがきや殺菌剤で細菌を減らすことは口腔の健康を守るうえで極めて有効ですが、口腔の中から細菌が完全にいなくなるわけではありません。しばらく経つと病気に関わる細菌も含めてまた増えてきてしまいます。一方、ナイセリアのような常在細菌を上手に活用すれば、歯みがきと歯みがきの間も良い口内環境を保つ手助けができるかもしれません。口内フローラの常在細菌の力に注目したアプローチが、新たな口腔の健康管理方法の一つになることを期待しています」

 

※1:歯周病に関わる細菌の代表菌種であるPorphyromonas gingivalisは歯肉に炎症を引き起こすだけでなく、口内フローラの乱れを引き起こすキーストーン細菌としても報告されている

※2:P. gingivalis(ATCC 33277)、F. nucleatum(ATCC 23726)、P. intermedia(ATCC 49046)、Actinomyces sp. strain MG1(ATCC 43146)、V. parvula(ATCC 17745)、S. oralis(ATCC 9811)の6細菌種を嫌気条件下で1日間培養してバイオフィルムを形成。

※3:亜硝酸、ナイセリア未添加群と比較したSteel検定においてp<0.05を示した。