ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、皮膚の糖化研究を進め、角層の細胞間接着構造「コルネオデスモソーム」の主要構成因子、デスモグレイン1が糖化されていることを発見した。デスモグレイン1の糖化は、角層剥離異常の一因となる可能性がある。

角層細胞同士を接着するコルネオデスモソームは、角層剥離に重要な構造だ。ポーラ化成工業は、コルネオデスモソームケアの重要性に従来から着目してきた。今回新たに明らかにした糖化デスモグレイン1に関する知見は、コルネオデスモソームが適切なタイミングで切断される仕組みを理解する上で重要な手がかりとなる。これら一連の研究は、健全な角層の形成・維持に関わる。デスモグレイン1の糖化を防いで角層剥離を正常化することは、やわらかな角層を育み、肌内部のハリを実感しやすくする、新たなアプローチになると考えられる(図2)。

ポーラ化成工業では、長年にわたり皮膚中のタンパク質の糖化を研究してきた(図3)。糖化研究の新たな知見となる同研究の一部は、2025年9月10~13日に開催された第56回欧州皮膚研究学会(European Society of Dermatological Research)で発表された。

角層は、角層細胞が積み重なって形成される皮膚の最外層であり、角層細胞どうしは、細胞をつなぐ役目のタンパク質複合体「コルネオデスモソーム」によって互いにつなぎとめられている。角層の成熟過程では、コルネオデスモソームが酵素によって段階的に切られることで、最表層の角層細胞が剥がれ、皮膚のターンオーバー(表皮で新しい細胞が生まれ、角層で古い角層細胞が剥がれ落ちるまでの、細胞の入れ替わりのこと。またその周期)が保たれる。しかし切断が不充分だと、角層は剥離せず過剰に積み重なってしまう。角層が重層化し、肌の表面が厚く硬くなると、内側からのハリや弾力の向上を実感しにくくなると考えられる。

皮膚では、紫外線のような外からの刺激や年齢の影響でさまざまなタンパク質が糖化し、構造や性質が変わることが知られている。

このことから、コルネオデスモソームも糖化され、切断されにくくなる可能性があると考えた。研究の結果、角層のコルネオデスモソームの主要構成因子「デスモグレイン1」が、生体内で糖化されていることが観察され、糖化したデスモグレイン1は、角層の表層から深くまで広く存在することが明らかになった。

研究では、生体内で角層のデスモグレイン1が糖化されていることを直接的に検証した。ヒトの角層細胞を溶かした液から、デスモグレイン1を分離した。次に、デスモグレイン1の分離液を用いて、糖化したタンパク質を検出する試験を行ったところ、糖化の反応が確認された(図4)。このことから、ヒト角層でデスモグレイン1が糖化されていることが示唆された。

また健常なヒトの頬部から、異なる深さの角層を採取し、デスモグレイン1の糖化を観察した。いずれの層においてもデスモグレイン1と糖化タンパク質が同じ部位に存在しており、デスモグレイン1が糖化されていることが示唆された(図5)。デスモグレイン1の糖化は角層の表層だけでなく、より深い層でも見られ、角層剥離の異常に影響する可能性がある。

さらに、角層の表層において、デスモグレイン1の糖化の度合いと分布の関係を調べた。あまり糖化していない角層では、デスモグレイン1は細胞の辺縁部にのみ存在しており、デスモグレイン1の切断が適切に進んでいることが見て取れた。

一方、糖化が進んだ角層では、細胞の中心部にかけてもデスモグレイン1が残っており、細胞どうしのつながりが保たれたままだと考えられた(図1)。このような違いから、糖化したデスモグレイン1は酵素で切断されにくくなること、またその結果として古い角層がはがれ落ちずに積み重なり、重層化することが推察される。

コルネオデスモソームが適切なタイミングで切断されるには、デスモグレイン1の糖化を予防することが重要だと考えた。そこで糖化を予防する植物エキスを探索した結果、ワイルドタイムから抽出されたエキスに高い予防効果を確認した。ワイルドタイムエキスには、糖化を予防する効果が期待できる(図6)。