ポーラ化成工業は、2025年9月15~18日にフランス・カンヌで開催される第35回IFSCC世界大会のポスター発表部門において、ミラースキン™をより本物の皮膚に近い構造へ進化させ、化粧品評価に最適な構造に改良することに成功した研究成果について発表した。
IFSCC世界大会は、世界中の化粧品技術者・研究者にとって最も権威のある学会で、最先端の化粧品技術が披露される。応募論文はIFSCCの厳正な審査を受け、選ばれたものだけに発表が許される。
発表論文は「本物の肌をより完璧に再現 進化した皮膚オルガノイド~究極のテーラーメイド化粧品を目指して~」。英文名はAdvanced skin organoid that perfectly mirrors real skin~The evolution of an innovative skin model to develop the ultimate personalized cosmetics~。
ポーラ化成工業では、一人一人の皮膚の個性に対応する「究極のテーラーメイド」化粧品の提供を目指し、その人の皮膚を体外で忠実に再現した皮膚オルガノイド(実際の臓器や組織を模倣した3次元の小さな臓器様の構造。幹細胞を3次元で培養し、細胞の自己組織化により構築する)である“ミラースキン”の作製に取り組んできた。ミラースキンは、個々人の細胞からiPS細胞(さまざまな細胞に分化することのできる人工的に作製された多能性幹細胞。体の細胞から作ることができる)を作り、適切な環境で分化させて作られる。24年のIFSCC世界大会では、ミラースキンは、紫外線に対する反応の強さが細胞提供者の肌と相関することを発表し、最優秀ポスター賞を受賞した。
しかし、当時のミラースキンは球状で、本来ならば肌の表面にある表皮が内側に入った「表皮が内、真皮が外」の構造だったために、表皮側から化粧品成分を塗布するなどの実験に用いにくいという課題があった。
そこで同研究では、ミラースキンの平面化に挑戦。培養方法を改善していくことで、本物のヒト皮膚のように表皮を外側にした平面構造のミラースキンを作製することに成功した(図1)。
平面化に成功したミラースキンは、アップデートモデルとして“ミラースキン2.0”と名付けた。ミラースキン2.0は、既存のミラースキンと同様に表皮・真皮・皮下脂肪の3層からなり、皮膚の色素を作るメラノサイトや毛包も含んでいる。さらに、肌のバリア機能において重要な役割を担うタイトジャンクション(細胞同士を接着する構造。皮膚の最外層である表皮に存在し、外部からの刺激物の侵入を防ぐ。密着結合とも呼ばれる)が、皮膚での物質の透過を抑制する機能を発揮していることが確かめられた。
ミラースキン2.0は構造・機能の両面でヒトの皮膚をリアルに再現していることから、化粧品のパーソナライズ化を進化させる技術の中心的存在となるだけではなく、皮膚を対象とした研究や産業など、幅広い分野で活用されることが期待できる。
構造:ミラースキン2.0の構造はヒトの皮膚に極めて近い
同研究で作製されたミラースキン2.0の構造を観察したところ、表皮が外側、真皮が内側の平面構造となっていた。表皮が表層に出ているため、実際の化粧品使用時と同じように表皮側に化粧品成分を塗布することができる。さらに、表皮基底層にはメラニン色素を作る細胞「メラノサイト」が存在していた(図2)ことから、将来的にはシミを再現したミラースキンなどの作製も可能と考えられる。
ミラースキンは一人一人の異なる遺伝子を反映しており、その人の肌悩みの原因や改善メカニズムを探るための皮膚モデルとして活用することができる。
機能:ミラースキン2.0は機能面でもヒトの皮膚を再現している
次に、ミラースキン2.0がヒトの肌と同等の機能を持っているかを調べることとした。ここでは特に、皮膚の重要な機能であるバリア機能に注目し、タイトジャンクションの機能について調べた。タイトジャンクションは隣り合う細胞の細胞膜同士をジッパーのようにつなぎ止め、細胞間の隙間を閉じて物質の流れをせき止める役割を持っている。そこで、試験にはタイトジャンクションが正常に機能していると、それより下層には透過しない試薬を用いた。ミラースキン2.0の表皮にこの試薬を滴下したところ、タイトジャンクションが存在する層よりも下層に浸透しなかったことから(図3)、バリア機能が発揮されていることが確認できた。
この結果から、ミラースキン2.0は化粧品の塗布に最適な構造をしているだけでなく、ヒトの皮膚と同じようなバリア機能を持ち、化粧品の評価方法の一つである皮膚透過性試験などにも利用できる可能性が示唆された。
ポーラ化成工業はミラースキンを皮膚科学分野のコア技術とし、今後も新技術の開発や活用に注力していくとしている。