資生堂は、東京農工大学 大学院工学研究院 応用化学部門 教授 稲澤晋先生との共同研究により、世界で初めて、ミネラルサンスクリーン(ノンケミカルサンスクリーン)処方において、紫外線散乱剤が肌の上で最適な分散状態に変化する技術を開発した。なお、世界初なのは、紫外線散乱剤のみで紫外線防御効果を担保する処方について、塗布後に揮発性成分が揮発することによって粉末の分散性が向上する技術である(クラリベイト調べ 2024年8月)。
この技術により、高い紫外線防御力を発揮しながら、透明で均一な防御膜を形成する新しい日焼け止め製剤を提供することが可能になった。これまでミネラルサンスクリーン処方の課題だった塗布後の白浮きを軽減させ、紫外線散乱剤が肌のキメまでムラなくフィットするため、紫外線防御力は本技術未搭載の場合と比較して最大2.2倍を実現した(同一の紫外線散乱剤を配合した処方において、機器測定による自社試験法で紫外線防御力を本技術の有無で比較)。
また本技術は、日焼け止め製剤の開発において、従来タブーとされてきた「凝集」状態(紫外線散乱剤の粒子が集まって繋がった状態)をあえて使い、肌の上で均一な分散状態へと徐々に変化させることで実現される。一般的に「凝集」状態は、紫外線防御力の低下と「白浮き」の問題が生じ、機能が低下するため敬遠されていたが、逆転の発想により日焼け止め技術の新たな価値へと転換することができた。
なお、この画期的な研究成果は、化粧品技術に関する世界最大の権威ある研究発表会IFSCCの口頭発表応用部門で最優秀賞を受賞し、次世代の化粧品技術として高く評価された(23年9月4~7日に開催された第33回国際化粧品技術者会連盟バルセロナ大会 2023で最優秀賞を受賞。IFSCC Magazine 2024, 26, 4, 279 286に掲載)。また、その基礎研究の成果はアメリカ化学会「Langmuir」誌(24年10月11日付)にも掲載された(Langmuir 2024, 40, 42, 22424-22432, https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.4c03285)。

凝集した紫外線散乱剤が分散していく様子 (時間とともに左→右へ変化)
紫外線散乱剤はたくさん配合すると紫外線防御力は高くなるが、肌が不自然に白浮きしやすくなる。一方で、濃度を低くすると白浮きは防げるが紫外線防御力は低くなるというジレンマが存在した。同社はこの課題に対処し、生活者の多様なニーズに応えるべく、紫外線散乱剤のみを使用したミネラルサンスクリーンにおける新しい製剤技術の開発に取り組んだ。仕上がりは透明な素肌のままに、しっかりと紫外線ケアができる新発想のミネラルサンスクリーン製剤を目指した。
次世代ミネラルサンスクリーン技術は、肌に塗布すると、凝集していた紫外線散乱剤が肌の上で均一な状態へと自発的に変化し、肌の形状に合わせて透明な均一膜を形成する、新たな日焼け止め技術だ。その特長は二つある。
1.肌への塗布後、空気に触れることで分散状態が変化する現象を発見
成分の一部が空気に触れて揮発するという変化をきっかけにして、凝集していた紫外線散乱剤が自動的にほどけて、均一に分散していく。時間の経過とともに、塗布した膜の見た目は白く濁った状態から透明な状態へと変化し、同時に紫外線防御機能も上昇していく。成分の種類や量の調節によって、この変化が起きる時間をコントロールすることも可能だ。
2.逆転の発想で紫外線散乱剤を凝集させた設計
従来は、処方の中で紫外線散乱剤を均一に分散する工夫が行われてきたが、粒子が流動しやすいため、肌のキメに流れ落ちる現象(キメ落ち)が起こると、紫外線防御機能低下の一因となることもあった。紫外線散乱剤を凝集させておくことで粒子が互いに繋がり流動しにくい状態になり、肌のキメ・毛穴内部へ流れ落ちる効果が抑制され、塗布膜が流動せずに肌にフィットするため、キメや毛穴に日焼け止めが溜まりにくく、紫外線防御に重要な、均一な膜を形成することができる。

塗布膜の見た目と紫外線防御力の経時変化の様子

塗布膜の均一性の比較
本研究では、紫外線散乱剤が塗布後に均一な分散状態に変化する現象を創出し、日焼け止め技術の新たな価値に転換するに至った。また、従来のタブーをあえて応用した逆転の発想による研究開発についても、同社は100年以上にわたる紫外線研究により、水や汗、熱によって塗布膜の紫外線防御機能を高める技術や紫外線を美肌光へと変える技術、傷やよれを自動で修復する技術など革新的な日焼け止め技術の開発を行ってきたが、そこに新しい風を吹き込むことができた。今後も柔軟な発想の転換により、高い紫外線防御効果と、優れた使用感を高い水準で両立する商品を提供するために、日焼け止めにとどまらず、下地などの化粧品カテゴリーにおいても数々のチャレンジを続けていくとしている。