ファンケルは独自の研究から、龍牙草・仙鶴草とも呼ばれ、伝統的に中国医学でも使用されるバラ科の食品素材「キンミズヒキ」およびキンミズヒキ由来のポリフェノール、アグリモール類に老化した細胞を除去する作用を見いだしている。老化細胞に関する研究成果およびキンミズヒキ由来アグリモール類の人での作用に関する研究成果について二つの結果を報告する。
一つ目の報告は、キンミズヒキの人での効果を検証するために、血液中に含まれる老化細胞(不可逆的に細胞分裂が停止した状態になった細胞)を定量する技術を確立したこと。この技術は、人によって異なる老化の進行度合いを評価することを可能にする。本研究では、この技術を用いて日本人における年齢と血液中の老化細胞の割合に関するデータを取得した。これらの研究成果は2024年脳心血管抗加齢研究会第20回学術大会にて発表した。
二つ目の報告は、確立した老化細胞定量法を用いて、中高年層におけるキンミズヒキ由来アグリモール類の摂取による、老化細胞に対する効果を検証したこと。その結果、キンミズヒキ由来アグリモール類の摂取により、血液中の老化細胞の比率が減少する可能性が示唆された。本研究成果は「Nutrients 2025,17(4),667」に掲載されている。
これまで老化は万人に平等に起きる現象であり、避けられないものだと考えられてきた。しかし近年、老化の研究が進み、老化の原因が解明されるとともに、この常識が覆り始めている。つまり、老化は病であり、抑制や改善ができるものであると考えられるようになってきた。
解明された老化の原因は複数あるが、その一つに「細胞の老化」がある。私たちの体を形成する細胞は、受精卵の誕生以来、老化し続けていると考えられている。このようにして老化が進み分裂が停止した細胞は「老化細胞」と呼ばれている。この老化細胞は加齢とともに体内に蓄積することにより、体の機能低下や加齢性疾患を引き起こす。
この老化細胞を体から取り除くことは、老化を改善する手段の一つとして注目されており、同社も老化細胞を除去する食品素材の開発を進めてきた。その中で、キンミズヒキやそれに由来するアグリモール類に老化細胞を除去する作用を見いだした。
一つ目の報告である「人の血液中における老化細胞定量法の確立」では、世界で初めて日本人の老化細胞量が加齢とともに増加することを確認した。これまで人の老化細胞量を正確かつ低侵襲で測定する方法はなかった。そこで今回同社は、先行論文を参考にわずかな採血によって得られた血液中に含まれる老化細胞量を定量する手法の確立に取り組んだ。老化とともに増えるタンパク質である老化関連βガラクトシダーゼ(SA-β-Gal)を老化細胞の目印として、老化細胞と若い細胞を判別し、測定機器を使用し定量化することが可能になった。この方法で測定を行うと、血液中には数多くの種類の細胞が存在しているが、その中でもキラー細胞と呼ばれ、ウイルスに感染した細胞などを攻撃する免疫を担う細胞は、若い細胞と老化した細胞の割合が人や年齢によって大きく異なることが分かった。次に、同社が確立した老化細胞定量法を用いて、20代から60代の日本人男性52人、女性55人の計107人の老化細胞量を定量した。その結果、キラー細胞などの老化細胞は加齢とともに増加していることが確認された。このように日本人の老化細胞量と年齢の関係を世界で初めて明らかにした(図1)。

図1 加齢に伴う老化細胞の増加
二つ目の報告である「人での老化細胞除去作用の検証」ではキンミズヒキ由来アグリモール類摂取による老化細胞の減少を日本人で検証した。中高年層(年齢が40歳以上60歳未満の日本人男女)を対象にキンミズヒキ由来アグリモール類を摂取することによる老化細胞への影響を確認するために臨床試験を実施した。被験者をキンミズヒキ由来アグリモール類を含有するサプリメントを摂取する群(キンミズヒキ摂取群)、または含有しないサプリメントを摂取する群(プラセボ群)の2群に分け、8週間の摂取前後におけるキラー細胞の老化細胞の割合の変化を比較した。SA-β-Galを指標として測定した。なお、公正を期すために、先入観や意図的な操作ができない、被験者や評価者によるバイアスの少ない質の高い試験方法であるランダム化二重盲検比較試験で実施した。その結果、全員を対象にした解析ではプラセボ群と有意な差は確認されなかった。一方、男性のみを対象にした解析では、キンミズヒキ摂取群はプラセボ群と比較して、老化細胞の割合が有意に減少することが確認された(図2)。これらの結果から、人においても、キンミズヒキ由来アグリモール類は体内に蓄積した老化細胞を除去する作用を発揮する可能性が示唆された。

図2 男性における老化細胞の減少
老化細胞の蓄積はさまざまな生理機能の低下に関わっていることが考えられることから、キンミズヒキ由来アグリモール類の摂取による老化免疫細胞の除去作用は、老化細胞が関与する生理機能の低下に対してさまざまな効果を発揮することが期待される。
同社は今後も、老化による各種機能低下や、疾病の発症予防へとつながる抗老化作用の研究を通じて、さまざまな領域での応用を見据えた製品開発や、お客に心から満足してもらえるサービスの提供を目指していくとした。
「人の血液中における老化細胞定量法の確立」の担当者、総合研究所 基盤技術研究センター 機能探索第1グループ 矢﨑美里研究員のコメントは以下の通り。
「これまでの健康食品が担ってきた抗老化作用は、老化によって引き起こされる各種お悩みへの対処がその大半を占めていました。今後は、老化自体を根本から改善することができるような、若々しく健康的な生活を実現できる魅力的な製品の開発をしてまいりたいと思います」
「人での老化細胞除去作用の検証」の担当者、総合研究所 機能性食品研究所 臨床研究グループ 清水良樹研究員のコメントは以下の通り。
「老化の根本原因の一つと考えられる老化細胞の蓄積はさまざまな生理機能低下につながると考えられています。老化細胞除去による抗老化作用は、老化によって引き起こされる生理機能低下を広く改善することが期待されます。今後もキンミズヒキ由来アグリモール類の老化細胞除去作用を含めた抗老化機能を明らかにしていくとともに、魅力ある製品開発をしていきたいです」