資生堂は、美容医療に迫る高い効果と安全性を両立し、日常的に使用できる独自構造(特許出願済み)の次世代マイクロニードルを開発した。「注入」と「押圧」の二つの機能を備えた新しいアプローチで、皮ふを傷つけずに皮ふ浅層(角層を含む表皮)に有効成分を注入すると同時に、皮ふ深部(真皮以下)に押圧刺激を与えることができ、免疫・血管・コラーゲンなどの細胞外マトリクスに関連する遺伝子群の発現状態を変化させる。
これにより、表皮・真皮・血管を包括的に活性化し、たるみ、バリア機能、しわといった複合的な肌悩みを改善することが明らかになった。本技術により、理想の素肌美を日常生活の延長線上で、簡単・安全に手に入れることができるようになる。
研究成果の一部は、第34回国際化粧品技術者会連盟イグアス大会2024(IFSCC Conference 2024)にて発表した。
理想の肌を実現する手段として近年では美容医療が一般的になり、化粧品にも高い効果を期待する声が高まっている。美容医療施術で人気を博しているマイクロニードルは、肌に微細な傷をつけ、薬剤の浸透を高めるとともに「創傷治癒」の反応を引き起こし、皮ふ深部の構造を再構築して高い効果をもたらすとされている。
一方で、治療による出血等を伴う侵襲的な側面もあることから、施術を受ける際の負担、不安感が課題だった。同社は、高い効果と非侵襲性という背反事象を、従来の「刺す」機能だけでなく、「押す」という新たな機能を加えることで同時にかなえる着想に至った。さらに、「搭載できる薬剤の種類や量が限定される」「針素材の安全性」「針が折れ曲がるリスク」といった課題を解決する独自の注入機構を創案し、「注入」と「押圧」による新しいケア方法で常識を塗り替えるべく本研究を進めた。
種々形状のマイクロニードルを検討した結果、皮ふ浅層のみを精密に刺し、同時に皮ふ深部に押圧による圧刺激を効率的に与えることのできる形状パラメーターを見出し、最適化された形状の次世代マイクロニードルを開発した。開発した次世代マイクロニードルは皮ふに薬剤を注入することが可能であり、薬剤の浸透性を評価した結果、ナイアシンアミドなどの水溶性薬剤の浸透量を有意に向上させるとともに、素早くより深くまで送達させることを明らかにした。
次世代マイクロニードルの「押す」効果は、皮ふ深部に圧縮刺激を与え、即時的に血流を促進することが明らかになった。また、次世代マイクロニードルを2日に1回の頻度で7日間使用し、皮ふ深部に刺激を与えることにより、免疫・血管・コラーゲンなどの細胞外マトリクスに関連する遺伝子群の発現を変化させ、皮ふを傷つけずに肌改善を促すことが示唆された。
ナイアシンアミドを配合した次世代マイクロニードルにて連用試験を実施した結果、通常の塗布と比較して、より短期間でのしわ・透明感の改善が認められた。また、顔の下半分の体積変化の評価を行った結果、次世代マイクロニードルにおいて、2週間後に顔の下半分の体積が有意に減少した。また、たるみグレードの有意な改善を確認し、8週間後にほうれい線がより浅く、短くなっていることを確認した。加えて、経表皮水分蒸散量(TEWL)を評価した結果、次世代マイクロニードルは、バリア機能を破壊せず、むしろ、バリア機能を改善することが明らかとなった。