ロート製薬は、ロートグループ総合経営ビジョン2030である「Connect for Well being」の実現に向け、利用者が安心して使用し続けられるようにレチノールの研究を進めている。今回、レチノールによって生じるレチノイド反応(以下、A反応)に着目し、有効性と安全性の両立を目指して研究を進めた結果、レチノールの浸透をコントロールする技術を発見した。
近年、スキンケア市場では「効果」を重視するトレンドが強まり、いわゆる成分コスメが注目されている。その中でも、効果が高くエイジングケアや肌質改善が期待される「レチノール」は注目度が高く、国内外でレチノールやその誘導体を配合したスキンケア製品の市場が拡大している。
一方で、レチノールには課題があり、有効性が高い反面、その反応性の高さから肌の赤みや乾燥、皮むけのような「A反応」と呼ばれる反応が起こりやすく、使用時に注意が必要だ。
配合量を減らすことでA反応を起こりにくくし安全性を高める方法もあるが、有効性が低下する可能性があり、期待されている「効果」も得られにくくなる可能性がある。つまり、有効性と安全性の両立は、レチノール製品の市場を拡充するための重要なテーマの一つといえる。
昨今、リポソームのような技術や容器の工夫でレチノールの安定性を向上させる研究が広く行われている。しかし、同社はこれまでのレチノール製品の知見からヒントを得て、従来とは異なるアプローチとして、浸透速度をコントロールすることで有効性を保ちながら皮膚への刺激を低減できるのではと考え、研究を進めることとした。今回の研究では、特定のIOB(Inorganic-Organic Balanceの略で、成分の無機性値と有機性値の比から求めた値で成分の性質を表す値の一種)領域の成分を配合することでレチノールの浸透速度を緩和し、有効性と安全性を両立できることを三次元人工培養皮膚による浸透試験と人を用いた臨床試験にて確認を行った。
三次元人工培養皮膚モデルを用いて、成分のIOBとレチノールの浸透速度についての評価を行った。シリコーンの浸透速度をコントロールとした場合、ステロールエステルや植物油などレチノールと極性の近い油はレチノールの浸透を緩和し、非極性油や両親媒性油などレチノールと極性の遠い油はレチノールの浸透を促進することが分かった。以上より、油の極性、つまりIOBによってレチノールの浸透速度をコントロールできることが示された。
この結果をもとに、浸透をコントロールする技術を搭載し、レチノールとIOB値が近い油を複数選択し配合した製剤で同様の評価を行ったところ、レチノールの浸透速度が緩和することが確認できた。
浸透をコントロールする技術を搭載した試験品のクリームで8週間連用試験を実施した。シワのレプリカ評価の結果、塗布前後の比較で目回りのシワへの効果が認められた。また、皮膚科医による医師所見の結果、試験期間中に所見スコア2(軽度)以上の症状はなく、試験品による重篤な皮膚トラブルはなかった。以上の結果から、効果と安全性を両立していることが示唆された。