「国内外の投資家に話すと、たいへん共感していただける。特に欧州の方々は、日本に南アルプス市があること、そして豊富な湧き水の映像を興味深く見てくれます。化粧品のモノ作りに適した環境であることは、弊社のブランド戦略、グローバル展開においてプラスになると確信しています」

コーセーの小林一俊社長は、2024年6月14日に本社(東京・中央区)で行った「山梨県の豊かな水資源の活用による持続可能な社会構築に係る基本合意書」の締結式において、このように述べた。

コーセーは、山梨県南アルプス市に新たな生産拠点である「南アルプス工場」を建設するに当たり、生産子会社のコーセーインダストリーズおよび山梨県と、豊かな水資源を活用しながら、持続可能な社会の構築に向け、三者で連携して取り組むことに合意。山梨県産の「グリーン水素()」など、環境に配慮したエネルギーを最大限に活用し、水由来のエネルギーの地産地消に取り組むという。

再生可能エネルギーを使って発電された電気を使い、水を電気分解して得られた水素。製造時にCO2を排出しない特徴がある。

化粧品の製造において「水」は重要なファクターである。主要原料であることに加え、工場設備の洗浄や従業員の飲食に関わるさまざまな場面で使用する。だからコーセーは清澄で豊富な水資源に恵まれた山梨県に新工場を建設することに決めた。

また、工場の稼働時は、水資源だけでなく、原料の溶解や混合、運搬、工場内の湿温度管理などのあらゆる場面で、電力や熱のエネルギーが必要になる。南アルプス工場で使用するエネルギーには、同県産の自然豊かな資源を最大限に活用する。

例えば、電力では水由来エネルギーを活用し、県営水力発電から生まれたCO2フリー電力(再生可能エネルギー)を用いる。さらに日照時間の長い山梨県の特徴を生かした太陽光による自家発電も使用。山梨県営の水力発電から作ったCO2フリー電力100%を建設段階から工事のエネルギーとして使うのは、全国初の事例になる。さらに熱エネルギーとしては、従来の化石燃料から同県が注力事業として取り組む県産の「グリーン水素」に段階的に転換していくことで環境に配慮する。

締結式では、山梨県の長崎幸太郎知事が「地域で生み出すエネルギーを最大限に活用した先進的かつ高付加価値なモデル工場として、山梨県全体のブランド価値を体現している」と述べた。

コーセー南アルプス工場は、24年7月に第一期工事が着工し、稼働は26年上期中の予定。敷地面積は11万1525平方メートルと広大だが、第一期工事で使用するのは3分の1のみである。既存工場の敷地面積は、狭山が10万6161平方メートル、群馬が8万8987平方メートル。1964年完成の狭山工場は、創業者の小林孝三郎氏が「東洋一の工場をつくる」と最初から社員が驚くほど広大な土地を取得。そこからビジネス成長に合わせて、工場拡張を繰り返した。南アルプス工場も同じ戦略だろうから、コーセーの生産戦略は超長期視点で考え抜いたもの。「先進的かつ高付加価値なモデル工場」と長崎知事が言及したのは、生活者に身近な商品を作るコーセーに日本のモノ作りの価値を世界中に発信し続けることを期待しているからだろう。

コーセーは超長期視点の生産策を進める

月刊『国際商業』2024年08月号掲載