オルビスの新CRM(顧客関係管理)における新たな戦略が動き出した。2022年11月に「ORBISアプリ」が進化してリニューアル。そのコアとなる新サービス『肌カ.ル.テ』がスタートしたのだ。スキンケアやメイクのこだわり、ライフスタイルの質問に回答していただき、スマートフォンで顔写真を撮影するだけで、AIが肌状態を分析。お客様の肌悩みに応じてスキンケアを習慣化していけるよう、アプリを通じてパーソナル美容アドバイザーがサポートする、これまでにない“美容伴走型”のコミュニケーションプログラムを実現するもの。商品だけでない新たな顧客接点を増やすことで、ブランドのファンを増やすのが狙いだ。
オルビスが新たなCRM戦略に挑むのは、化粧品市場の大きな変化が背景にある。オルビスは、カタログ通販から始まり、1999年からEC販売に力を入れ始め、2000年からは店舗展開も加速。多様な顧客接点を持ったのは、生活者の購買行動の変化に対応するためである。
だが、ビジネスの基本は変わらない。新規顧客を獲得し、継続購入を促し、ロイヤルカスタマー化する。その一連の流れを支えるのが、ブランドと顧客のコミュニケーションであるCRMなのだ。昨今は、オンライン上を中心に多くのD2Cブランドが台頭。顧客との絆づくりは、一段と複雑になっている。
オルビスは、コンバージョンポイントがどこにあるかではなく、一連のブランド体験を提供し、顧客生涯価値(LTV)の向上を図るために、一般的なOMOではなく、同社が持つ「通販」「リアル店舗」「EC」「アプリ」という四つのチャネルで培ってきた資産のシームレスな活用にチャレンジしている。
オルビスCRM統括部の松枝奏輔部長は「四つのチャネルの特性や強みを生かしながら、お客さまから支持されるサービスを提供したい。だから、オルビスのCRMを一つずつ進化させていこうと考えました」と説明する。
そこで、今回新たにORBISアプリを進化させてリニューアルし、アプリ内サービス『肌 カ.ル.テ』をスタートした。『肌カ.ル.テ』の名称は「肌カリキュラムル-ティンテクニック」のそれぞれ頭文字を取ったものを反映している。この機能で意識したのは、ユーザーの生活に定着し、日々のスキンケアを伴走するためのここちよいUI・UXを実現することだという。
『肌カ.ル.テ』のTOP画面
具体的には、三つの機能特徴がある。一つは、長期視点の継続的な肌分析が可能であることだ。『肌カ.ル.テ』の肌分析は、スキンケアやメイク、生活習慣に関する質問と撮影の2フェーズに分かれる。質問では、スキンケア・メイクのこだわり全8問を回答し、その後カウンセリング全15問で状態、悩み、使用アイテム、ライフスタイルを確認。その後、スマートフォンで顔写真を撮影するだけで、AIが肌状態を分析。オルビスが培ってきた美容理論に基づいた「ベース肌状態」及び「肌悩み」の二つの美容チャートにおいて、どちらも5段階評価で瞬時に肌状態が得られる。肌分析を1カ月ごとに行うことで、肌の状態を確認しながら取り組むことができる。肌分析後も3日に1度、約1年に渡って悩みに合わせたアドバイスやお手入れ継続への応援メッセージが続き、肌の変化への手ごたえが得られる。
二つ目の特徴は、肌の分析結果に基づいた、スキンケアを提案する『肌カ.ル.テ』コースだ。肌分析に合わせて、全33コースの中から適したコースを提案してくれる。つまり、顧客一人ひとりのニーズに寄り添っていくということだ。エイジング(※1)やニキビケア(※2)、毛穴の目立ちケア(※3)などの肌悩みやなりたい肌に向けた11コースから、おすすめを提案。コースを選ぶと、さらにお悩みの深さや取り組みやすさに応じた「かるく」「てきどに」「たっぷり」の3コースも選択ができる。
セレクトしたスキンケアコースにあわせてお手入れ方法とアドバイスを案内してくれる。さらに、『肌カ.ル.テ』コースに適した専用の商品を用意し、購入した人にはより具体的なアドバイスを届けてくれる。商品を購入しなくても『肌カ.ル.テ』コースを続けることは可能だ。
三つ目の特徴は、CRM戦略の要となる、顧客との連鎖的・連続的なコミュニケーションが強化されたことだ。『肌カ.ル.テ』コースでは経過日数に応じて3 日に 1 回届くオートコミュニケーションを実装。アイテムの使い方やライフスタイルなどの美容に関するコンテンツを提供する。メッセージから動画・記事に誘導してアドバイスをわかりやすく見せるだけでなく、定期的に肌の状態を確認してもらうために『肌カ.ル.テ』分析に誘導したり、限定商品の紹介なども行う。
そのメッセージを届けるのは、きめ細かくチューニングされたAIだ。『肌カ.ル.テ』コースでは、チャットアプリのようなUIを採用しており、ユーザーはまるで専任のパーソナル美容アドバイザーが丁寧なメッセージとともに自分の肌に寄り添ってくれているような印象を抱くように設計してある。
それができるのは、豊富な店頭接客の経験があり、美容のプロであるビューティクリエイターが監修しているから。美容に関する質問とAIによる分析したそれぞれの肌状態で従来よりも細かなセグメント分類が可能となっており、そこにビューティクリエイター監修の的確なアドバイスやコンテンツの提供が行われることで、One to Oneのコミュニケーションが自然な形で進んでいく。
こうしたオートコミュニケーションに加え、平日10時~17時の間は、リアルタイムでビューティーアドバイザーに相談できる有人チャット機能も搭載。日々のお手入れに悩むユーザーが、より気軽にコミュニケーションを取れる体制が整っている。『肌カ.ル.テ』は、さまざまな視点でデジタルの中に「人」を介在させることで、「人肌感」と「機能性」を融合。人の力を最大限に引き出すことを大切にするオルビスらしい仕組みと言えるだろう。
『肌カ.ル.テ』の利用条件に商品や定期コースの購入が含まれておらず、顧客側に自由な選択肢を持たせた余白があるのは、アプリユーザーにここちよく使ってもらいたい、というオルビスの気配りだ。
「ORBISアプリ内のサービスやコンテンツに関するデータ分析に強みがあり、手軽に読める美容に関する記事コンテンツも拡充しています。例えば、アプリの記事を見ている回数が多いほど、LTV(顧客生涯価値)が数百円上がっていることが分かっています。スキンケア商品を使い切るまでに、およそ3か月の期間があります。その間を、どのようなアクションで埋めるか。その質と頻度を上げていくことが、その先のLTVの向上につながっていく。
分析結果や記事への関心傾向などの『購買以外のデータ』も活用し、お客様の嗜好性まで把握することで、『Aを購入されたお客様は“なぜ”Bを購入されやすいのか?』といった因果関係までを見出したうえでのコミュニケーションをしていく。商品に限らないブランド体験価値の提供で顧客との関係性構築を強化していきたいと考えています」と松枝氏は説明する。
『肌カ.ル.テ』を通して自分の肌状態を知り、ビューティクリエイターからのアドバイスを受けることで、今まで使用してきた商品に対して改めて理解を深める。あるいは今まで知らなかった商品への気づきを得ることは、「スキンケアへの関わり方が少し変わってくるのではないか」(松枝氏)。『肌カ.ル.テ』のローンチによって、オルビスの継続購入率がどう変化するかは注目点だ。
もちろん、『肌カ.ル.テ』は新客獲得も後押しする。新機能を実装すると、アプリの新規ダウンロード数が急増し、初めてオルビスの体験価値に触れるお客も少なくないという。この流入に対して、これまでのような一度きりの肌分析だけでなく、継続的にコミュニケーションと具体的な商品の紹介まで行うことができる『肌カ.ル.テ』は、新規顧客獲得の新たな機会になるというわけだ。
『肌カ.ル.テ』は、今後の発展が見込める。例えば、肌状態と商品使用はもちろん、コンテンツの閲覧時間、回数などのデータは、これまで以上に商品開発に役立つだろう。また、特定のエリア、特定のセグメントのお客に対して、店舗などの他チャネルを活用した、よりパーソナルなメッセージによるアプローチも狙える。
「新CRMへの改革はまだ緒に就いたばかり。それぞれのお客様に対して、適切なタイミングで、求められているコミュニケーションを行える。そんな理想を実現するために、次の進化に挑みたい」と松枝氏は『肌カ.ル.テ』のローンチだけでは満足していない。オルビスの新CRM戦略のこれからが楽しみだ。
※1 年齢に応じたお手入れのこと、※2 ニキビの予防、※3 キメを整えて毛穴を目立たなくする