オルビスの商品は化粧品だけに留まらない。スキンケアを中心に、インナーケア、メイク品はもちろんのこと、近年は新規事業にてパーソナライズスキンケアサービスやDIYセルフケアサービスなどを手掛けている。一昔前のオルビスといえばオイルカットが代名詞で、その処方イメージから年齢と共に顧客が離れる「卒業ブランド」と揶揄されていた。いまや、その姿はなく、オルビスの豊富な商品・サービスを楽しむ顧客が生まれている。

このような「オルビス好き」が増えるのは、ブランド・フィロソフィー(哲学)への共感が広がっているからだ。特に、消費者が重視する商品・サービスの価値において、それが表現されていることが大きく影響している。

そもそもオルビスは、1987年の創業以来、「肌が本来持つ力を信じて、引き出すこと」を信念に、本当に必要なものを見極める姿勢を大切にしてきた。それを鮮明かつ研ぎ澄ましたのが18年に行ったリブランディング。人々の価値観や生活スタイルの多様化に合わせて、ブランドメッセージ「ここちを美しく。」を定めるとともに、一人ひとりが持つ美しさが多様に表現されるここちよい社会を目指している。同時に「スマートエイジング®」という提供価値を打ち出した。

オルビスの商品開発に長く携わっている西野英美執行役員(ブランドデザイン・QCD担当)は次のように説明する。

「私たちは、人が本来持っている肌の力を信じています。お一人おひとりの肌の力を引き上げる商品、サービスを提供し続けたいと強く思っているんです。この考え方は、オルビスの原点です。日々の仕事の中で迷いが生じることも少なくないのですが、立ち返る場所が明確に存在することが大事だと考えています。世の中の価値観や生活スタイルが多様化するほど、生活者は自分らしさを拠り所にするでしょう。だから、オルビスの考え方は、これからの時代に適していると自信と誇りを持っています」

14年に誕生した「オルビスユー」

14年に誕生した「オルビスユー」

オルビスの基幹商品はエイジングスキンケア「オルビスユーシリーズ」である。誕生は14年2月で「肌のインナー酵素」に着目した商品だった。それを18年10月にリニューアル。「肌をめぐる水」というコンセプトに切り替え、初期エイジングケア層へのアプローチを強めた。「うるおい」というスキンケアの根源への立ち返りは「生活を変えていないのに、やせた?と聞かれることが多くなった」という生活者の声に耳を傾けた結果である。やせて見える肌の状態を最先端の科学で解き明かし、それが功を奏し「オルビスユー」はデビュー直後から共感が広がり、売り上げを伸ばしていった。そして20年9月に上位ライン「オルビス ユードット」を発売し、本格的なエイジングケアに対応した。「オルビスユーシリーズ」では、発売以来ベストコスメは91冠2。販売実績は1325万個3以上になっており、20代から50代以上まで幅広い年代に顧客を持つに至った。19年12月期以降は売上構成比の約25%を占めており、文字通り「人が本来持っている力を信じる」オルビスらしさを象徴するスキンケアシリーズである。

18年にリニューアルした「オルビスユー」

18年にリニューアルした「オルビスユー」

オルビスは成長の手を止めることなく、22年8月23日に初期エイジングケア向けの「オルビスユー」を全面刷新した。これも顧客ニーズの変化を捉えたチャレンジだ。同社によると、肌悩みの原因には、肌が本来備えている「肌の基礎体力(肌をうるおいで満たし、保ち、バリア機能で乾燥から肌を守る肌本来のうるおい機能)」の低下があるという。それにより肌全層(角層全体)のうるおい不足が深刻化し、乾燥、ハリ低下、くすみ、肌荒れなどの肌悩みが慢性化し、不調やゆらぎを感じやすくなるという。新しい「オルビスユー」は、肌が本来持つ細胞の体力の源「ミトコンドリア」の再生作用であるマイトファジー研究からヒントを得た独自アプローチを採用。うるおいに満ちた変化にゆらがない肌(押し返すようなハリのある肌)へ導いていく。

22年8月23日に初期エイジングケア向けの「オルビスユー」を全面刷新

22年8月23日に初期エイジングケア向けの「オルビスユー」を全面刷新

「18年のリニューアル時と同じように、私たちは、ライフスタイルが多様化する女性たちの不安や葛藤、リアルな気持ちに寄り添いました。最近『肌の調子が悪い日が増えてきた』『昔は肌荒れが起きてもすぐ回復していたけど、回復するのが遅くなった気がする』という切実な声が増えています。年齢とともに、これまでとは違う肌状態の不安定さを強く実感もしています。一方、私たちビューティーブランドの役割は、最先端の技術を活用し、お客さまに新しい価値を届けることです。肌の変化に戸惑う女性たちの葛藤に対して、私たちは化粧品の研究で世界トップランナーであるグループ企業ポーラ化成工業と連携して『肌の基礎体力』を高める価値を届けようと考えたのです」(西野執行役員)

20年9月、本格的なエイジングケアに対応した。「オルビス ユードット」を発売

20年9月、本格的なエイジングケアに対応した「オルビス ユードット」を発売

オルビスは、「オルビスユー」と「オルビス ユードット」で生涯顧客づくりを徹底して行う姿勢を貫いている。

既存事業の一方で、オルビスは新規事業の開発にも力を注いでいる。そもそも提供価値である「スマートエイジング®」は、一人ひとりが本来持っている力を引き出し、自分らしく自然に歳を重ねていく、その人らしさを認めて生きていくという考え方であり、商品やサービスを通じてその価値を研ぎ澄ませてきた。

自分らしさは広く深い概念だ。いろいろな可能性が込められ、生活者が美を意識する領域は多様である。肌や髪だけでなく、立ち振る舞い、料理の盛り付け、自宅の空間などにも、人それぞれの美意識が宿っている。オルビスはビューティーを基軸に自分らしく生きる領域でのリーディングカンパニーを目指している。その実現に従来の手法や常識は関係なく、むしろオルビスのリソースを生かせば、オープンイノベーションによる新しい価値創出に結びつく。

新規事業の責任者も西野執行役員が務めており、「スピード感が大事。時代の変化を先読みし、収益性の高いビジネスモデルを早期に確立するとともに、新規事業を開発するノウハウを蓄積したい」と意気込む。

新規事業開発の始まりは、ポーラ・オルビスグループが創業100周年を迎える2029年を目標に10年後のありたい姿を議論したことである。その時、オルビスは「テクノロジー×パーソナライゼーションによる美しさの解放」を目指すと定め、新規事業の開発に挑み始めた。

20年4月にオルビス初のパーソナライズスキンケアサービス「カクテルグラフィー」を投入

21年4月にオルビス初のパーソナライズスキンケアサービス「カクテルグラフィー」をローンチ

2021年4月にオルビス初のパーソナライズスキンケアサービス「カクテルグラフィー」をローンチ。肌測定ができるIoTデバイス「skin mirror(スキンミラー)」を用いた新習慣を提案。「スキンミラー」はたとえば、洗面所の鏡などの生活の動線に取り付けられ、「スキンミラー」で測定した肌状態に応じて2本の美容液と1本の保湿液が届き、お客様身の手元で混ぜて使う仕様になっている。「カクテルグラフィー」で実現したかったのは、その方に合ったビューティーの楽しみ方や肌に最適なアプローチを見つけられるようにすることだ。

21年9月。新しいインナーケアの創出に挑戦する「インナーカラーサラダ」を発売した

21年9月に新しいインナーケアの創出に挑戦する「インナーカラーサラダ」を発売した

新規事業は「カクテルグラフィー」だけではない。21年9月には、「インナーカラーサラダ」を発売し、新しいインナーケアの創出にもチャレンジした。そして、今年9月からDIYセルフケアサービス「more more(モアモア)」共創プロジェクトも始動。自分にフィットした美容を楽しみたい気持ちと、環境を大事にしたい気持ちの両立に応えるサービスだ。「more more」独自のDIYレシピを基づき、成分や香り(ブレンド精油)を選び、所定の量をビーカーに投入。ハンドミキサー等で混ぜると、ミルクフェイスローション、フェイスマスク、ルームミストが出来上がる。今の肌悩みや気分に合わせたアイテムを愛着を持って作ることができる。オルビスは「more more」の本格提供に向け、商品開発やサービス企画を共に行うパートナーを一般ユーザーから募集。約1ヶ月間の活動を行った。

DIYセルフケアサービス「more more(モアモア)」共創プロジェクトが始動

DIYセルフケアサービス「more more(モアモア)」共創プロジェクトが始動

「more more」の狙いは、DIYという新たな美容の選択肢を広げるだけではない。ビジョンは「エシカルな暮らしを日常文化に」で、化粧品のDIYを通じてライフスタイルに楽しく馴染むエシカルな暮らしを提案する。それにより、美容を楽しむ気持ちをきっかけに、ソーシャルインパクトの最大化を目指す「Collective Beauty」の推進を狙っている。たとえば、ポーラ化成独自の乳化剤を用いることで、化粧品の乳化工程で発生する加熱・冷却をカットでき、CO2排出量を削減に繋がることをはじめ、梱包資材等の削減が叶うことは、エシカル消費を望む女性の心に響くのではないか。

新規事業は他社との協業が多いのもポイントだ。オルビスの「本当に必要なものを見極める姿勢」は、多様な価値を結びつける蝶番の役割を果たし始めているわけだ。

このようにオルビスの商品、サービスの強みは、ブランドの提供価値の基軸である「スマートエイジング®」のフィロソフィーが全くブレていないことだろう。だから、生活者がオルビスの価値提案に安心かつ信頼し、耳を傾けることができる。オルビスが築いたブランド、社会、生活者が織り成す関係性は、企業の成長に欠かせない要素ではなかろうか。

「私は化粧品が大好きで、化粧品を通じて社会に貢献できる仕事に携わりたいと思ってオルビスに入社しました。好きなことだから、自由闊達に議論を交わし、仕事に走り回れる。ポーラ化成工業の高い技術力への信頼、オルビスの思想への強い共感も仕事を進める上で大切な要素です。これからも社員一人ひとりが、自分らしく価値発揮できる環境づくりに力を注ぎ、多様な商品・サービスを通じて『スマートエイジング®』に共感していただける方を増やしていきたいです」(西野執行役員)

オルビスが生み出す多種多彩な商品・サービスは「スマートエイジング®」を体現する人材の力が礎。それは前回の連載で取り上げた社員一人ひとりの個の力を最大化するHRの取り組み抜きには語れない。オルビスは、組織一丸となって競争力を高めている。

※1 年齢に応じたお手入れのこと、2  2022年7月22日時点(オルビス調べ)、3  2022年5月時点