第2の創業。ポーラ・オルビスグループの中核企業、オルビスはそう捉えられてもおかしくないほど、ドラスティックな改革に挑んでいる。主役は、次の時代を担うべき20~30代の若手・中堅社員で、2018年8月2日に新ブランドメッセージ「ここちを美しく。」を発表。そして改革の目に見える成果として、基幹シリーズ「オルビスユー」を10月23日に全面刷新する。年内だけで売上高20億円、新規客数8万人と高い目標を掲げているが、オルビスユーの刷新は、改革の序章に過ぎない。グループ創業100周年の2029年を念頭に、オルビス改革は第2章に入っている。

通販、オイルカットは手段に過ぎない

「新しいものを始める前に、今の状況を立て直すのが最優先」(オルビスの田伏洋介マーケティング戦略部コミュニケーション戦略グループマネージャー)。オルビスが不退転の覚悟で改革に臨むのは、長く続く暗黒時代から脱却するため。1987年の創業時、化粧品チャネルとして黎明期だった通販特有の不安、不満、不便を解消することで業績を拡大したものの、営業利益は05年、売上高は07年をピークに横ばいに陥った。

そこで14年2月に「オルビスユー」を発売し、価格訴求から価値訴求への転換を図ったが、単価アップ効果を得た一方で、愛用者の増加を示すスキンケア比率は伸び悩んだ。その結果、新しい基幹シリーズと位置づけたオルビスユーの育成が中途半端となり、投資が分散したのである。

その状況は業績を見れば一目瞭然で、14年12月期に売上高が前年比8・6%増、営業利益は22・5%増と好転したが、16年12月期にはそれぞれ0・9%減、0・7%増と再び停滞。「売上げが落ちている状況だったので、根本から変えないといけなかったが、その答えが出せていなかった」と田伏マネージャーは反省する。

悪循環を断ち切るために白羽の矢が立ったのが、現社長の小林琢磨氏。グループ会社のポーラ、ディセンシアを経て、17年1月にオルビス取締役に就任。翌18年1月から社長を務めているが、オルビス異動後に行ったのは、抜本的な改革を行うプロジェクトチームの結成である。20年までの中期目標、29年までの長期目標を立てるのが役割で、20年代にオルビスの中核となるべき5人の人材を集めた。

17年5月から7月にかけて、徹底的にディスカッションを行ったが、その口火を切ったのは小林社長。現状の経営状態を鑑み、改革の必要性を説いた。その上で、プロジェクトメンバーは「オルビスが大切にするものはなにかを突き詰めていった」と田伏マネージャーは説明する。

オルビスの特徴といえば、通販とオイルカットの二つ。前者は、創業当時からの主力チャネルで、通販メーカー、通販ブランドという強いイメージを生んだ。後者も創業時に生まれたもので、「化粧品は水と油を乳化させたもの」という化粧品業界の常識を覆し、「肌にとって本当に必要なものは油分ではなく水分である」という独自コンセプトとして競争力の源泉になった。

だが、際立つ特徴がオルビスの呪縛になっていた面はある。鎌田いづみブランディング推進担当リーダーは「社内では通販、オイルカットがオルビスのアイデンティティという考えはない。そもそも、2~3年前から、そのように社外から見えていることが、商品開発部門、マーケティング部門の悩みだった」と胸の内を明かす。

それは当然のことで、化粧品ビジネスにおけるチャネルの壁は崩壊。通販メーカーがドラッグストア、コンビニなどに進出するのは珍しくなく、自社通販を行っていないメーカーもAmazonなどで販売。生活者の行動もスマホ時代になり、デジタルとアナログの垣根は希薄になっている。

一方、オルビスにとってオイルカットは創業時の生活者のニーズに応えるために採用したコンセプト。その根底に流れるのは、肌に与える発想ではなく、肌を育む考え方。つまり、通販も、オイルカットも、生活者の不満を解消するための手段でしかなく、それは時代とともに変わるべきものだったが、通販化粧品市場の拡大を牽引してきた過去の実績が足枷になったのは否めない。田伏マネージャーは次のように話す。

「若手ほど、通販やオイルカットというイメージをなくすことに葛藤はなかった。むしろ、“オイルカットだから”という理由で購入するお客様は減っていると捉えている。また通販の会社という見られ方を強めても、今後は勝てないと考え、ブランドの思想や世界観を前面に出す方向に舵を切った」

つまり、オルビスは、アイデンティティの提示が問われることになる。それは何か。中長期的な会社の方向性を左右するだけに、プロジェクトチームの議論は白熱したが、サイエンスとヒーリングに集約。グループ全体の研究開発・生産を担うポーラ化成工業研究所の技術力と、「肌に優しい」などのオルビスのユーザーが感じているイメージから導き出した。オーガニック・ナチュラル市場の台頭、特に既存メーカーではなく、新興勢力の動向に目を配り、サイエンスとヒーリングそれぞれの強みを活かした独自ポジションを目指す考えだ。

サイエンス重視だとポーラの戦略と重複し、オーガニック・ナチュラル重視だと競合ブランドが多いが、「見た目や雰囲気は流行のナチュラル・オーガニックに近づくが、確かな技術力だからこその価値を担保し、打ち出していく」と田伏マネージャーは指摘。このオルビスのアイデンティティを表すのが、新ブランドメッセージ「ここちを美しく。」というわけだ。

オルビス、基幹シリーズ「オルビスユー」全面刷新の舞台裏②に続く。

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