オルビス、基幹シリーズ「オルビスユー」全面刷新の舞台裏②からの続き。https://wp.me/pacadT-383

化粧品業界に核心は起きていない

オルビスの改革は緒に就いたばかりである。意識改革は道半ばで、その加速は喫緊の課題だ。端的なのは、クロスメディア戦略の推進が難航していること。もともとオルビスは、通販は通販、店舗は店舗で、独自の販促策を進めていた。それは一長一短で、通販と店舗で顧客の年齢層が異なるため、売上げを高めるには個別最適で対応せざるを得ない。だが、顧客側から見ると、通販と店舗で見え方が異なると、ブランドの統一感に欠ける。鎌田いづみブランディング推進担当リーダーは、次のように話す。

「オルビスには、全体を統括するブランドマネージャー制度がなかったため、各部署が積み上げてきた成功のロジックがある。それは大切な財産ですが、価格訴求から価値訴求、つまり今後、ブランドビジネスを行うには、いつ、どこで、誰が見ても、オルビスの人格が統一されていないといけない」

そこで18年1月に行ったのが組織再編。組織を営業・運営機能とマーケティング機能に整えた。後者の傘下にあるマーケティング戦略部には、カタログ・ECを通じた顧客との交流を考えるコミュニケーション戦略チーム、通販と店舗の顧客情報の統合を進めるICT・オムニチャネル戦略チーム、商品・WEB・店舗で一括したイメージやメッセージをつくるブランド戦略チームがある。

マーケティング機能を統合することで、オルビスのブランド構築をスムーズに進めるのが狙いだが、その成果が生まれるには、社員一人一人の意識が変わることが不可欠。マーケティング戦略部ブランド戦略グループの今井良輔グループマネージャーは「もっとブランドメッセージを社内に浸透させなければいけない。『ここちを美しく。』を掲げることで、自分の業務、オルビスの未来、現場がどう変わるのかまだイメージが付きにくい」と指摘。その上で、鎌田ブランディング推進担当リーダーは次のように話す。

「個別最適から全体最適に変えるのは、仕組みで管理するだけでは難しい。仲間を巻き込んで、一緒に考えていくことで、会社全体を俯瞰して各部門の戦略を練れるプロ意識を育んでいきたい。そのために必要な議論は社内で起き始めている」

新オルビスユー

もう一つの課題は、グループ創業100周年を迎える29年に向けた長期計画の策定だ。17年の段階では、市場の変化を予測。例えば、生活者の思考はどう変化しているか。働く場所は制約されなくなり、時間の使い方は各自に委ねられていたとしたら、もしかすると、生活者は自由を持て余している可能性がある。

「自分のキャリアのロールモデルは、どこにもいない時代になるかもしれません。自分の働き方が正解なのかもわからず、ライフスタイルの確信が持てない人、オンオフの切り替えに悩む人が増えるかもしれない」(鎌田ブランディング推進担当リーダー)

確かに、世間体を守ったり、前例踏襲が得意な日本人は、自由を持て余す可能性は否定できない。その悩みに対して、オルビスが提供できる価値は何か。オルビスユーのリニューアルの際、通販とオイルカットを手段と位置づけ、新ブランドメッセージを生んだように、10年先の未来、オルビスのあり方は様変わりしているはず。田伏マネージャーと鎌田ブランディング推進担当リーダーが説明する。

「オルビスが化粧品とは違う手段を選んでいても不思議ではない。お客様一人一人の人生に寄り添うプロダクトなのか、プラットフォームなのか。パーソナライズにしても、あなたにとって最も適したものが手に入るのではなく、その人がどうなりたいのか。そのようなことを意識しながら、目の前の技術、未来の技術を学ぶなど、29年までの長期計画策定のプロジェクトを継続している」(田伏マネージャー)

「新卒でオルビスに入社して9年。化粧品メーカーを見ていると、肌分析機が変わったり、パッチテストのキットが配られたり、ビジネスの枠組みに変化はあるけど、他業界のような革新は起きていないように感じます。オルビスは、オイルカットという独自価値で、新興チャネルの通販市場を切り開いた。市場の構造を変えたオルビスが、化粧品メーカーのビジネスモデルに革新をもたらすリーダー的なポジションになれたら嬉しい」

オルビス社員が改革に挑む熱意は本物だが、今も燃え続けるかどうか。それは19年に導入予定のコンセプトショップの内容が示すことになる。