オルビス、基幹シリーズ「オルビスユー」全面刷新の舞台裏①からの続き。https://wp.me/pacadT-373
全体戦略とデザイン設計を同時に進める異例の手法
プロジェクトチームにとって、次の仕事は、具体的な戦略に落とし込むこと。2017年7月から11月にかけて、部課長級を含めた会議を開き、2020年までの施策を練った。それが18年12月期第2四半期決算時に公表した新ブランド戦略(図参照)だが、会議でのディスカションは、意外にもスムーズに進んだという。
その要因は二つある。一つは小林社長が全社員に向けて繰り返しメッセージを発信したこと。特に、これからのオルビスに必要な人材像として、オープンマインドと未来志向を伝え続けたことが功を奏した。トップのぶれない姿勢は、現場の指針になる。
もう一つは、オルビスユーの新デザインである。実は、新デザインの設計は、17年5月のプロジェクトチーム結成と同時にスタート。全体戦略が決まらないなか、デザイン開発が同時並行で進むのは異例で、担当した臼井もも子商品企画部プロダクトデザイングループ/デザイナーも「毎日、情報が変わる。そんな経験は初めて」と振り返る。
オルビスのデザインといえば、当然のことながら、一目見れば機能が伝わる通販化粧品らしいものが多い。保湿なら温かみのある色、美白なら白。ウェブ、カタログ、店舗。どこで、誰が見ても、商品カテゴリーが分かりやすいデザインを意識したぶん、オルビスらしさの表現は難しかった。
そこで臼井プロダクトデザイナーは「ブランド価値である『ここち』を最大化するために、生活の中に馴染むというエッセンスを加え、提案した」と話す。洗い立てのシーツにスッーと手を差し込んだ時、光と影が交差する木漏れ日をみた時など、オルビスユーのターゲットである、仕事とプライベートのバランスを取りながら、日々頑張っている現代女性が心地よさを感じる瞬間を想定。それをビジュアル化し、デザインに落とし込んでいった。
加えて、ボトルはシンプルで普遍的な円筒形を採用したが、キャップに丸みを帯びた突起をつけた。オルビスユーに必要なデザインを追求する過程で、デザインを削ぎ落とし、足しての繰り返しから生まれた。ボトルは立てて使うもの。その既成概念を取り払い、あらゆるシーンに馴染むことが出来る多様性を与えた。
「『ここち』をデザインしてください、と言われた時、正直、捉えどころがなくて戸惑った。だから、化粧品という概念を取り払って考えることからスタートした。ライフスタイルが多様化し、綺麗なもので溢れている現代において、その日常の中に溶け込むには、化粧品という佇まいではないところで存在させることが必要ではないかと考えた」
最小限のデザインで、お客一人一人の生活に馴染み、心地よくする。そのためのデザインは、従来の通販発想では考えられない。プロジェクトチームと同時並行で、オルビスにとって新機軸のデザインを考案し、決定。社員に見せることは、「オルビスは変えていく」という小林社長の意思表明を裏付けることになる。「プロダクトデザインは自由にやるものではない。企業の戦略が生々しく出るんです。だから、今回は『ここち』に応えるデザインにした」(臼井プロダクトデザイナー)。小林社長が選んだ戦略策定とデザイン設計を同時に行う異例の手法は、社員の意識改革に一役買ったのである。
もちろん、オルビスユーはサイエンス分野もこだわっている。コンセプトは「細胞フィットネス(角層細胞をすこやかな状態に保つこと)」で、肌が自ら美しくなろうとする力を引き出し、細胞レベル(角層細胞)で鍛え上げ、より美しい肌へ導くという意味。細胞の水の通り道であるタンパク質「アクアポリン」に着目し、ハリの低下やくすみ(乾燥や角層肥厚によるくすみ)、乾燥などの肌悩みに対応するスキンケアへと進化させている。この開発を通し、真皮のコラーゲン生成に関する細胞の新たなメカニズムを世界で初めて発見。その知見を生かし、肌全層(角層全体のこと)へのアプローチを実現したという。
オルビス、基幹シリーズ「オルビスユー」全面刷新の舞台裏③に続く。