高級美顔器メーカー「ARTISTIC&CO.」が日本市場で活発に動いている。2021年11月11日、中国で行われた独身の日の売上高は対前年比167%で、目標の50億円を超えたという。この事例が示すように、「ARTISTIC&CO.」の成長戦略は中華圏と捉えられがちだが、昨年から着々と日本市場でブランド価値を高める準備を整えてきた。今年の新たな打ち手は、化粧品専門店とのコラボレーション。百貨店への展開、サブスクの活用なども同時に進めており、顧客接点が急速に広がっている。同社は高級美顔器メーカーとして確固たる地位を築くのだろうか。ARTISTIC&CO. GLOBALの金松月代表取締役にビジネスの状況と今後の戦略について話を聞いた。
リアル接点の強化でOMO構築が進展
--ARTISTIC&CO.の売上高は約300億円。そのうち8割を海外事業で稼いでいます。満を持して日本国内の成長戦略に取り組んでいますが、現状をどう捉えていますか。
金 まず海外事業について、主力の中国本土でのビジネスは非常に好調です。独身の日の伸長率だけでなく、年間を通じて二桁成長を持続しています。しかも、美顔器ブームに反応するお客様だけでなく、自分の肌をキレイにしたい、自分に投資したい、という美への思いが強いお客様が増えているのです。私たちがターゲットにしているお客様が着実に増え、質の良い成長ができていることに手応えを感じています。この海外事業が生み出すキャッシュを惜しみなく日本国内に投資することで、ARTISTIC&CO.の事業基盤を盤石にする。まだ母数が少ないとはいえ、22年の国内売上高は昨年の10倍にしたいと考えています。
--流通環境を考えると、中国はECが中心ですが、日本は多様なチャネルが存在します。どのように顧客接点を増やしているのでしょうか。
金 これまではライブコマースを中心にブランドの認知拡大、売上アップを図ってきましたが、日本の生活者はリアルの売り場で試して購入することを重視していますよね。ですから、デジタルにリアルを組み合わせたOMOの構築に取り組んでいます。例えば、2月17日に関西エリア初の直営店が大丸心斎橋店にオープン。ビューティアドバイザーが常駐し、美顔器を直接体験できますから、お客様の肌状態やライフスタイルに適した商品、お手入れ方法を提案できます。一方、同じく2月に伊勢丹新宿店メンズ館のリニューアルオープンに合わせて、取引を始めることができました。私たちが初めて作った男性専用美顔器、パーソナルフェイシャルトレーニングデバイス「EXZ HOMME(エグジィオム・https://artistic-co.jp/exzhomme/)」は、コロナ禍によるお家時間やオンライン会議の増加により、男性も顔のケア意識が高まっています。それがメンズビューティ市場の拡大を後押ししており、男性専用美顔器の需要を喚起するチャンスだと捉えています。
--百貨店中心の展開はブランドイメージのアップが狙いですか。
金 そうですね。同時に、売上増を狙って、最高級品の「ドクターアリーヴォ ゼウスⅡ(https://artistic.co.jp/products/drarrivo/dr-arrivozeus-ii/)」のサブスクリプションサービスを展開しています。高額な商品ですから、購入を躊躇するお客様がいらっしゃると思います。そこで、いつでも解約可能なサブスクを用意したんです。初月は無料で、2カ月目以降は月学2万2000円。11カ月の継続使用で、そのまま商品をプレゼントする仕組みです。送料は無料、無償保証期間は2年間(購入日から本体のみ)を提供するほか、2カ月目まで継続使用で専用美容液を、6カ月目までの継続使用で専用ジェルをプレゼントしています。このサブスクは大変好評で、母の日や誕生日のギフトに使用する方もいらっしゃいます。会員数は7000人を突破しており、3カ月を境に離脱率は急減。愛用者育成に結びついており、私どものBtoC事業の柱に育ちつつありますね。
--BtoB事業では、化粧品専門店チャネルとの協業(https://lp.total-beauty-shop.com)に取り組んでいますね。
金 粧サポ(全粧協・化粧品店オーナーのための知的情報・経営支援を目的とする組織。全国4500社の化粧品小売店・経営者を会員に持つ)と「ミスアリーヴォ ザ レイス(https://artistic.co.jp/products/missarrivo/miss-arrivothe-wraith/)」の販売戦略を練っています。商品在庫はARTISTIC&CO.が持つことにし、専門店には、販売するごとに1台当たり商品価格の30%を還元します。無料で商品の取り扱いを始められますから、専門店はトライしやすいと思います。
私どもにとっては高級化粧品に興味を持つお客様との接点になりますから、文字通り、ウィンウィンのビジネスモデルだと思います。パーミンダイゴウ(埼玉県)さんがユーチューブでライブコマースを行ったところ、2台も売れ、15人以上の体験予約が入りました。非常に手応えを感じています。3000店舗との取引を目標に粧サポさんとの協業に挑みます。
--BtoB事業も成長軌道を描き始めた、と。
金 化粧品専門店さんと同じビジネスモデルは、商材を変えて、エステなどの別チャネルでも展開しています。今後はヘアサロンルートなども検討し、多様な顧客接点を築いていこうと思っています。
--それほど多様な流通ネットワークを構築できれば、ARTISTIC&CO.の事業の可能性も広がりますね。
金 まだまだ戦略は初期の段階ですが、2年以内にメーカーが在庫を持つBtoB事業の基盤づくりを終えたいと思っています。その先にあるには、ARTISTIC&CO.が商社機能を持つことです。幸いなことに、中国をはじめとする海外事業でも、さまざまな企業と密接に結びついています。世界中にある美と健康に関連する商品をARTISTIC&CO.が集め、その商品特性に合った流通チャネルと連携して、日本の生活者に届けたい。また、22年末に導入予定のIoTサービスを通じて、生活者とインタラクティブな関係を結ぶことで、日本の生活者に適した商品、サービスを開発したり、輸入することもできるのではないか。そのように事業領域が広げるためにも、BtoB事業のパートナーと関係を深めていきたいと考えています。
--BtoB事業が今後の成長の鍵を握りそうです。
金 自社での技術開発、人材育成を欠かすことはありませんが、それだけではトレンドの変化に追いつくことはできません。ですから、優秀な経営者が率いる企業と手を結び、一緒に市場を創造することも同時に進めなければいけないのです。それは両社にとってリスク分散、リソースの有効活用になりますから、今後も積極的に進めていきます。その一方で、パートナーが満足する商品を産み続けるために、ARTISTIC&CO.が最重要視するモノづくりについては投資を惜しみません。先代社長から受け継いだ高品質、デザイン性へのこだわりは忘れることなく、他社が追随できない領域まで駆け上がろうと思っています。
--化粧品事業の強化は。
金 時期尚早だと思います。日本は化粧品大国で、強いブランド力を持つ企業がたくさんあります。私たちは、あくまでも高級美顔器をベースにしなければ、太刀打ちできません。サブスクの特典でプレゼントしているように、化粧品はブランドとお客様の絆を育むためのツールなのです。もっとARTISTIC&CO.のユーザーが増え、流通ネットワークが強固になるまでは、これ以上の化粧品の開発・販売にリソースを割くことはないと思います。