資生堂は2020年2月6日、19年12月期決算を発表した。売上高、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益が過去最高値を更新した。

売上高は、現地通貨ベースで前年比5.7%増、円換算後では、同比3.4%増の1兆1315億円。前期のアメニティグッズ事業の撤退、当期の米国会計基準ASC第606号適用影響及び米国スキンケアブランド「Drunk Elephant」買収などの影響を除く、実質ベースでは同比6.8%増となる。営業利益は、同比5.1%増の1138億円。親会社株主に帰属する当期純利益は同比19.8%増の736億円。連結売上高営業利益率は10.1%、連結ROE(自己資本当期純利益率)は15.6%、連結ROIC(投下資本利益率)は12.9%だった。

日本事業は、持続的な成長に向けて、強みであるスキンケア、ベースメイク、サンケアの“肌3分野”に引き続き注力。「SHISEIDO」では、美容液「アルティミューン」やファンデーションが好調に推移し、売り上げが大きく伸長した。また、素肌までキレイにする薬用スキンケア効果と美しい仕上がりを両立させる“薬用ケアハイブリッドファンデ”を発売した「HAKU」や「dプログラム」が成長した。加えて、アジア全域でのクロスボーダーマーケティングの強化により、拡大するインバウンド需要を確実に獲得した。一方で、円高や中国の電子商取引法施行に伴うインバウンドバイヤー需要の減少、天候不順が影響した。また、消費税増税前の駆け込み需要はあったものの、増税後の消費マインドの弱さの影響も受けた。この結果、売上高は同比0.6%減の4516億円。ただ、前期のアメニティグッズ事業の撤退影響等を除いた実質ベースでは同比0.7%増となる。営業利益は、売上減に伴う差益減や投資強化などにより、同比0.3%減の911億円だった。

中国事業は、19年後半は、香港でのデモによる影響があったものの、中国本土では高い消費者需要が続いた。「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポーボーテ」、「イプサ」、「NARS」などのプレステージブランドが高成長を持続したことに加え、コスメティクスブランドではメイド・イン・ジャパンブランドである「エリクシール」や「アネッサ」が引き続き大きく伸長。Eコマースは、プレステージやコスメティクスの商品を積極展開したことに加え、デジタルを活用したマーケティングの展開や中国のネット通販大手との協業の強化などにより、大きく成長した。これらにより、売上高は現地通貨ベースで同比19.0%増、円換算後では同比13.3%増の2162億円となった。営業利益は、デジタルマーケティング投資を強化した一方、売上増に伴う差益増などにより、同比19.2%増の292億円となった。

アジアパシフィック事業では、不透明な経済環境の中で、プレステージブランドの「LAURAMERCIER」や「クレ・ド・ポーボーテ」が好調を継続したことに加え、「エリクシール」、「アネッサ」、フレグランスブランドの「Dolce&Gabbana」が大きく伸長した。韓国は市場環境の変化を受け厳しい状況となったものの、東南アジア地域では、直営店展開の拡大やマーケティング投資の強化を進め、好調に推移した。売上高は現地通貨ベースで同比5.8%増、円換算後では同比2.5%増の698億円。営業利益は、売上増に伴う差益増があった一方、マーケティング投資の強化などにより、前年比4.9%減の74億円となった。

米州事業では、厳しい市場環境の中、「SHISEIDO」や「Dolce & Gabbana」が成長を継続したことに加え、「bareMinerals」で、収益性が低い直営店の閉鎖など構造改革を引き続き進めた。また19年11月に米国市場を中心に急成長しているスキンケアブランド「Drunk Elephant」を買収した。これらにより売上高は、現地通貨ベースで同比3.9%減、円換算後で同比5.6%減の1243億円となった。ただ、米国会計基準ASC第606号適用影響及び「Drunk Elephant」買収影響を除く実質ベースでは、同比0.3%減となる。利益面では、構造改革費用の減少などにより営業損失が前年に対し34億円縮小し、114億円となった。グローバルで需要拡大が見込める米国発の「Drunk Elephant」を加えることにより、主力であるプレステージ・スキンケア事業をさらに強化・発展させるとともに、米州事業の収益基盤強化につなげる考えだ。

欧州事業は、売上高は現地通貨ベースで同比11.8%増、円換算後では同比4.6%増の1184億円となった。売上増に伴う差益増などにより、営業損失は前年に対し58億円減の22億円と大きく改善した。新製品が好調に推移した「Dolce  &  Gabbana」や「narciso rodriguez」などのフレグランスブランドが伸長。「SHISEIDO」はメイクアップ商品が好調に推移したほか、「NARS」も成長を継続した。「クレ・ド・ポーボーテ」を10月に英国・ロンドンに出店したことも伸長を後押しした。同ブランドについては、今後も欧州での展開を強化する方針。

トラベルリテール事業(空港免税店等での化粧品・フレグランスの販売)は、旅行者の増加に伴いアジアを中心に市場が拡大していることを受け、同事業の成長余地が大きいとの考えのもと、グローバルプレステージ領域でのポジションを一層強化することをねらいに、最重要事業の一つとして積極的に取り組んでいる。2019年12月期は、世界各地の空港での広告宣伝など積極的なマーケティング投資が奏功し、韓国、中国、タイなどアジアを中心に「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポーボーテ」、「NARS」、「アネッサ」が前年を大きく上回る伸長を継続した。また、成長加速に向け、「イプサ」や「エリクシール」の導入拡大や戦略的な売場カウンター強化に取り組んだ。その結果、売上高は現地通貨ベースで前年比19.4%増、円換算後では前年比16.6%増の1,022億円となった。営業利益は、売上増に伴う差益増などにより、前年比25.5%増の221億円となった。

プロフェッショナル事業は、ヘアサロン向けのヘアケア、スタイリング剤、ヘアカラー剤やパーマ剤などの技術商材を販売。19年12月期は、商品やマーケティングの強化に取り組み、中国で大きく成長したほか、マレーシアやシンガポールなども好調に推移した。売上高は現地通貨ベースで同比6.0%増、円換算後では同比3.8%増の147億円となりました。営業利益は、マーケティング投資の強化などにより、同比15.9%減の3億円となった。

20年12月期の業績では、当初はプレステージブランドの成長持続、中国・トラベルリテール事業の拡大、米州・欧州事業の収益性の改善、日本事業の確実な成長、供給基盤のさらなる確立、「Drunk Elephant」の統合と拡大などにより、成長を加速する計画だったものの、一方では昨年後半より、香港市場や韓国市場の環境悪化、米中貿易摩擦の影響、為替の変動など不透明な経済環境に加え、日本事業についても消費税増税の前後から当初想定より計画が大きく下回る結果となった。このような事業環境変化への対応を踏まえ、連結売上高は1兆2200億円、営業利益は1170億円、経常利益は1170億円、親会社株主に帰属する当期純利益は775億円を見込む。なお、現在、世界的に感染が拡大している新型肺炎の影響については、今回公表した業績見通しには織り込んでいない。日本、中国、トラベルリテールなど、各事業への影響について検証しているが、さらに慎重に見極め、然るべきタイミングで業績見通しに反映し、開示する。