中国の現地ヘアケアブランド「阿道夫」の成長には誰もが驚いた。数年前、広告・宣伝はなく、販売チャネルでの優位性は皆無。CS(化粧品店)での地位も低く、わずかなスペースに商品が並んでいただけだったが、いまやCSやKA(大型スーパー)やEC(電子商取引)など、多くの販売チャネルでトップランナーを走り、販売額と市場シェアは、古参の「舒蕾」と「霸王」に並ぶ、ヘアケア市場の雄なのだ。

「阿道夫」の創業者である李志珍が「私が以前、理容サロンに行った時、『阿道夫』を見たことはなかった。その後、ある時に1瓶見かけた。今日行くと6瓶あった」と述べたのは、成功の一端を示すもの。某代理店は「『阿道夫』はシャンプーの試供品を使って市場をこじ開けた」と指摘。そして某小売りの店主も「店内のヘアケア製品類はすでに絞り込んだ。なぜなら『阿道夫』がシャンプーを販売したからだ」と述べている。「阿道夫」は間違いなく、近年最も注目と関心を集めているブランドの一つに駆け上がった。

プレミアム化の潜在需要をキャッチ

この奇跡のような「阿道夫」の成長に、多くの人が戸惑ったのは否めない。少なくない人が「李志珍は幸運だ」と思っている。フェイスマスクを販売しながら、唐突にシャンプーを始め、瞬く間にヒットしただけだ、と揶揄する人もいた。だが「阿道夫」には、ヘアケアに対するノウハウの積み重ねがある。どんな成功も一足飛びに成し遂げられたものではないが、李志珍は次のように話す。

「ブランドが誕生する前、私たちは、多くのシャンプーの対外的な製造販売をこなしていた。ロシア、東南アジア、欧州に顧客を持っており、これが『阿道夫』誕生の基礎となった。『阿道夫』を始めたのは、フェイスマスクよりも早かったが、ずっとアクティビティが低かった。ブランドの宣伝はほとんどせず、たまにちょっとした販促セールをするぐらいだったからだ」

「阿道夫」の成長が多くの人を戸惑わせたのは、アクティビティの低さに起因している。継続的な宣伝活動を行っているフェイスマスクと真逆の動きだった。かつて「阿道夫」は中高級品の位置付けだったため、唯一広告を投入したのはファッション雑誌「瑞麗」のみ。ブランドの情報は、一部の消費グループに向けて発信されただけだったのだが、その後「瑞麗」の広告さえもストップ。当然、ブランドの認知は広がらなかったから、多くの人に「『阿道夫』は突然、爆発的に売れ出したブランド」と勘違いされたのだ。

しかし、李志珍によれば、「阿道夫」の戦略は緻密に練られたもの。ブランドの誕生前にチームは市場調査を行い、高級ヘアケア製品に対する潜在需要を見抜いていた。消費拡大の趨勢を掴み、若者の個性的な要求を満足させる製品の研究開発、そして需要に応える生産能力を準備。地道な取り組みによって、爆発的なヒットを得たのである。

心も満たすアロマシャンプーの開発

中国の化粧品業界紙「化粧品報」が17年、「阿道夫」の成功について分析したことがある。複数の代理店への取材と市場調査から導き出した成功要因は、「販売チャネルの利益に対するきめ細かい保証」「いち早く開発したアロマシャンプーが消費拡大の趨勢にマッチ」「サービスの管理をフラット化した代理店構造」の三つ。その上で李志珍は、品質、アロマによる精神的な癒し、利他主義、チームの職人精神が革新的な成功要因と見ている。

例えば、品質について、「阿道夫」は製品の研究開発と原材料の選別に妥協しない。「『阿道夫』がPRする高級ヘアケアの高級とは、価格のことではない。本当の価値があることを示している。製品の研究開発はもちろん、優れた原材料の調達には全精力を注いでいる。「ほとんどの人は私たちが投資を惜しまないことを知っているが、それが、ほぼ青天井であることは知らない」。李志珍の言葉の端々に、品質への強いこだわりを感じることができる。

また、アロマによる癒し効果を追求したことは、差別化のポイントになった。大多数のヘアケア製品は、仕上がりの柔らかさなど機能性の価値訴求ばかりを行っていたが、「阿道夫」は、髪の仕上がりとともに、心の満足感を求めるニーズをキャッチし、それに応えられる高級ヘアケア製品を開発した。

実際の香りは、担当チームが知恵を絞り、決めたもので、香水にシャンプーに融合させている。香水が人にポジティブな思い出や心地よい気持ちを引き出す効果があることに気がつき、シャンプーにも同様の効果を付与すれば、バスタイムが一層充実すると考えたからだ。単純な効能効果から癒しをプラスした訴求へ。「阿道夫」のアロマシャンプーは、まさに消費拡大に伴うニーズの変化をとらえ、内面から美しくなることを願う顧客層を開拓していった。

さらに、利他主義の徹底も競争力を高めた。特に販売チャネルへのサポートも重要な要素だ。「阿道夫」は、ブランドの販売促進費用を節約。それを販売チャネルの施策策定、試供品の配送料に充てた。とりわけ袋詰め試供品の大量プレゼント戦略は、大勢のロイヤリティの高い消費者グループを育成し、ショップに顧客を呼び込んだ。某代理店は、10人に袋詰め試供品をプレゼントしたら、8人がショップに戻ってきて購入。「残りの2人が来なかったのは、試供品を使わなかったからだ」と答えるほど「阿道夫」を支持している。

最も早くにCSからブレークした「阿道夫」は、高級ヘアケア市場をリードし、この販売チャネルに国内でのヘアケア製品の販売を開始させた。あるショップでは、ヘアケア製品に占める「阿道夫」のシェアは10%を突破。当然、利益面の貢献度も格段に上がった。「阿道夫」は、ヘアケア製品をスキンケア製品のようにプロモーションするため、店がコストをかけなくても、製品の店頭訴求が強い。高い利益が得られ、リピート率も高いため、売れ行きが伸びる好循環が生まれた。

そしてチームの匠の精神も見逃せない点だ。「阿道夫」の研究開発チームが開発したオリジナルの香りは、ブランドの最も価値あるトレードマークとなっている。しかも48時間も香りを持続させる技術は、競合製品が追い求める重要な指標となっている。李志珍によれば、チームメンバーのブランド愛は強い。この「阿道夫」を自信を持って顧客に勧めることができ、顧客も安心して「「阿道夫」を使えるようになる。市場を開拓するにあたって、自信は特に重要な要素だ。

ECでの販売額も上昇中

「阿道夫」の戦略は、ニッチ商材がマスブランドになれるかという難題への挑戦でもある。販売チャネルを動かす安定した施策と、適切なブランドのプロモーションこそ、「阿道夫」が試みている成長戦略といえる。

販売チャネルの拡大戦略を見ると「阿道夫」はCSにおけるプロモーションが安定した後、百強(トップ100)に入る試みを始めている。またCSのすべての店頭において大きな優勢を得た後、16年末にKAに進出した。KAにおける戦略が80%の完成を見た後、17年にECに力を入れ始めている。欧特欧の最新データによると、「阿道夫」の今年前3期のオンライン販売額は7億1000万元に達しており、小売販売におけるシェアは「海飛絲」に次いで6.38%。そして唯一の販売額トップ5に入った国内ブランドとなった。

特にKAに進出してから、販売チャネルの属性により、「阿道夫」も以前からの広告を打たない戦略を見直し、ブランドのプロモーションを試みている。李志珍は次のように述べる。

「消費者ブランドになりたければ、どうすれば消費者すべてに認知されるかを考えなければならない。良い酒も街の奥深くに埋もれることを恐れる。だから、やはり消費者と意思の疎通を図らなければならない。一歩一歩ブランドを拡大していくには、プロモーションを必要とするものだ。後発ブランドがどう出るとしても、すでに成し遂げた事柄を繰り返し行い、その精度を上げれば良いのだ」

ヘアケア市場の潮流をつかんだ「阿道夫」。依然として、中国市場の歴史を塗り替える勢いを持っている。

(記事:中国の化粧品業界紙『化粧品報』/協力:日中化粧品国際交流協会)