有力小売業が田舎市場に力を入れると宣言

2018年12月、中国最大級の化粧品専門店「嬌蘭佳人」グループの社長・蔡汝青が19年の戦略を発表した。そのポイントは、田舎バージョンの店舗を発展させること。全国の田舎で加盟店戦略を推し進め、3年以内に全国をカバーすると強調した。実は田舎を重視する戦略は「嬌蘭佳人」だけではない。中国の化粧品業界紙「化粧品報」が18年11月末に開催した広西サミットで、広西「恵之林」のオーナー・蒙裕平も、田舎と都市を連結させた小売加盟ブランド構想について発表している。

なぜ中国の化粧品小売業は、田舎市場を重視するようになったのか。化粧品業界において、地方市場は忘れられがちだ。大多数の化粧品ブランドは、地方市場での発展を語りたがらず、地方までカバーしている代理商も少ない。従来の解釈では、地方市場は田舎=農村を意味し、ブランドが追い求めるイメージとかけ離れているからだ。

だが、田舎を基本とした行政単位を見ると、現在、全国に4万1636の郷鎮行政区がある。全国の人口調査データによれば、17年に田舎に常住している人口は5億7661万人で、総人口の41・48%にあたる。そのほかに2億4400万人の流動人口がある。人口数を見ると、中国の田舎市場は無視できない存在であることがわかる。

近年、都市部の化粧品小売市場は、激烈な競争状態が続いている。だから、潜在成長力がある田舎市場が注目されるようになってきた。しかし、購買力や消費理念が未だに整っていない田舎市場は、化粧品を拡販する場になり得るのだろうか。

化粧品の購入層は誤解されている

その疑問を解消するには、まず田舎で化粧品を購入する消費者は誰なのかを知る必要がある。

12月中旬の週末、湖北黄岡市の下にある田舎町で暮らす80年代生まれの銀行員・暁芳は、夫と子どもを連れて車で約3時間半かかる武漢に向かった。武漢に着くと、彼女たちは真っ先に武昌区にある大型ショッピングモールに向かい、映画やショッピング、グルメを楽しんだ。この日は「双12」が過ぎたばかりで、すぐに「双旦」がやってくる。モール内では、様々なイベントが行われており、新年を迎える準備として、暁芳は自分と家族に洋服を買った。

続いて、暁芳は、よく使う海外の化粧品ブランドに足を運び、スキンケアのセットを購入。その後、日が暮れるまでショッピングを続け、大量の商品とともに家路についた。暁芳が住んでいる田舎町にも、いくつかのモールがある。「蘋果」のような大型スーパーも4~5軒ある。しかし、暁芳は毎月、武漢に行く。彼女が使っている化粧品の大半は、武漢で買ったものである。

もう一つは、少し北の事例だ。山西呂梁市の下にある田舎町で、今年30歳になる小学校教師・莉莉は2人目の子供を産んだばかりだ。職場に復帰後、自分の肌に現れた皺やシミを改善しようとしたが、近隣に満足できる商品は売っていなかった。とはいえ、遠くまで買い物に行くには、子供がまだ幼く、不便。そこでネット上で化粧品の情報を検索し、外資ブランドと国内で流行中のブランドを選択。北京に行く友人に購入を依頼するとともに、ブランドのオンライン・フラッグシップストアで購入した。

暁芳のような銀行職員だけでなく、教師、公務員、通信企業、一般店舗のオーナーなどからなる高知識、高収入の女性グループは、田舎町における化粧品の主な消費者とみなされていた。山西「普麗生」化粧品チェーン店の責任者・張黒只も「銀行職員、教師、公務員などの田舎町の女性は購入力が強く、化粧品に対するニーズも高い。彼女たちは商品をじっくり選ぶし、行動範囲も広いです」と語るが、現実は違う。これは化粧品業界における大きな誤解で、このタイプのグループは人数が限られている。田舎では一握りの存在なのだ。公務員を例に挙げると、3万人の行政村の構成は最多でも100人ほど。張黒只は「田舎町の化粧品の購買層は、夫が仕事に従事し、家で子供の世話をしている主婦。90年代生まれの母親から40歳の中年女性が主力購買層になります」と続けた。

「化粧品報」の記者が全国の田舎町に展開している中小化粧品チェーン店で調査したところ、「五大班子(前述の高知識、高収入の女性グループ)」をターゲットにしている店舗では、売上げがあまりよくなかった。このグループに属する女性は安定した収入があり、1セット1000元の化粧品は負担ではない。しかし、店舗内ではなかなか売れず、200~300元のセットが一番よく売れている。プチ美容整形なども受け入れられていない。

広西にあるチェーン店のオーナーによると、田舎町の化粧品店舗は、春節の前後2カ月間は業績が上がる。それは里帰りしてきた女性がもたらす活気で、短期的なもの。「3月に入るとすべてが元通り」になるという。

では、田舎市場は本当に購買力がないのか。ベビー用品を扱っている店舗のオーナーはすぐに反対するだろう。湖北黄岡の田舎町を例に挙げると、センター街の100メートル余りの通りに10軒以上のベビー用品店がある。90年代生まれの母親が徐々にメイン層となっている。ネットなどから情報を得て、ブランドや品質の識別能力が高くなっており、マイナーなブランドに見向きもしなくなっているという。

これと同じように、彼女たちは化粧品の購買力を持っている。広西「嬌聯美粧」の総経理、李春強は、欽州管轄の田舎町にある傘下の店舗(2軒)の客単価は60元もあるとし、「現地の人が高い化粧品を買えないわけではありません」と話す。17年、あるシミ取りのブランドが現地で大流行した。直接、消費者に商品を売るのではなく、一次代理店、二次代理店などに販売する「微商」特有の販売スタイルで、1セット1万元ほどの商品が瞬く間に現地の主婦に広がった。このような一見理解しがたい購買行動は、他のカテゴリーでも発生している。記者の故郷でも、似たような購買層が何千元、何万元を無名の保健用品に使っていた。

その他に、全国の田舎町が大発展している環境において、農村住民の収入も増えている。公開データによると、17年都市部の平均収入は3万6396元で前年比8・3%増。17年農村部の平均収入は1万3432元で同比8・6%増。当然のことながら、農村住民収入の成長は都市部より速い。張黒只は「田舎町は就職の機会を大量につくっており、さらに都市部は生活ストレスのため、若者が田舎町に戻ってきている。これは田舎町の購入能力を高める要因にもなっている」と話す。

田舎で化粧品店が流行らない理由

「都市でも農村でも、スキンケアは女性に強い需要がある」と四川「拾美屋」商品総監・彭海は話す。田舎市場の競争は緩い。さらに大部分の市場は飽和していないため「田舎市場の潜在力は非常に巨大だ」と感じている。にもかかわらず、小売業はこの市場に積極的に入ろうとしているわけではない。

「化粧品報」によると、多くの地域で大型チェーン店は田舎市場を開発していない。例えば、13年に淮南で店舗を立ち上げ、いまでは20余りの店舗網を持つ「億佰名品」は、田舎町に進出していない。オーナーの閻利は「田舎町の経済力はやはり弱く、人口も少ない。流動性も高くないので、あまり期待できません」と打ち明ける。また、240店舗を持つ四川「金甲虫」も、田舎町に限ると24店舗しかない。新たに展開する36店舗にも田舎町は含まれていない。

雲南店王「千色千美」も、同じく田舎町に展開しておらず、総経理の楊家権は、田舎町への投資はリターンが低すぎると指摘。「リフォーム代を考慮しなくても、30~40平方メートルの店を田舎町に開くのに、最低でも10万元はかかる。一般的な化粧品店舗を見ると、発展している都市なら1年で元が取れる。しかし田舎町の店舗は1~2年で元を取れる可能性が低い」。だから、「千色千美」も田舎町に展開する計画はない。

李春強は「やはり『人』の問題」と、田舎町の市場規模が小さいことが原因と話す。欽州管轄下にある田舎町の人口は4~5万程度、湖北黄岡の田舎町は7~8万程度、四川都江堰の田舎町は8~10万程度、雲南の多くの田舎町は3~5千人しかいない。そのほかに、田舎町の人口移動はさらに少なく、小売側からすれば、基本的には「常連客商売」をしているだけで、業績を一気に伸ばすのは非常に難しい。

また、チェーン店にとって、田舎町でのスタッフ確保も大きな問題である。李春強は、現在経営している2軒の田舎町店舗を動かすのに適した人員を探すのに苦労している。「田舎町は若者が少なく、転職率も高い。ようやく店長に育て上げたかと思えば、結婚や出産を機に辞めるケースが多いのが実情なのです」。

その他、化粧品ブランドが田舎町を重視していないことも、化粧品店の悩みの種だ。ブランドの人員構成を考えると、田舎町の化粧品店を対象に研修を頻繁に行うことは難しい。その結果、田舎町の店舗サービスは、なかなか質が向上しない。その上、物流や交通の便利性が低いため、最新の商品やカウンターを導入することは至難の業である。

田舎で月10万元以上売る店もある

張黒只は次のように語る。「あと一つ、現実的な要因として、中国の田舎町の差が大きすぎることもある。例えば、南の沿岸地区にある田舎町は、北の方の都市級の町よりGDPが高い場合もある」。費孝通は『郷土中国』の序章で「基礎から見ると、中国社会は郷土性である」と綴っている。郷土社会の大きな特徴として、地方ならではの生活が多彩にあること。多くの郷土コミュニティの間には距離があり、それぞれ独立している。そのため、全国各地の田舎町は、経済状況が違うだけではなく、風習なども千差万別で、張黒只は「田舎町の状況は都市部より複雑で、チェーン店が一貫したパターンを適用するのは難しい」と指摘するのだ。

張黒只は、田舎市場の課題を詳細に分析する必要があるという。例えば、発展した地区と発展してない地区の店舗を比べると、前者は店舗やブランドのグレードアップが課題で、消費者のニーズに応える必要がある。後者はブランドの品質問題を解決するのが最重要で「閉鎖的な地区の消費者にとって、彼らが一番必要としているのは高い知名度がある高品質な商品なのです」。

その上で「拾美屋」のやり方は緻密だ。現在、田舎町に五つの店舗を出しており、出店速度は速くないが、確実に広めている。彭海は、店舗運営にあてられる資源は限りがあるので、一定以上の経済基礎があるか、高校がある田舎町を優先に店舗展開を考えており、「前者は購入能力が保障される。後者は潜在顧客が見込めるから」と話す。

また「拾美屋」は加盟店形式をとっている。夫婦や昔の店員が田舎に戻り立ち上げるケースが多く、「田舎町でのリターンは遅いので、長期的に店を守っていく必要があります。なので彼らにとって、加盟店形式は一定の収入があるので、非常に向いている」と彭海はいう。

「拾美屋」の田舎町加盟店は、必ず現地で最も優れたロケーションを選ぶ。中心街や高校の周辺、同じ通りにほかの化粧用品店がある場所を選ぶ。「競合店と真っ向勝負になりますが、これで化粧品販売の質を高めるとともに、消費者が感じる街の雰囲気もアップします」。商品の価格は、都市区に比べやや低く設定している。沐浴用品や日常雑貨を少し増やしているが、メインは、やはりスキンケアとメイク。「化粧品の専門店であることを示し続けることができます」と彭海は話す。

「拾美屋」の田舎町店舗は正確なポジショニングが功を奏し、平均月売上げは10万元近くに達している。最も発展している都江堰中心鎮の店では、約15万元の売上げをキープしている。

田舎の化粧品市場の発展はこれから

もちろん、化粧品報が湖北地区の田舎町の店舗を回ったところ、田舎町に化粧用品市場がないわけではないが、多くの地域の化粧品店は外観や商品の並び方が昔ながらの「雑貨店」に近い。これらの店舗では、化粧品以外に日用雑貨品が大半を占め、タオルや下着などの商品も含まれている。李春強は「このような店でも、案外しっかりと経営されている」と語るが、このような店舗は競争力がなく、規模の発展が難しい。したがって、オーナーは一定の年齢までやったあと、そのまま店をたたむケースが多いのが現実である。最後に李華強は次のように語る。

「田舎市場では化粧品に対し、一定のニーズがあります。全国の消費水準が高まっているなか、田舎の住人は、これまで以上に専門的かつ品質の良い化粧品を求めるでしょう。ですから、化粧品専門店は必ず成長の機会があります。しかし、必要となるのは、そのような現地の消費者と効率的に出会うやり方を見つけ出すことだと思います」

(記事:中国の化粧品業界紙『化粧品報』/協力:日中化粧品国際交流協会)