「僕は内定式の中身を知らないんですよ」とポーラの横手喜一社長は楽しそうに話す。同社は10月1日に内定式を開催。出席者は2019年4月に入社する22人(総合コース12人、百貨店販売コース10人)だが、一風変わっていたのは、「ボクらの内定式」と題して、式のコンテンツを内定者が自主的に企画したこと。横手社長にも内容を明かさず、内定者はサプライズ感を演出した。これは16年に始まったブランド戦略のもと、人事部門が脱・前例踏襲に挑み続けていることを示している。

発案者は、2年前にポーラに入社し、人事部門に配属された前田まどか氏。ポーラが目指す社員の人材像は「VALUE CREATOR」で、失敗を恐れず仲間と互いに高め合いながら、感受性豊かに物事の本質・ストーリーを大切にし、未来に向かって常に貪欲に成長する人。ポーラ流に言い換えると、「共創力(共感力×創造力)」を持つ人材である。とはいえ、企業の式典は毎年同じ内容になりがち。ポーラの人材像にふさわしい形にするために、前田氏は、自身も経験し、前例に倣っていた内定式を変えようと、内定者が主導する案を考えた。荘司祐子人事部長は次のように話す。

「一緒に働く同期同士の相互理解を深めるとともに、内定式に出席する経営陣、社員が内定者の個性を理解する場にする。こういった目的を内定者に伝え、あとは自由に企画してもらいました。我々からは、SenseとInnovationで自分たちらしい今までにない内定式にしてね、と話しただけなんですよ」

内定式の企画は、総合コースの内定者が3チームに分かれて企画し、コンペを行い、みんなで決めたという。コンセプトは「画家が集まったら、どんな傑作ができるかな?」。内定者一人一人が画家となり、5人1組のチームを結成。共通テーマ「偽りの鏡」に沿って、模造紙に一つずつ自由に絵を描く。持ち時間は一人25秒で、交代時間は5秒。つまり、考える暇を与えず、インスピレーションをもとにした各自が絵を加えていくわけだ。「ポーラの採用で行った、絵画を見て表現するSense選考からヒントをもらった。みんなで一緒にやれば楽しいかなって思って」(内定者の一人)。

順番に絵を描く内定者

今回の企画では、絵を描くために、ペンやクレヨンのほか、メーク品も用意。自由な発想で絵が描けるように工夫した。チーム内で文字や言葉による情報交換は禁止。当然、他のチームの絵は完成するまで見ることはできない。文字通り、チーム内のメンバーが感性をぶつけあうことを重視している。

多彩なイラストを描く道具を用意

描き終わった絵を前に、各チームがディスカッションを行う。一人一人が何を考え、何を描いたのか。意見を伝え合うことで、相互理解を深めていく。最後は、「お披露目タイム」で、代表者が絵に込めた思い、各自の意図などをプレゼンする。

チームごとに議論し、相互理解を深める

内定式のコンテンツは「VALUE CREATOR」の考え方に基づいたもの。各自が自分のインスピレーションを具現化(絵に描く)し、その意図を他の仲間に伝える一方で、周囲はその発想力を理解し、尊重しつつ、自らの見解を述べる。チーム内の議論を深め、一つの意見にまとめる。そしてアウトプットとしてプレゼンに結びつける。ポーラは、次の時代を切り拓くために、課題を創造し、自ら周囲を巻き込み解決できる人材を求めている。絵を描いているとき、時間厳守に焦る内定者は「何これ、わからない!」「大胆なイラスト!」と大声を張り上げていたのに、プレゼンになると、みんな理路整然。ポーラは狙い通りの人材を確保できている模様だ。

内定者のプレゼンでは、きちっとストーリーを構築

横手社長は次のように話す。

「一人一人の思い、気づきというものをチームで活かすことで、新しい可能性が広がっていく。仕事は、それの連続だと思う。一人でできる仕事はありませんから、チームワークだったり、組織を飛び越えて、外の方々と連携していく。そのときに、自分たちが何を築いて、何を大切にしているのか。それが自分たちだけにとどまらずに、いろいろなパートナーの方々と一緒になって新しい価値をつくっていく。社員の個性と気づきを最大限に活かせる環境を整えていく」

今回の内定者は、ポーラ創業90周年の節目の年に入社する。そして創業100周年(29年)を30代という脂の乗り切った時期に迎える。ポーラ・オルビスグループのミッションは「感受性のスイッチを全開にする」で、個性豊かなブランドが集まる企業グループを目指しているが、その先頭を走るべき世代は、入社前からイノベーターの片鱗を見せていた。