ポーラが2018年に始めた「うつくしくはたらくプロジェクト」は、将来の業績を左右する施策ではなかろうか。同プロジェクトでは、日本の津々浦々で女性活躍推進を目的としたイベントなどを企画し、実行。地域社会の活性化に貢献することで、ポーラブランドの浸透を促し、強い接点をつくることに狙いがある。

一見すると、CSRに近い取り組みで、新カテゴリーを生んだシワ改善美容液「リンクルショットメディカルセラム」のような話題性は乏しく、世間の耳目を集めていない。しかし、地域との連携でブランドの競争力が高まる事例が生まれ始めている。それは京都、大阪、静岡など、古くからポーラが強い地域の話ではない。現状打破を目指す若手社員の大胆な動きも相まって、ポーラの認知度が低い地域で成功事例が生まれているのは見逃せない点である。

インバウンドの恩恵が少ない地方百貨店、化粧品専門店は往年の勢いを失いつつある。カウンセリング販売を好む女性の受け皿として、ポーラが選ばれるには提供価値の浸透が鍵を握る。リンクルショットのプロモーションのような本社主導でポーラ全体の価値を訴求するブランディングに呼応して、全国40カ所のセンター(拠点)が担当地域の市場特性に適した施策を矢継ぎ早に打つ。地域の動きを促す仕掛けといえる「うつくしくはたらくプロジェクト」は、地味だが、重要な施策といえるのだ。

「女性就労」をテーマに地域と協調(熊本県&大分県)

同プロジェクトは熊本センターの若手スタッフの積極的な行動から生まれた。きっかけは、ポーラと秋田県が結んだ包括連携協定に刺激を受けたこと。15年入社の伊佐治颯フィールドカウンセラーが熊本センターに赴任したのは17年春で、その時に最初に感じたのは、「熊本女性には社会進出の大きな可能性があるのでは」ということだった。

例えば、男女共同参画白書(平成29年版)を見ると、熊本県の女性就業率は15位。中小企業庁の統計(都道府県別規模別企業数)によると、熊本県の大企業数は09年が5万7430社、12年が5万3440社、14年が5万2795社と漸減傾向が続く。そのうち大企業も82社から65社と減り、働く場所の確保は容易ではない。さらに平成29年の女性有業率は、全国平均とほぼ同じの50・6%(総務省の就業構造基本調査)で、依然として改善の余地が残されている。

働く女性の増減は、ポーラのビジネスにとって重要な要素だ。商品販売のターゲットが増えるだけでなく、顧客接点(販路)を担うビジネスパートナー「ビューティーディレクター(BD)」のリクルート活動にも影響する。「熊本は、地元の口コミを信用する傾向があり、地元企業の結び付きも強い。ポーラは、東京発の高級ブランドに加え、地域で不可欠な存在として熊本に根付かないと、成長できないと感じた」(伊佐治フィールドカウンセラー)。

そこでポーラ熊本センターと本社組織開発部が中心になって立ち上げたのが「KUMAMOTO Beauty Union」である。「女性が輝く熊本県の実現」という理念を掲げ、県内の女性応援企業、団体をリサーチし、アプローチ。業態・業種の壁を越えて理念に共感する企業、自治体、団体、学校などを約40社を集めた(現在は約60社)。17年12月21日に開いた発足式には約200人が出席。自治体の女性参画課の室長、地元の女性起業家などが集まり、県内で大きな話題となった。

KUMAMOTO Beauty Union

ポーラと地域の共通の思いは「現状を変えたい」で、それぞれが行動のきっかけを求めていた。「KUMAMOTO Beauty Union」は、地域のイベント企画会社、メディアなども参加しており、ポーラ1社では実現できない施策にチャレンジできるのも大きな価値となっている。その具体例は、ママ向け雑誌「ワイヤーママ熊本」とポーラの共同企画「自分でキャリアをデザインできる就業説明会」や、地元企業との連携で街おこしのための商店街でのメークイベントにポーラが参加するなど、枚挙に暇がない。熊本におけるポーラの認知度は高まっており、BDのリクルート数が前年比で倍増。ポーラとコラボイベントを開きたいと、問い合わせする企業数も2倍近くに跳ね上がったという。

「ポーラの強みである商品力と販売力に加え、地域社会の活性化に向けたチャレンジにコミットメントできる環境が生まれつつあり、1年前と全く状況が違うことに手応えがある。今後は競合企業とも連携し、熊本女性の美意識を高めていく。ポーラが熊本県の美容業界を元気にする企業として認知されることに意味がある」(伊佐治フィールドカウンセラー)。このような熊本センターの取り組みをポーラ本社が察知。他のセンターへの水平展開を考え、「うつくしくはたらくプロジェクト」を立ち上げたというわけだ。

熊本商店街メークイベント

熊本センターと同じく、女性就労をテーマに動き出したのが、近隣の大分センターである。田中将朝センターマネージャーは、中途入社組。前職はヨドバシカメラで、国内外のメーカーがしのぎを削る最新家電の店頭訴求を見続けた。だからこそ、ポーラに移って感じたのは、BDと顧客の関係性が深いのに対し、地域での情報発信が弱く、ポーラの商品力、BDの働き方が地域社会に浸透していなかったこと。特に若年層へのブランド価値の発信・浸透は喫緊の課題に映ったという。

熊本と同様、大分でも女性の就労環境を整えることは地域社会の頭痛の種。「特に子育て中の女性が活躍できる環境が整っていない」と大分センターの大塚真輝フィールドカウンセラーは指摘する。ポーラのBDは、ママが働き続ける仕組み、ノウハウがあり、実際に働いているママも多いが、美容経験がないとダメ、子どもがいると難しい、フルタイムでしか働けないと誤解している女性も少なくない。「ポーラの特徴を発信する手段が少ない。キャリアを再スタートする情報を届け、一歩踏み出すきっかけを与えたいと考えた」と田中センターマネージャーは話す。

そこで大分センターは、大分のママに社会との接点を提供する地域団体で、情報発信と交流の創出がミッションの「ママのままプロジェクト」と連携。同プロジェクトのママアンバサダー5人が大分県のBDを取材し、ユーザー4500人はもちろん、フェイスブックやインスタグラムを通じて、ポーラでの働き方を広く県内に拡散させた。

大分でのイベント1

地域コミュニティと連携することで、「ポーラで働く」ことに興味や関心を持つきっかけを創出。それによってリクルート活動にも少しずつ変化が出ており、「目的や夢を持ってBDに応募してくる女性が増え始めている」と田中センターマネージャーは話す。転職直後に感じた地域社会への発信力不足は改善し始めている。

大分でのイベント2

地元メディアとの連携で下位常連の業績が反転(宮崎県)

就労環境の整備とは異なる視点の取り組みで、どん底の業績から徐々に変化を見せているのが、宮崎センターだ。宮崎の市場環境は厳しい。「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省)によると、平成29年の宮崎県の人口は、前年比7536人減の111万2008。そのうち、女性人口は同4177人減の58万6074。生産年齢人口(15~64歳)は、同2916人減の31万6554人。「宮崎市だけを見ると、人が集まるのは、西日本最大級の集客力を誇るイオンモール宮崎のみ。新客の獲得はもちろん、キャリアアップに意欲を持つ人材を探すのも至難の業」(宮崎センターの井口拓斗フィールドカウンセラー)で、業績は全センターの中で下位が常連だった。それが18年上期は6月末新人BD在籍人数は同140%、トライアル増客率は同130%、エステ新規コース客数は同137%と、いずれも全国3位の成果を叩き出したのである。

「BD研修の参加者は20人以上増えて3桁の大台に乗った。さらに2年半以上も新規出店がなかったが、18年8月に新ショップが誕生。宮崎センター全体のモチベーションが高まっている。宮崎センターの未来が楽しみ」(井口フィールドカウンセラー)

宮崎センター躍進のきっかけは、井口フィールドカウンセラーが仕掛けた「MIYAZAKI WOMEN’S ACTION」である。「女性が、もっと元気に、もっとイキイキと過ごせる社会を創りたい」をテーマに、地元の有力メディアである宮崎放送(MRT)と連携。取り組みの第1弾として、6月24日にイオンモール宮崎でイベントを開いた。

MIYAZAKI WOMEN’S ACTIONが行ったイベント1

集客の目玉は元宝塚女優の遼河はるひ氏のトークショー。さらにポーラ女性オーナーとMRTの川島恵アナウンサーが子育て中のキャリア、働くことの醍醐味などを語り合い、会場は約400人の観衆で埋め尽くされた。ポーラは、特製美容ドリンクや化粧品体感ブース、屋外ヨガ、アロマ体験ブースなどの美容コンテンツを無償提供。MRT側は、テレビCM(約40本)、二つの情報番組、四つのラジオ番組でイベントを事前告知。さらに報道番組でも、イベントの様子を連日取り上げ、県内中にポーラの取り組みが知れ渡った。

「地元メディアとの連携のメリットは、ポーラだけでは実現できない情報拡散ができること。ここからもっと多くの地場の有力企業と連携を組み、女性活躍推進の大きなグループをつくっていきたい」と井口フィールドカウンセラーは説明。この効果が早くも業績に結びつき始めているわけだ。そもそも井口フィールドカウンセラーが情報拡散力に着目するのは、自身が3万人のフォロワーを抱えるインスタグラマーだから。若手社員の発想が地域におけるポーラの立ち位置を変え始めている。

MIYAZAKI WOMEN’S ACTIONが行ったイベント2

現場の動きを変えたセンターマネージャーへの権限委譲

ポーラの各センターの動きが変わったのは、16年以降のことだ。それまでフィールドカウンセラーが兼務していたセンターマネージャーを独立させ、予算と権限を委譲。本社主導のブランディングを活かし、地域の現状に沿った取り組みを各センターが行えるようにした。実際、フィールドカウンセラー兼センターマネージャーだった大分センターの田中氏は「地域らしいチャレンジを現場が考え、実行することができる風土が生まれたのは大きい。正直、兼務だと、担当店への思い入れが強くなるから個別最適になりがち。現在のセンターマネージャーは市場を見て、全体最適で物事が考えられる」と話す。

18年9月には第2回「うつくしくはたらくプロジェクト プレゼン大会」を本社で実施。全国26カ所のセンターが応募し、一次選考を通過した9センターがそれぞれのプランを披露。グランプリは、BDや顧客の子どもがポーラの仕事を体験できるプログラムを開発し、集客に活用している埼玉センターで、準グランプリは、新聞社と連携し、高校生、大学生向けの専用就活雑誌にリクルート情報を載せている西九州センターだった。ポーラにとって伸び代がある地域は多い。本社と地域が連動するブランディング戦略を全国に広げるのは重要な成長戦略である。