質の追求に終わりはない。ポーラは2019年1月に組織を一新。国内のビジネスパートナーを支えてきたFC（フィールドカウンセラー）のミッションを抜本的に見直し、名称をコンサルタントに変更。さらに、事業部はもちろん、国内と海外も横断する教育体制「ユニバーシティ（UNIV.）」を立ち上げた。この狙いは、事業目標として掲げているグローバル市場におけるブランドプレゼンス確立に日本発のブランドらしい体験価値が求められ、しかもその質を国内外で均一化することを迫られているからだ。
プレステージブランド「B.A」を軸にするポーラブランドの価値は、商品力、接客力、エステそれぞれの質の高さはもちろん、その連動による感動と驚きを与える体験にある。昨今、顧客の購買行動は多様化しているが、当然、ポーラも例外ではなく、例えば、六本木で開いたイベントで配布したクーポンを静岡で使用した女性がいる。中国の上海、瀋陽にある直営ショップでエステを受けるのは、同社は調査中としているものの、訪日時にポーラを体験した女性が大半だという。
地域、国境を越え、動き回る女性とブランドが出会う事例は枚挙に暇がない。いつ、どこで、誰がポーラと接触しても、質の高い独自価値を提供するには、どうすべきか。この課題解決に向け、ポーラは組織を一新。質の追求を次のステップに進めたのである。
改革の象徴だったFCを廃止
「機は熟した」とポーラの及川美紀取締役執行役員は話す。16年1月に始めた改革によって、マーケティング、ビジネスパートナーであるビューティーディレクター（BD）の先鋭化、起業家精神を持つBDの増加、地域の実情に即したブランド訴求などが進み、ポーラの見え方は変わり始めた。事実、従来の日本的な働き方に満足しない20代、30代の女性の転職先として、独立事業主になるポーラBDを選ぶケースが増えているという。BD登録から出店までの平均期間は約2年から半年以上も短縮。これは向上心を持つBDの増加を示す、一つの指標だろう。この成果があるからこそ、ポーラは質の追求を強化することができる。「改革は登山でいうと3合目」（及川取締役）で、特にFCの動き方を改めることで、全国の各地域におけるポーラの存在感を高められると考えている。
もともとFCは、2000年代にポーラが断行した事業構造改革の象徴だった。昔ながらの訪販から誘客型へとビジネスモデルを変えるにあたり、FCは顧客接点を担うビジネスパートナーに寄り添い、営業、教育、経営管理などを全面的にバックアップ。ポーラ売上高の87.4%（18年12月期）を稼ぐ誘客型店舗ポーラザビューティ（PB）、エステインが増えたのは、FCの活躍抜きには語れない。そのFCの名称を変更したのは、ポーラのビジネスが様変わりしていることを示している。FCをコンサルタントに変えたのは、ポーラにとってエポックメイキングな出来事。片峰靖朗執行役員は次のように語る。
「もはや日本社会は均一ではなく、都市と地方それぞれに個性が生まれている。当然、ポーラのショップの役割、経営スタイルも均一ではなくなる。時代の変化、地域の変化に対応することが必要なんです」
FCの役割は、研修から営業支援、地元企業との接点拡大など、多岐に渡っていた。しかも、ビジネスパートナーにとっては頼りになる存在で、商品のこと、販促のこと、制度のこと、わずかな疑問もFCに聞けば、すぐに回答してもらえた。これらの仕事が積み重なることで、FCとビジネスパートナーの絆が深まったことは事実だが、FCの仕事量が過剰になったのは否めない。
そこで19年1月、ビジネスパートナーの相談窓口として本社内にサポートセンターを、さらに会社全体の教育を手がけるユニバーシティを設置。FCの役割の選択と集中を進めた結果、本来の仕事である市場目線でビジネスパートナーのプロ化を支え、地域特性に合わせてポーラらしい驚きと感動を提供できるショップを増やすことに集中できる。ビジネスパートナーのコンサルティングを行うから、役職の名称をFCからコンサルタントに変えたのだ。及川取締役が説明する。
「FC改革の目的は、市場対応力を上げること。一人の経験則や考え方に依存していては、市場が変化するスピードに対応できない。PDCAをショートインターバルで行える仕組みにすることが不可欠でした。コンサルタントに必要なのは、市場の変化を捉える感度、仮説の構築力、実行力、提案力などのビジネススキル。そして、ビジネスパートナーから信頼されるのに必要な人間力だと思っています」
合言葉は「地域を元気に」
コンサルタントは約300人で、役割は3種類に分かれている。一つは、シニアコンサル。地域のリーダー的な役割で、戦略の全体像を描く。もう一つは、マーケットコンサルで、市場開拓やBDのリクルート活動など、外部接点を増やす仕事を担う。三つ目はショップコンサルで、出会った顧客の定着化に向け、ビジネスパートナーを支援する。
コンサルタントの配置も変わった。従来の40センター制を11エリアに統廃合。シームレスに動く顧客、地域ごとに異なるニーズに合わせて、県単位などではなく、商圏単位で区分し直した。さらに11エリアの下には、48のゾーンを設定。センター制よりもきめ細かく地域での取り組みを行うためだ。
「三つのコンサルタントは、チームとして考え、行動する」と片峰執行役員は説明する。わかりやすい例は「うつくしくはたらくプロジェクト」だろう。ポーラが18年に始めたもので、狙いは、日本の津々浦々で女性活躍推進を目的としたイベントなどを企画し、実行。地域社会の活性化に貢献することで、ポーラブランドの浸透を促し、強い接点をつくることだ。三つのコンサルタントが連携しなければ、地域の実情に即した活動は生まれないし、実行もできない。
ポーラは、半年ごとにプロジェクトの社内プレゼン大会を開いているが、「1年半前にスタートしたが、提案が途切れない。一生懸命、考えられた提案が集まってくる。最初は、地域と共創としてリクルートの環境を改善しようという、実績に結びつく発想が多かったが、いまは、むしろ、社会課題である地域が元気になること。女性が活躍することに対して、ポーラができることを実行するプランに進化してきている」と片峰執行役員は話す。
確かに、19年3月8日に行った第3回プレゼン大会では、全国から集まった13プランのうち、書類選考を勝ち抜いた六つのプラン（秋田、山口、宮城、山形、九州、首都圏）が披露された。評価ポイントは、「市場視点に立ち地域社会とポーラとの共創を実現している」「地域社会の課題を的確に捉え、ポーラの強みを活かした取り組みができている」「実現可能性が高く、水平展開できる内容である」の三つである。
「うつくしくはたらくプロジェクト」のプレゼン大会
第3回大会のグランプリは山形の「家族みんなで！こころもカラダもイキイキ美しく生きるプロジェクト」だった。山形県が推進している「健康寿命日本一プロジェクト」と連動したもので、ポーラ山形ゾーンのビジネスパートナー（約60人）が健康管理能力検定を取得。60代以上が参加している包括支援センターでのホリスティック＆メークレッスンに加え、保育施設・保育研究会での講演などを積極的に開催している。
現代社会はルーチンワークを評価しない
この副産物として、山形ゾーンではBDのリクルート活動が好転し始めている。というのは、山形県は3世代同居人数全国1位。BDになろうとしたものの、家族の反対で断念する女性が少なくなかったが、プロジェクトを通じて祖父母世代、子育て世代がポーラの働き方、ビジネスモデルを知る機会が増えたことがリクルート活動の追い風になっている。「ポーラの地域認知度を上げ、嫁・娘・孫を働かせたい会社へと成長させたい」と東北エリア山形ゾーンはさらに動きを強化する様子。ポーラの横手喜一社長は、次のように話す。
「うつくしくはたらくプロジェクトほど、（プレゼン大会で）優劣をつけるのに不条理さを感じるものはない。どのプランも、全国に広げていきたい。全社員の誇りになる可能性を秘めている活動を推進しているのは、素晴らしいことだ。これからの時代は、地域に支えられる、地域に認められることが大切になる。それは、その地域に所属する人たちの誇りになるからだ。
ブランドの誇りになることに大きな価値がある。すぐにお客様ができるわけではないが、将来のお客様、リクルートにつながる。そして地域の方々が求めているのは想いだ。ポーラは、未来を一緒につくろうとしているのか。この地域に住む私たちの未来に向けて、どんなメッセージを発信してくれるのか。それができている地域は、共創がどんどん広がっていく。
現代社会は、決められたことをやっても評価しない。どんな未来をつくりたいか、という想いがある仕事を評価し、期待する時代になったのだ。そんな時代にふさわしい活動が、うつくしくはたらくプロジェクにはつまっている」
当然、地域に根ざす活動は、目に見える成果、つまり業績に反映されるまでに時間がかかる。ゆえに、各エリアの手綱を引く11人のゼネラルマネージャーは、一人一人が経営者の意識を持ち、長期視点で施策を考え、打つことが求められる。及川取締役が説明する。
「11人のゼネラルマネージャーには、今後、経営会議への参加も依頼しています。また、私や片峰と経営レベルのディスカッションを毎月1回、開くようにしています。これまでの経営陣から現場への情報伝達は不足していたのではないか。この反省に立って、ゼネラルマネージャーの経営的判断力を高める取り組みを進めていく」
ポーラ、組織改革の全貌（後編）「【図解】再構築した人材教育の仕組み」に続く
