コンサルタント立ち上げの一方で、2019年1月に発足したユニバーシティも、ポーラブランドの浮沈を握る重要な組織だ。これまでポーラの人材育成の仕組みは、事業別だった。TB(Total Beauty)事業、PS(Prestige Store)事業、海外事業それぞれに教育部門があったため、顧客層などによって接客などに若干の差が生じていたのは否めない。また、TB事業のビジネスパートナーであるBDの教育は、ショップを持つオーナーマネージャー(OM)、複数のOMを育てたグランドオーナー(GO)が担う比重が大きく、教育のレベル、BDの成長速度、スキルの習熟度を均一にすることは、至難の業だった。

(前編)「FC廃止とコンサル新設の狙い」はこちらから https://kokusaishogyo-online.jp/2019/04/22721

その点、ユニバーシティの特徴は、組織横断の機関であることだ。TB事業、PS事業、海外事業の教育を集約することで、商品力、接客力、エステの連動が生むポーラの価値を正確にお客に伝えられる人材を育てられる。ユニバーシティを率いる神谷知子執行役員は、次のように語る。

「ポーラは今年、創業90周年を迎えます。長い歴史のなか、当然、企業として浮き沈みはありましたが、それを乗り越えられたのは、人材育成を大事にしてきたから。18年に接客コンテストを始めたのは、ポーラの接客スタンダードをつくり、浸透させるためです。またビジネスパートナーのサクセスロード(編集部注:BDのキャリアパス)では、最重要視するのは人間的成長で、それを支えるのがスキルの習熟であることを示した。このようなポーラの人材像が明確になったことで、次のステップとしてユニバーシティによる『憧れ選ばれるプロフェッショナルを育成する』ことに挑戦できるわけです」

教育拠点は東京、大阪、上海など6カ所

ユニバーシティの組織体制(図)を見ると、学長は神谷執行役員。その下にビューティークリエイション学部、ビジネス・SAL学部、教育本部がある。

(図)ユニバーシティの組織体系

ビューティークリエイション学部は、BD、BCのスキル教育に加えて、実際の教育に当たるトレーナーを育成するのがミッションだ。トレーナー数は約60人で、ポーラの百貨店カウンターで働いていた美容部員(BC)もいれば、ホリスティックケアブランド「THREE」を展開するグループ企業ACROでメーキャップアーティストを務めていた男性もおり、人材は多彩だ。とはいえ、素人が教えてもプロは育たない。メーク検定1級取得を義務付けるなど、昨年冬以降、トレーナーのプロフェッショナル化に力を入れている。

ビジネス・SAL学部の最大の役割は、OMのビジネススキル、マネジメント強化もさることながら、コンサルタントの育成である。シニアコンサル、マーケットコンサル、ショップコンサルの仕事内容に応じて、必要なスキル、人材像を明確化し、一般的なビジネススキルだけでなく、ポーラ独自のコンサル活動に必要なノウハウを身につけさせる。

ビジネス・SAL学部は、ビジネス学科とSAL学科に分かれている。ビジネス学科は前述のコンサル教育の要で、SAL学科は、ポーラの企業理念「Science. Art. Love」を考え、学ぶ場所。学部名の由来も、これである。ここは幅広い知識を得たり、専門性を追求したり、コンサルタントのスキルを高めるために必要なリベラルアーツを学ぶ場といえる。ポーラが定義するコンサルタントの必要用件は「ビジネススキル」と「人間力」を備えることだが、神谷執行役員は次のようにいう。

「コンサルタントは、GO、OMを優れた経営者に育てるために全体を俯瞰して動くことが求められます。そして人材投資に前向きに動けるよう、OMをコンサルティングすることも必要です。コンサルタントの活躍によって、人材育成への意識が高まったGOやOM、成長意欲が高まったBDを育てるのが、ユニバーシティの役割です」

実際の教育に当たる教育本部の下には、中心的な役割を果たす東京校、大阪校、名古屋校がある。そして東京校の傘下に札幌校と上海校を、大阪校の傘下に福岡校を設置している。

(図)ユニバーシティ(各校)

さらにBDに対しては、集合研修の効率化、高度化を図るため、いつでも、どこでも、ポーラのブランド、商品、エステなどのノウハウが動画で学べるEラーニングアプリ「P-Study」を導入。各校で行う授業に参加する前に予習ができることから、授業は冒頭から実践に入れる。極力、座学を省き、お互いの技術確認、ディスカッションしながら思考力を高めるワークなどに時間を割くわけだ。また、「P-Study」によって、例えば子育て中のBDは、子供が寝ている時間にスキルを高めることも可能。教育の効率化はもちろん、フレキシブルな働き方を支えることにも結びついている。

製販の一体感が生む独自の競争力

ユニバーシティが機能するには、もう一つ、ポイントがある。それは授業を受けたBDが各店舗に戻った後、習ったスキルを高めるためのOJTを実践できるかどうかである。OJTの徹底には、人材育成に高い意欲を持つGO、OMを増やすことが不可欠。神谷執行役員は「教育が点で終わるのは絶対に避けなければいけない。だから19年上期はOJTの徹底をテーマに掲げています」と話す。実際、OMに対してコーチングといったBD育成に必要なスキルを高める研修を実施するなど、ユニバーシティは積極的に動き出している。当然、日々の仕事に励むGO、OMに対して、OJTの実施を促すのはコンサルタントの役割でもある。つまり、ユニバーシティとコンサルタントは、ブランド価値向上の両輪といえるのだ。及川取締役は次のように語る。

「教育の仕組みを変えるにあたり、ポーラの人材像を階層別、職種別に整理しました。例えば、ポーラとしてあるべきBD像、BC像、OM像、GO像、社員像は何か。それぞれに人間力とスキルの融合が必要で、それも明確化した。特に、TB事業においては、OM、 GOになるための基準も、ユニバーシティの仕組みと連動するようにし、教育の実効性を高めています」

例えば、GOのコンピテンシーは7種類(図)と細かい。また、単に売上高と連動していた報奨金などの支援制度を抜本的に改め、所属BDの資格取得と連動するようにした。インバウンド需要が取り込める店舗ではなく、ブランド価値を発信できる、ポーラにとって必要不可欠なショップや人材を評価するというわけだ。冒頭で示したように、上海・瀋陽のポーラ直営店でエステを受けるのは、訪日時にポーラを体験した中国女性が多い。国内市場とアジア市場は連動しており、ポーラにとって立地に関係なく、ブランド価値を提供できるショップへの投資を厚くするのは理に叶っている。

以前のポーラであれば、GOの昇格要件の変更に踏み込むことはできなかったかもしれない。それだけポーラの販売組織が持つ「販売力」は強い。しかし、昨今は、自らの成長を求めるビジネスパートナーが増えたことで、メーカー側の役割、販売側の役割が整理された。これまで以上に製販が健全な関係性を構築しつつある。

それを印象づけたのは、首都圏エリアが3月11日に本社で開いた、がんセミナーだ。これはポーラが18年4月に始めた従業員とその家族およびビジネスパートナー(約4万1000人)が対象の「がん共生プログラム」の流れにある。がんに対する理解を深め、安心してがんと向き合う。そして、経験を大切に学ぶことを重視していることから、社員と首都圏エリアのビジネスパートナーを対象にセミナーを開いたのだが、そもそも社員とビジネスパートナーが同じセミナーを同時に受けるのは、初めての試みなのだ。

セミナーは4部構成で、前半二つは従業員のみ。後半二つの講演のうち、がんの専門医から学ぶ「がんの基礎知識から検診・治療まで」には従業員33人、GO40人、BD16人の合計89人が出席。もう一つの講演「ハンドトリートメントは本当にひとに癒しを与えるのか ~緩和ケア週間でPOLAのハンドトリートメントを導入した結果を踏まえて~」には従業員33人、GO40人、BD30人の合計103人が出席した。

「これほど多くのGOが参加してくれたのは予想外で、素直に嬉しい」(セミナー担当者)。ポーラブランドの強みは、製販一体であること。それが他社とは違う競争力を生んでいる。とはいえ、ポーラの目標は、日本を含むアジア、その先の欧米市場におけるプレゼンスの確立である。そのブランド価値の源泉は、日本の地域。11エリア48ゾーンを受け持つTB事業は製販一体の象徴として地域戦略で勝ち抜くことが求められる。カウンセリング販売のライバルである化粧品専門店、美容室も、ポーラをベンチマークしている。もちろん、ブランド発信を担うPS事業こそ、アジア、欧米を見据えたとき、真価が問われるのは間違いない。成果を出すのはこれからだが、海外事業は、日本国内の進化についていけるかどうか。コンサルタント、ユニバーシティが背負うのは、ポーラの未来である。