マンダムは、先端化粧品科学共同研究講座(大阪大学大学院薬学研究科とマンダムとの共同研究講座)において、発汗制御につながる次世代の制汗剤創出に向けた基盤技術の研究開発に取り組んでいる。今回、大阪大学の薬学研究科、蛋白質研究所、医学系研究科と共同で、発汗時におけるヒト汗腺の収縮を可視化することに成功した。

汗腺の発汗における収縮のしくみを明らかにするには、汗腺の構造をくわしく理解する必要がある。これまでの 研究により、ヒト汗腺の三次元構造解析によって、発汗収縮の解明のヒントとなる汗腺の特徴的な立体構造を明らかにしてきたが、この汗腺の構造がどのように収縮して汗を押し出すのかは明らかになっていなかった。

そこで共同研究では、発汗収縮を担うヒト汗腺のコイル構造に着目し、3次元構造の時間的な変化の解析に有用な三次元ライブイメージング法(3次元の動きを動画で観る方法)を取り入れ、生体に近い状態の汗腺における発汗収縮の動 きを明らかにした。この成果により、発汗時の汗腺収縮を抑える次世代型制汗剤が開発できれば、昨今の生活者の悩みである多汗や汗臭の改善に大きく役立つと期待されている。

1. 次世代デオドラント剤の創出に向けた取り組み

汗腺は、片方が閉じた1本のチューブでできている。チューブの開いた方は、肌の表面(汗の出口)にあり、もう一方は肌の表面から内部に向かって数ミリ下まで伸び、その先でコイル状に折り畳まれている。この汗腺のコイル領域 は、分泌部と一部の導管部で構成されており、分泌部の一番外側に筋上皮細胞が取り囲んでいる。この筋上皮細胞が発汗時に収縮すると、分泌部でつくられた汗が導管部を通って肌の表面に放出されると考えられている(図1)。

図1:汗腺の構造

近年、この発汗による生活者の悩み(多汗や汗臭)が、温暖化や社会環境の変化を背景に増えている。この悩みを解消するために、塩化アルミニウムなどの汗腺の出口にフタをする成分が既存の制汗剤には配合されている。

しかし、たくさん汗をかくとフタが取れたり、しっかりフタをすると汗の中に含まれている物質が汗腺の中で炎症を起こしてしまう。共同研究では、汗腺の分泌部に直接作用して休眠させるような(汗をかかなくするような)制汗剤が開発できれば、既存の制汗剤では解決できなかった生活者の悩みを解消できると考えている。

2. ヒト汗腺の発汗収縮の観察に成功

発汗収縮を抑える制汗剤を開発するためには、まず、どのように汗腺が収縮しているのか、その仕組みを理解するための観察法が必要になる。そして、その観察法を応用して、収縮を抑える成分を見つけるための評価法が必要となる。

そこで、体の中で起こっている汗腺の発汗収縮を生体外で再現することに挑戦。実際に汗腺のコイル領域をヒトの皮膚組織(倫理審査承認済み)から取り出し、三次元ライブイメージングという手法を用いて、生体に近い状態での汗腺の発汗収縮の観察を試みた。発汗収縮に適切な試薬やその濃度、収 縮が観察できるイメージングの解像度や撮影スピードなど、発汗収縮の観察に必要なさまざまな条件を一から検討。その結果、発汗刺激によって、ヒト汗腺が非常にダイナミックに収縮する映像をとらえることができた(図2)。

図2:ヒト汗腺の発汗刺激による収縮映像 (赤枠:拡大図、黄矢印:収縮による汗腺チューブの動きを示す)

3. 発汗刺激による汗腺収縮の評価法の確立

共同研究はさらにこの発汗収縮の映像を細かく解析していく中で、発汗収縮している汗腺の内部において、分泌部から順に汗腺のチューブ内のボリュームが汗が押し出されるように順番に大きくなる現象をとらえた。このボリュームの変化を特殊な画像解析ソフトを用いて数値として算出することで、発汗収縮を客観的に評価する方法も確立した(図3)。

図3:発汗による汗腺収縮における汗腺チューブ内のボリューム変化 ※分泌部、導管部の特定した部分におけるチューブ内のボリューム(体積)の変化を測定

この結果は、共同研究が確立した観察法が実際に体の中で起こっている汗腺の発汗収縮を生体外で再現しており、さらには、この観察法によって得られたデータを解析することで、有効成分(汗腺に直接作用して発汗を抑 える)の探索が可能であることも示している。

今後は、この評価法を用いて、発汗制御につながる次世代の制汗剤の創出を目指す。