「マンダムの挑戦①」からの続き。https://wp.me/pacadT-2Qy
ロングインタビュー「マンダム 西村健常務執行役員」
日本の社員にも歯を食いしばってもらう
--創業90周年を迎えた昨年、新・企業理念として「人間系」企業を打ち出しました(図参照)。マーケティング部門は「人間系」を追求していますね。
西村健(以下、西村) マンダムは、奔放に、そして大胆に世界中の生活者の日常を発見や感動で満たす。企業理念の中でも、この言葉に強い思い入れがあります。マーケティングは付加価値を生み出すのが役割です。AIやビッグデータなどは使いこなしていかなければいけないけれど、それが当たり前の世の中になると、どのように差別化していくのかが、より一層問われる。機能的価値の差別化を図るために研究所は頑張っていますが、各社の競争は激しい。昔に比べると、独自の機能価値を打ち出すのが難しいのは事実で、だからこそ、化粧品ならではの情緒的価値を生むマーケティングが重要になる。機能と情緒の両輪を回していかなければ、競争力を高められないと考えています。
図 創業90周年を機に掲げた新企業理念「MANDOM MISSION」
特に、マンダムは、生活者を対象にビジネスをしているんですから、まさに人間の心を動かす価値を生むことが必要。データやAIから予測できるものはありますが、未知なものに出会ったときの感動は、計り知れないインパクトがある。先端技術は駆使しつつ、人間の機微をしっかり理解することが大事だと思いますよ。
--それがマンダム流マーケティングになるんですね。
西村 最後は理屈では説明できないもの。「これ、なんかいいよね」と、生活者にいっていただくことが、マンダムらしさだと思います。例えば、店頭で洗顔カテゴリーを見たとき、たくさんの商品の中から、これを買いたい、と生活者に思っていただけるか。これは昔から全く変わらないマーケティングの役割です。
でも、将来を考えると、過去と明らかに変わるのは、グローバル、ボーダレスが軸に入ってくること。国単位で需要が見込める時代は終わりに近づき、ネット社会が成熟することで、ボーダレス化が進んでいく。マンダムらしいマーケティングの根底は変えないけれども、時代に応じてアウトプットを出すやり方は変わってくると思う。
--その考え方は、現場まで浸透していますか。
西村 僕が考えていること、話していることについて、社員は頭の中で理解していると思います。常々、社員に対して、想像力と創造力、つまりイマジネーションとクリエイティビティの両方が大事だと伝えています。新しい情緒的価値をイメージし、それを創り上げる。この二つの力を社員は磨き、経営側は、社員が力を発揮できる環境をつくるのが役割ということです。
--しかし、想像力と創造力を高めるのは容易ではありません。
西村 先ほども申し上げましたが、日々の生活から色々な学びが得られます(「マンダムの挑戦①」を参照 https://wp.me/pacadT-2Qy)。それを人がどうすれば喜ぶのか、どうすれば役立てるのか。新しい価値をイメージして、どのように提供できるのかをクリエーションする。それを意識して働くことが大事です。
もう一つ、青山オフィスがマーケティングのグローバルのヘッドクォーターであることを強く意識することも重要です。グローバル化、ボーダレス化が進んでいますから、日本で働いているからといって国内消費だけを考えていてもビジネスが成功するか不透明な時代です。インドネシアの情報が日本で通じるかもしれない。それとは逆に日本の情報がどこかの国・地域で役立つかもしれない。常に視野を広く、世界を見ながらシナジーを起こしていこうと、社員に呼びかけています。
--マンダムの人材育成は様変わりしそうです。
西村 グローバル化、ボーダレス化に加えて生活者のニーズ、ウォンツが細分化しており、昔のようなマス消費は起こり難い。しかし、ニーズ、ウォンツを細かく拾えば、本当に競合がいないニッチなブルーオーシャンが見つかるかもしれない。一つの考え方として、国単位では小さい市場だけど、グローバルに結ぶと大きな市場になる可能性もあります。でも、それは蓋を開けたら、ただの水たまりだった、という事態もあるかもしれないので、そのリスクを考慮することも必要です。
また、色々なニーズ、ウォンツに対して、商品の見え方を変えれば対応できる可能性もある。つまり、過去のやり方では生き残りが難しくなるなか、人財育成のプロセスも変えなければいけないと思っています。マンダムは「人間系」企業というだけあって、教育に熱心な会社です。私も社内外で勉強する機会をいただいてきましたが、いま自分に何が欠けているのかを知ることが大事。だから、マーケティングの社員には、社内外を問わず、学びの機会があれば、チャンスをどんどんつかんでほしい。それは会社のためにではなく、自分のため。マンダムの社員がどんどん魅力的な人間になって、楽しい人生を過ごしてほしい。マネジメント層は、その背中を押す度量が求められています。
--マスブランドからの脱却を狙う、と。
西村 狙うというより、市場がそのような流れに進んでいます。そのときに大事になるのがグローバル、ボーダレスの一方で、各国の歴史や風土、習慣などを理解することです。マンダムは60年以上、海外事業を手がけていますから、十分なノウハウがある。この強みはしっかり活かしていきたい。
インドネシアの生活者に支持されているポマード
先ほどのバーバースタイルも、インドネシアで提供しているポマードは、日本の生活者には馴染まない油溶性(「マンダムの挑戦①」を参照 https://wp.me/pacadT-2Qy)。日本では、生活者のニーズとウォンツに適した水溶性、名称も古いイメージがあったポマードからグリースに変えて展開しています。同じギャツビーであっても、各国で共通にする部分、ローカライズする部分をバランスよく共存させているわけです。
日本では、水溶性のグリースを展開
--上手にブランドをコントロールしないと、世界観が壊れませんか。
西村 同じ商品でも、国や地域によってサイズを変えたり、名前を変えたり、見せ方を変える。この多様化を進める上で、最も重要になるのは、ブランドの核となる価値を世界中の全社員で共有すること。マンダムは、ギャツビーとビフェスタをグローバルブランドとして育成していますが、その価値を規定するためにブランドブックを作成。これは各国のマーケティング活動を束縛するものではなく、ギャツビー、ビフェスタの価値を理解し、毀損させないように高めていくためのものです。価値共有を進めるために、本部機能である青山オフィスに各国の担当者を招き、教育を行ったりしています。
--ビフェスタの誕生日会を企画したのは、長期研修で来日している台湾人。グローバル化の象徴的な存在ですね。
西村 ビフェスタの誕生日会は、新しい発見の連続でした。まず、マンダムは男性化粧品が強いがゆえに、コスメティック分野のノウハウが不足していた。その中で、ビフェスタは、生活者のライフスタイルの変化を捉え、水クレンジング市場を切り開いた。誕生日会当日のドレスコードは白。パートナー企業も参加して、たくさんの女性が社内で楽しむ姿を見たとき、ここまでのブランドに育ったのか、と感慨深い気持ちになりました。
ビフェスタの誕生日会を企画したのは、台湾籍の女性社員
もう一つは、誕生日会を企画したのが、海外籍の社員だったこと。しかも、ヘッドクォーターである青山オフィスを巻き込み、世界中の拠点を結び付けたことは、マーケティング機能を集約した狙いの一つが具現化したことを示しています。
--国内外の人事交流は活発にしていくのでしょうか。
西村 青山オフィスが海外籍の社員にとってキャリアアップするための通過点となる場所にしたい。過去、国境を越える人事異動は、ほとんどが日本人。私は3年ほど、シンガポールに駐在しましたが、現地社員には日本の社員に負けず劣らず、マンダムを愛する優秀な社員が働いています。ギャツビーを世界一のブランドにするんだ、と意気込んでいるんですよ。じつは、そんな想いをもっている海外籍のシンガポール人はマンダム初のマネージャーとして活躍しているし、そのような熱意をもつ仲間は世界中の拠点にいます。
でも、なかなか日本人のように異国でスキルを伸ばす機会を与えることができていなかった。つまり、マンダムは商品のグローバル化は進んでいるものの、経営や人材のグローバル化はこれから。今回、私はマーケティング部門のトップを任されたので、青山オフィスにはさらに長期研修の形で中国やインドネシア、台湾などから社員を呼んでいます。
大企業に比べると、マンダムの売上規模は大きくないし、依然として進出エリアも少ない。それに女性分野は、もっと競争力を高めていかないといけない。だからこそ、グループ内に優秀な人材がいるのであれば、フレキシブルに活躍できるようにしなければいけないわけです。
その過程では、日本の社員にも歯を食いしばってもらう。共通言語を考えると、英語は大事だからです。もちろん、英語は手段でしかなく、目的はもっと別のところ、もっと先にある。世界中の生活者に役立つためにも、手段としての英語を身につける必要があります。それが苦しいことは私自身が身をもって知っているので、日本の社員もサポートしていきたい。
--英会話が堪能なのは、苦労を積み重ねたからですか。
西村 じつはシンガポールに赴任するとき、英語を読むのは得意だったんですが、話すのは苦手だったんです。でも、初出社日に現地社員から決裁のサインをください、といわれるし、生活しなければいけないので必死に勉強しましたよ。青山オフィスで働く社員は、外国籍の社員が増えることで、英語を使う機会が増加。片言のコミュニケーションを重ねることで、段々と喋れる社員が増えており、頼もしい限りです。
--マンダムの組織力には伸び代がありそうですね。
西村 そう感じていますし、どんどん変わっていくだろうと期待しています。それは逆にいうと、経営トップから次世代の社員に突きつけられた課題でもあります。私を含む30代の社員も、もっと若い社員も、先輩社員も、マンダムに対する思いは共有しているんですが、これからの時代に適したアウトプットが違います。先輩社員は、変えるのは若い世代だ、と意思表示してくれる。そのバトンを受け継ぎ、自分たちが先頭に立って変えていかないといけないと決意を新たにしています。
マンダムの挑戦「③昔の父に似ているといわれたら終わり」に続く。