ロート製薬は、動物実験を行わない化粧品(薬用化粧品などを含む)の製品開発を進めている。名古屋市立大学データサイエンス研究科安部研究室、薬学研究科医薬品安全性評価学分野との共同研究にて、難溶性物質の眼刺激性評価におけるin silico(※1)予測モデル開発を進めてきた。その結果、化学物質の化学構造情報のみから眼刺激性を予測可能とする新たなモデルの構築に成功し、さらに今回眼刺激性の区分判定に対するより詳細な判別を可能とする新規モデルを開発した。
なお、同研究内容は2025年11月1~3日開催の日本動物実験代替法学会第38回大会においてシンポジウム、ポスターで発表した。
眼刺激性評価において、経済協力開発機構(OECD)テストガイドラインに基づく in vitro(※2)代替法試験法は、一定の有効性を示す一方で、難溶性物質など適用できない化学物質が存在するという課題がある。その課題に対し、機械学習(※3)を活用したin silicoモデルは、既存データと化学構造情報を活用して毒性を予測できる手法として国際的に期待が高まっている分野だ。
これまで同社は、Draize試験(※4)の動物実験代替法としてガイドライン化されたSTE試験法(※5)のin vitro試験データを用い、化学物質の構造情報や物性値等から、眼刺激性を予測するモデルの開発を進めてきたが、この度、新たに区分1(※6)と区分外(※7)の双方を高精度に予測できるモデルの構築に取り組んだ。
STE試験から得られた毒性分類(GHS分類、※8)との一致性を基に、勾配ブースティング決定木系のアルゴリズムを用いた機械学習により、区分1モデルの5%および0.05%濃度溶液、並びに、区分外モデルの5%および0.05%濃度溶液のそれぞれのin silicoモデルを作成し、性能を評価した結果、in vivo(※9)、in vitro、in silico各々の間で評価結果がほぼ等しく、高精度な予測モデルの開発に成功した。
同モデルは、化学物質の化学構造情報のみを用いてSTE試験を予測することが可能だ。
このシステムの活用により、難溶性物質や合成が困難な化学物質の安全性確認のみならず、眼科用成分の候補選定や誤使用時の化粧品の危険性評価への応用が期待される。
【用語説明】
※1
in silico:コンピュータや情報技術を用いたシミュレーションやデータ解析などの研究手法。
※2
in vitro:試験管や培養器などの人工的な環境下で行われる試験。
※3
機械学習:コンピュータ(機械)が大量のデータを分析(学習)し、パターンや規則性を見つけ出すこと。予測や意思決定の精度を向上させる技術の一つ。
※4
Draize試験:経済協力開発機構(OECD)の試験ガイドラインに収載されている主にウサギを用いた眼刺激性試験。
※5
STE試験法(the Short Time Exposure Test:短時間曝露試験法):経済協力開発機構(OECD)の試験ガイドラインに収載されている代替法。角膜上皮細胞に被験物質溶液の5%および0.05%濃度を5分間曝露した後の細胞生存率から被験物質溶液の非刺激性物質と強刺激性物質のGHS分類を可能とする国際的な試験法。
※6
区分1:重篤な損傷性を引き起こす被験化学物。UNGHS区分1。
※7
区分外:重篤な損傷性の分類が不要な被験化学物。UNGHS区分外。
※8
GHS分類:「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(The Globally Harmonized System of Class ification and Labelling of Chemicals:GHS)は03年7月に国連勧告として採択された。GHSは化学品の危険有害性を世界的に統一された一定の基準に従って分類し、災害防止及び人の健康や環境の保護に役立てようとするもの。
※9
in vivo:動物などを用い生体内の反応を評価する試験。
























