ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、化粧品を塗布したときの膜を紫外線によって水に強く崩れにくい膜に強化し、角層への浸透促進効果を向上させる「UV応答性膜強化・浸透促進技術」を開発した。この技術により、日常生活で浴びる紫外線で水に強く崩れにくいUVカット膜を形成し、浸透促進にまで利用するサンスクリーン製品を実現できる。
太陽光に含まれる紫外線(UV)は、肌に老化を引き起こす原因となるため、紫外線をカットするサンスクリーン製品の使用は、肌を守り、健やかに美しく保つためにとても有効だ。ポーラ化成工業ではこれまで、紫外線をカットしながらも太陽光に含まれる他の光を生かすサンスクリーン技術の開発に積極的に取り組んできた。同研究においても、多くの方に外出をより楽しんでほしいという研究員の思いを原動力に、「紫外線も味方につける」新たな技術を確立した。
同研究には、自社開発した「UVで空気中の大気汚染物質を分解して酢酸イオンを発生させ、目的の機能を高める化粧膜」の技術を応用している。化粧膜中に酢酸が発生すると周辺のpHが弱酸性に変化することから、pHに応じて性質が変わる素材を組み合わせることで、新タイプの「UV応答型」サンスクリーン製品の実現を目指した。
これに最適な原料として、数ある素材の中からホホバオイルから得られる保湿力に優れた水溶性成分「ホホバ由来脂肪酸カリウム」を選定した。脂肪酸カリウムは、pHの変化によって水への溶けやすさが変わることが知られている。ここでは、UVを浴びた際に生じる酢酸によるpH変化により化粧膜表面に起こる反応を疑似的に確認する実験を行った。ホホバ由来脂肪酸カリウム水溶液に酢酸水溶液を添加し、攪拌すると、白い固形物が形成される(図2)。これがホホバ由来脂肪酸カリウムと酢酸が反応してできたホホバ由来脂肪酸だ。化粧膜の表面でこの反応が起こると、脂肪酸によって、水に対して強い疎水性の膜へと強化される。この膜が肌を覆うことで水分の蒸発を防ぐ「閉そく力」が増すと期待される。

脂肪酸カリウムは水に溶けやすい性質を持つが、このように弱酸性の環境下では脂肪酸に変化し水をはじくようになる。これを利用すると、サンスクリーンの塗布により肌上に形成した膜にUVが当たることで脂肪酸が水に強い疎水性の膜となりフタのような役割を果たすことでうるおいを閉じ込める機能を高めることができるのではないかと考えた。
ホホバ由来脂肪酸カリウムを配合した製剤について、酢酸によるpH変化により水分蒸散抑制効果が実際に向上するか評価した。その結果、酢酸水溶液の添加で水分蒸散量を抑える作用が向上することが確認できた(図3)。酢酸によるpH変化で形成された脂肪酸の膜が水をはじく力を発揮して、閉そく力が高まったものと考えている。

閉そく力が増すと化粧品中の成分の浸透が促進される「ラッピング効果」が期待できる(図1①)。さらには、ホホバ由来脂肪酸カリウム自体にも浸透促進効果がある(図1②)。

ホホバ由来脂肪酸カリウムによる角層への水溶性成分の浸透促進効果を確認した。三次元培養表皮モデルを用いて、化粧品成分に見立てた水溶性蛍光物質の浸透性を調べた結果、ホホバ由来脂肪酸カリウムにより角層への物質の浸透が促進されることが確認された(図4)。

この理由として、ホホバ由来脂肪酸カリウムは水になじむ親水的な構造と油になじむ疎水的な構造を併せ持つことが挙げられる。角層は水をはじく疎水性の性質を持っているため、水溶性成分がなじみにくい傾向がある。しかし、ホホバ由来脂肪酸カリウムは、水溶性成分を保持しながらも角層ともよくなじみ、水溶性成分を伴って角層中に入り込むことができると考えられる。このことから室内でも、紫外線を浴びる屋外でも成分浸透が期待できる。また、水に強い疎水的な脂肪酸が日焼け止めの膜の表面を強化するので、紫外線からのディフェンス力を高めることが期待できる。























