ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、紫外線(UV)による肌細胞のDNA損傷(キズ)に対し「直後にどれだけ修復できるか」が、後のキズ蓄積に影響を与えることを明らかにした。

①UVを浴びた直後のDNA修復力には、表皮細胞のIGF1R※1が減少しないことが重要である

②IGF1Rが減少した表皮細胞では、直後の修復力が不足し、DNAのキズが蓄積しやすくなる

③アルニカエキスは、表皮細胞のIGF1Rを増加させるはたらきがある

※1 Insulin-like Growth Factor 1 Receptorの略。細胞表面でIGF1を受け取り、DNA修復を始めるシグナルを出す受容体。

ヒトの肌は、他の哺乳類に比べて毛が少なく、UVの影響を受けやすいと言われている。特にUVB波(UVB)は表皮細胞のDNAに直接キズを与える。通常は、細胞が備えるDNA修復力で回復するが、加齢などにより修復力が弱まるとキズが蓄積し、シミやシワなどの光老化※2につながる。DNA修復には多くの要素が関わる。そしてDNAのキズはUVを浴びた「瞬間」から発生する。しかし、そのUVによるキズに対し、直後の修復力と、その後のキズ蓄積へ与える影響については、十分に分かっていなかった。そこでポーラ化成工業は、UVを浴びた「直後」のDNA修復力に着目した。加齢した肌で減少し、早期のDNA修復を含む様々な事象に関わる因子IGF1※3の受容体「IGF1R」と、「UVを浴びた直後のDNA修復力」の関わりを調査した。

※2 長期間紫外線を浴びることで肌の老化が加速される状態。

※3  Insulin-like Growth Factor 1の略。成長に関わる因子タンパク質の一つ。

UVBは表皮細胞のDNAに吸収され、DNAに直接キズを与える。中でも「DNA二本鎖切断」は細胞にとって深刻なキズだ。細胞はこのキズに対する修復力を備えており、

①ATM※4がキズを検知し、②γH2AX※5がキズに結合して修復因子を集め、③POLL※6が合成した新しいDNAでキズをつなぎ直すという流れが知られている。また、IGF1RシグナルはDNA修復の各段階の進行を広くサポートする。これまで、これらの因子やIGF1RシグナルによるDNA修復への関与は、主にUVを浴びた「30分後~数時間」の段階において調べられてきた。しかしDNAのキズはUVを浴びた「瞬間」に生じること、IGF1Rを介した修復もより早い段階から作動する可能性に着目した。IGF1RがUVを浴びた「直後」からDNA修復の「開始と進行」を担う可能性を考えた。

※4 ataxia telangiectasia mutatedの略。DNA修復に関与する上流因子の一つ。

※5 phosphorylated H2A histone  family member Xの略。DNAのキズ(DNA損傷)の箇所に現れる、リン酸化されたDNAを巻きつけるヒストンタンパク質の一つ。

※6 DNA poly merase lambdaの略。DNA修復に関与する下流因子の一つ。

その結果、IGF1R遺伝子発現量が減少した表皮細胞では、DNA修復因子の働きが、UV照射10~30分後の間は減少し、60分後には正常細胞との差が見られなくなった。

肌のIGF1Rは加齢などによって減少するが、UVを浴びた直後の修復力への影響は不明だった。そこで実験的にIGF1R遺伝子発現量を減少させた表皮細胞を用い、UV照射直後のDNA修復に関わる遺伝子※7の働きを調べた。その結果、IGF1Rが減少した細胞では、正常細胞に比べて、UV照射10分~30分後の修復因子の遺伝子発現量が減少した。60分後には差は見られなくなった(図4)。このことから、IGF1R遺伝子発現量はUVを浴びた「直後」の修復力に関わることが示された。

※7 DNAのキズを検知し修復を始める酵素ATMと、壊れたDNAのキズの箇所を新しいDNAで埋め元通りにする酵素POLLの2因子を対象とした。

一方で、DNAのキズの量は増加し続け、60分後には約4.6倍まで差が拡大した(図1)。

〈図1の実験の詳細〉

DNAのキズの目印であるγH2AX※8タンパク質を染色し、その発現量を測定した。その結果、IGF1Rが減少した細胞では、正常細胞に比べて、UV照射10分後にはキズの量が多くなり、30分後には差がさらに拡大し、60分後には約4.6倍に達した(図5)。

注目すべきは、前述したように、UV照射60分後には修復因子の発現差が無くなっていたにも関わらず、DNAのキズ蓄積は進行した点である。これは、IGF1Rの発現量の差が、その後のDNAキズ蓄積量を大きく左右することを示している。つまり、DNAキズの蓄積を防ぐためには、IGF1Rを介したUVを浴びた「直後のDNA修復効率」が重要と考えられる。

※8 DNAのキズ(DNA損傷)の目印として広く用いるマーカーであるγH2AXを、DNAのキズの程度を示す指標として使用した。

このことから、IGF1Rを介した、UVを浴びた直後のDNA修復力が、その後のキズ蓄積量を左右するカギであることが分かった(図2)。

つまり、UVによる肌のダメージを効果的に防ぐには、UVをカットするだけでなく、肌側のDNA修復力、つまり「UVディフェンス力」も重要と言える。

さらに研究を進め表皮細胞のIGF1Rを増加させる植物成分を探索した結果、アルニカから抽出したエキスが表皮細胞のIGF1R遺伝子発現量を2倍以上に増加させることを確認した(図6)。アルニカはヨーロッパ原産の菊科の多年草で、古くから肌を健やかに保つために親しまれてきた植物だ。