ライオンは、歯周病(歯肉炎・歯周炎の総称)の発症や進行の抑制には口腔内細菌への対処だけでなく、歯ぐきの免疫細胞であるマクロファージ(白血球の一種。炎症反応や免疫応答をつかさどる細胞。主な役割は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を取り込み〈捕食〉、消化すること)の働きが重要な役割を果たすことを確認した。以下の知見は、歯周病の発症・進行を防ぐためのアプローチの開発につながる。主な研究結果は以下の二つだ。

①歯周炎(歯槽膿漏)予防を目的とする薬用歯みがき類の有効成分グリチルリチン酸ジカリウム(以下、GK2)が免疫細胞マクロファージの老廃物除去機能を活性化し、炎症を起こしにくい状態へと導く可能性を発見(図1)

②免疫細胞マクロファージの免疫反応調整機能が組織修復を促し、歯周病の進行抑制に寄与する可能性を発見

①の「老廃物除去機能」はエフェロサイトーシスともいい、体内で役目を終えた死んだ細胞(老廃物)を取り込み除去するプロセスのこと。老廃物の蓄積によって引き起こされる過剰な炎症を防ぎ、組織修復を促し、組織を健やかに保つ上で重要な役割を果たす。
②の「免疫反応調整機能」は、同研究では、「脱感作(長期化する炎症刺激に対し、炎症を抑えて組織を保護する免疫調整機能)」のこととして使用。

図1:GK2による免疫細胞マクロファージ活性化イメージ

これらに関連する研究について、2025年6月26日にスペイン・バルセロナで開催された第103回国際歯科研究学会(International Association for Dental Research;IADR)にて発表した。演題は「Oxidative Stress Affects Porphyromonas Gingivalis LPS-Induced Macrophage Phenotypic Alteration」。

歯周病は、口腔内細菌の塊である歯垢(プラーク)中の歯周病関連細菌の増加によって、歯を支える歯ぐきや歯槽骨などの歯周組織に炎症が起こる疾患だ。歯周病の予防には、歯垢の除去や殺菌などにより歯周病関連細菌を減らす「菌へのアプローチ」と歯周組織の防御力を高めて炎症を防ぐ「歯ぐきへのアプローチ」の両輪で行うことが重要である。

同社はこの二つのアプローチから歯周病研究を進めている。特に、免疫細胞であるマクロファージは、生体の防御機能において重要な役割を果たしており、病原体の除去や免疫反応の調整に関与している。歯ぐきにおいても免疫機能の要の一つとして作用するが、歯周病における免疫細胞マクロファージの具体的な役割は十分解明されていない。

そこで、同研究では、「歯ぐきへのアプローチ」として、免疫細胞マクロファージの“老廃物除去”と“免疫反応調整”による組織修復という二つの機能に着目し、歯周病との関連性について解析した。

①有効成分GK2が免疫細胞マクロファージの「老廃物除去機能」を活性化することを発見

免疫細胞マクロファージの機能の一つに、組織修復を促す「老廃物除去機能」があり、老廃物の蓄積によって引き起こされる過剰な炎症を防ぎ、組織を健やかに保つ上で重要な役割を果たしている。同研究では、歯ぐきの炎症(ハレ、出血)に関わる「老廃物除去機能」に着目し、同機能を活性化する成分を探索した。その結果、抗炎症の働きにより歯周病を予防することが知られている薬用歯みがき類の有効成分GK2が、「老廃物除去機能」を活性化することを確認した(図2)。

図2:GK2の老廃物除去機能の活性化効果

方法:免疫細胞マクロファージ(RAW264.7細胞)に薬用歯みがき類に配合される各種有効成分を24時間処置したのち、老廃物(細胞死を誘導した細胞)と共に3時間培養し、培養液中の老廃物を除去した免疫細胞マクロファージの割合を解析(N=4)。機能の評価に適した濃度で各成分を添加。

一方で、図2に示す他の抗炎症作用を有する有効成分では「老廃物除去機能」の活性化が確認されないことから、すべての抗炎症成分が「老廃物除去機能」を活性化するわけではないと考えられる。以上から、有効成分GK2は進行中の炎症を抑える作用に加え、免疫細胞マクロファージの「老廃物除去機能」の活性化作用により、炎症を起こしにくい状態へと導く可能性が示唆された。

②免疫細胞マクロファージの免疫反応調整機能が組織修復を促し、歯周病の進行抑制に寄与する可能性を発見

免疫細胞マクロファージは異物に対して炎症を引き起こし、生体からの異物除去を行う中で、過剰な炎症反応を抑制し、免疫反応のバランスを調整する働きも担っている。この過剰な炎症反応を抑制する働きに着目し、歯周病及び、加齢に伴い増加する歯周病のリスク因子の一つである酸化ストレスとの関連を解析した。歯周病に罹患した歯ぐきにおける、免疫反応調整機能の働きを調べるため、歯周病を模した実験系で、免疫細胞マクロファージの炎症誘発、炎症抑制、組織修復促進の各機能に関わる因子の量を解析した。その結果、免疫細胞マクロファージをリポ多糖(以下、LPS)で単回刺激すると、炎症が誘発され炎症誘発因子(TNF-α)が産生された(図3a)。

さらに、歯周病のような長期的な細菌刺激のモデルとして、免疫細胞マクロファージをLPSで複数回刺激すると、炎症誘発因子(TNF-α)の産生量が減少する一方で、炎症抑制因子(IL-10)の産生量及び組織修復促進因子(TGF-β)の発現量が有意に増加することを確認した(図3a、b、c)。この結果は、P.g菌により引き起こされる歯ぐきの長引く炎症に対して、免疫細胞マクロファージの免疫反応調整機能が炎症抑制優位に働き、歯ぐきの修復を促す可能性を示唆している。

方法:歯周病関連細菌Porphylomonas gingivalis(P.g菌)の菌体外成分の一つであるリポ多糖(LPS)で免疫細胞マクロファージを単回・複数回刺激したときの、免疫反応調整に関わる各因子の量を比較

次に、加齢に伴い体内で増加する酸化ストレスが免疫反応調整機能に与える影響を調べるため、酸化ストレスを加えた条件で同様の実験を行った。その結果、酸化ストレスを与えLPSで複数回刺激することで、炎症誘発因子の産生量が増加し、炎症抑制因子の産生量及び組織修復促進因子の発現量が減少することを確認した(図4a、b、c)。この結果は、加齢に伴う酸化ストレスの体内蓄積が免疫細胞マクロファージの炎症抑制機能や組織修復力の低下を引き起こす可能性を示しており、加齢に伴い歯周病のリスクが増加する一因と考えられる。

方法:LPSでマクロファージを複数回刺激したときの、酸化ストレス(H2O2)有無による免疫反応調整に関わる各因子の量を比較

以上の結果より、免疫細胞マクロファージの免疫機能が歯周病の発症・進行の抑制に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

同社は、今後も歯周病予防・改善技術の開発に向けて、病原体制御に加え、免疫反応調整機能の向上にも着目していく。今回の研究からその重要性が明らかとなった免疫細胞マクロファージの機能研究にもさらに注力し、口を起点とした健康増進への貢献を目指していくとしている。