独自の「テクニカルマーケティング」を開始
――付加価値品の購買を促すには、機能性や効能効果への納得感を引き出すことが必要。その点はいかがでしょうか。
チャン まずはサンワマーケティングの歴史からお話しさせてください。原点は、私の祖父が1950年代(昭和28年ごろ)に設立した貿易会社で、丹頂ポマード・牛乳石鹼・金鳥蚊取り線香の販売からスタートし、香港の生活者にさまざまな商品を届けてきました。祖父から会社を受け継いだ父のウィリアム・チャン(現・サンワマーケティング会長)は、1990年代にお取引先様の持続可能な成長への貢献を目指して、貿易会社からマーケティング会社への進化に挑みました。それが現在のサンワマーケティングです。2023年に創業30周年を迎えるのですが、長いビジネスの歴史がサンワマーケティングの事業基盤を強くしてきました。例えば、香港・マカオのあらゆる小売業と多様なネットワークがあり、日本企業の期待に応えられる緻密な営業・物流サービスが提供できる。そして1990年代から培ってきたブランド価値を向上させるマーケティング専門チームがあるのも強みで、伝統的な広告手法からデジタル活用まで、幅広い手法を組み合わせた戦略を構築し、実行することができます。2022年1月に社長に就いた私は、祖父、父の志である日本の良い商品を香港の生活者に届けることを受け継ぐだけでなく、日本企業の香港での成功を足がかりに、東アジア、ASEANへの進出をサポートできる企業を目指したい。これは長期的な目標ですが、必ず実現したいと思っています。その第一歩として、2022年の弊社方針に「テクニカルマーケティング」の推進を掲げています。これは弊社の造語であり、お取引先様商品の価値(機能・技術・成分)をより香港の生活者が理解・納得することができるコミュニケーションへローカライズし、購買へつなげるマーケティング手法です。流通代理店として商品を運ぶだけでなく、先ほどお話しした、香港での半世紀以上にわたるビジネスの歴史に裏付けされた現地生活者に対する深い理解度をベースとしたテクニカルマーケティングを実践し、商品の価値、ひいてはブランド価値を向上させ、生活者およびお取引先様へ永続的にお役立ちし続けることで、東アジア・ASEANへの流行発信窓口である香港におけるサンワマーケティングという会社の存在感を高めていきたいと考えています。
――日本企業がアジア事業の拠点にできるほど、香港にはポテンシャルがある、と。
チャン 香港は12人に1人が資産1億円以上といわれ、多くの高所得者が住んでいます。また、先ほど申し上げた通り、消費意欲が旺盛で、中国本土への話題拡散が期待できる中国人観光客も必ず戻ってきます。さらにアジアを代表する流通企業であるドラッグストア「ワトソンズ(屈臣氏)」と「マニングス(萬寧)」の本拠地です。外資系企業はアジアのヘッドクォーターを構えていますし、さまざまな免税店の商談の場にもなっています。香港人は、英語、広東語、マンダリン(中国語の標準語)を身につけている人が多い。サンワマーケティングは、採用の際、日本語のスキルを重視していますから、文字通り、日本企業とアジアの架け橋になれる会社。だからこそ、香港での成長に満足せず、東アジア、ASEANへのビジネスの領域を広げていくべきだ、と考えているんです。
――香港での成功事例はありますか。
チャン 古くから香港展開に携わっているマンダムさんの「ギャツビー」は、マーケティング活動を地道に続けることで、スタイリング市場ナンバーワンの地位を築くに至りました。また、フェイスマスクの「バリアリペア」は、マンダムさんと香港専用品を開発。生活者に響くように数回のパッケージ変更をしたり、KOL(キー・オピニオン・リーダー)を起用したイベントや屋外広告、SNS広告などを組み合わせることで、香港人の愛用者が拡大。素晴らしい成長を続けています。また、伊勢半さんの「ヒロインメイク」も、アイライナー市場でトップシェアを獲得したことがあります。牛乳石鹼共進社さんのボディソープブランド「バウンシア」、サンスターさんのオーラルケアブランド「G・U・M」、ホーユーさんの白髪染めブランド「シエロ」「メンズビゲン」など、香港市場に定着させた成功事例はたくさんあります。今後は、アフターコロナを見据え、ヘルスケア意識が高まっている生活者へのアプローチも強化していきます。
サンワマーケティングは、多様な売り場に合わせたマーケティングを行うことで、ブランド価値(機能・技術・成分)を消費者に届けている。今後は独自のテクニカルマーケティングで、さらなる需要創出に挑む考えだ
フェイスマスクの「バリアリペア」は、KOL(キー・オピニオン・リーダー)を起用したイベントなどのマーケティング戦略で香港人の愛用者を獲得している
――創業40年、50年に向けて、サンワマーケティングは攻めの戦略を打つようですね。
チャン 幸いなことに、直近の業績は市場成長率を上回る数字を残せています。化粧品から日用品まで多種多様なブランドとパートナーシップを結ぶとともに、市場の変化に合わせてスピーディかつフレキシブルに戦略を考え、実行できる組織が相乗効果を発揮しています。その一方で、冒頭で申し上げたように香港市場には大きなチャンスが到来しつつある。香港の生活が平常に戻り、中国人観光客の往来が始まると、一気に経済は活気づきます。その時、香港の売り場に商品が並んでいなかったり、マーケティング戦略が用意できていないブランドは、成長の機会を失うことになります。サンワマーケティングのお取引先様が機会損失を被らないよう、準備を整えていく。アフターコロナの回復トレンドは、絶対に逃しません。そして、さらにたくさんの日本ブランドと出会い、香港での成功をサポートしていきたいと考えています。★
月刊『国際商業』2022年08月号掲載
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