いずみ朔庵 著 ポーラ文化研究所 監修
『ウチの江戸美人』晶文社
江戸のおしゃれをコミカルに表現
化粧文化への間口を広げる一冊

制限の多い時代でも、江戸の女性は決しておしゃれを忘れなかった。本著「ウチの江戸美人」は、軽快な1コマ漫画でスキンケアからメイク、ヘアケア、髪型、着物までを網羅した江戸時代の化粧文化を表現している。江戸時代を生きる女性「江戸美人ちゃん」と現代を生きる有職女性「現代女子ちゃん」のルームシェアを描いた漫画で、従来の研究者・専門家以外にもより広く化粧文化への興味関心を拡大することを目的に企画されたポーラ文化研究所のウェブ連載漫画を書籍化したものだ。第1話から第53話までの1コマに加え、そのテーマに沿った解説、そして新たにそれぞれに4コマの漫画が書き下ろされている。

読者に近い立場である「現代女子ちゃん」が現代の若者らしい言葉使いで突っ込みを入れながらも、「江戸美人ちゃん」と交流を重ね、お互いを否定することなく理解を深めていく様子は、非常に面白く、どこか心温まる光景だ。しかもポーラ文化研究所にある江戸の化粧文化資料をひもときながら、緻密な時代考証を重ねて描き出された漫画と解説は、その読みやすさからは想像できないほど多くの知見にあふれている。

貴重な紅をぜいたくに使う憧れの「笹色紅」を“メタリックカラー”と表現した数話後には、リップにもチークにもアイシャドウにもなった“3WAYアイテム”として再び紅が登場する。現代の用語への置き換えが巧妙だ。江戸時代の女性の「美白」への憧れにも驚いた。白粉に始まり、スキンケア、冬瓜パックなどのスペシャルケア。理想の肌を求める女性がさまざまなアイテムを駆使して自分を磨き上げる姿は、現代となんら変わりない。ありそうであり得ない、二人の女性の楽しげな掛け合いを通して、江戸の化粧文化やオシャレが生き生きと目の前に浮かび上がるようなこの感覚は、研究資料や文化資料を読むだけではなかなか感じえないものだろう。
刊行:2021年9月
価格:1600円+税

月刊『国際商業』2022年01月号掲載