オフラインビジネスのキラーコンテンツ
オンライン vs. オフラインといった対立構造の文脈で言うと、オフラインビジネスの強みとして、かつては教育サポートというものがあった。理美容のプロフェッショナル業界では、化粧品(プロダクト)と付加価値サービス(主に教育コンテンツ)の二つのニーズを見ておく必要がある。理美容産業は、人が人に行うビジネスなので、人材育成がリソースマネジメントの最大の鍵で、教育システムやコンテンツは昔から大きな経営資産だった。
大きく言うと、理美容プロフェッショナル業界の教育コンテンツには商品教育と人材教育の二つがある。この業界で流通するものは、B to B商品なので、各メーカーともスタジオなどの設備を完備して、エデュケーションによる自社製品の普及に努めている。これが商品教育だ。もう一つの人材教育というのは、接客マナー、商品とは直接関係ないカット技術のセミナー、SNSを活用した集客セミナー、あるいはオーナー向けの経営セミナーなど様々なものがある。
傾向的にはメーカーの持っている教育コンテンツは、商品教育がらみのものが多く、人材教育に関するものは、ディーラーがセミナーを主催したり、理美容サロンがアカデミーなどを開催してコンテンツを提供する形態が多かった(ミルボンのように両方のコンテンツを豊富に持っているメーカーもあるが)。その他、意外と大きな影響を持っていたのが、業界ジャーナルの存在で、昔は技術のノウハウ本や学習系の技術雑誌(たとえて言うと、小学館の『小学一年生』や学研の『科学と学習』のようなもの)がよく売れた。
「HAIRCAMP」とは、簡単に言えば、従来、ディーラーやサロンアカデミーなどが提供していたリアルセミナーや雑誌社が紙媒体で発信していた技術情報などをオンラインで配信していくプラットフォームで、近年、急激にユーザー数を伸ばしている。ここではオンラインでエデュケーションコンテンツを提供していくビジネスをEC(electronic commerce)にもじり、EE(electronic education)と呼んでおく。
オンライン vs. オフラインの対立構造に話を戻すと、実は、オンラインビジネスはオフラインビジネスには逆立ちしてもかなわない、という見方もあるにはある。それは、オンラインビジネスにこれといった人材教育のコンテンツがなかったことが大きな理由だ。プロフェッショナル業界特有の“事情”だと言えるが、今回、ビューティガレージと「HAIRCAMP」の業務提携で、多少、業界がざわついたのは、ECがEEというキラーコンテンツを手にしたことが背景にある。
変わる教育コンテンツの流通事情
コロナによって理美容業界で、一番変わったのは、おそらく、理美容サロンのスタッフ教育だ。前述のように理美容業界は、俗に教育産業とも呼ばれるほど、理美容技術者として一人前になるまでかなりの時間が教育に費やされる。こうした従業員教育は、営業時間外に対面で行われていたが、このコロナ禍で三密回避の傾向が強まり、理美容室では、実地での練習そのものができなくなってしまった。メーカーやディーラー主催のセミナーも、昨年4月の非常事態宣言発令後、年内一杯はほぼ中止。こうしたコロナ禍で、理美容サロンの自社内教育は、実地トレーニングから動画教育へのシフトが急速に進み、同時並行して、オンラインによる教育コンテンツの需要が、爆発的に高まった。