ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(以下、国立長寿研)との共同研究を通じて、顔の「表情」が、身体・認知機能・心理状態など各種のフレイル状態と関連することを明らかにした。
ポーラ・オルビスグループは、化粧品の枠を超えてウェルビーイングの実現を目指している。その一環として、ポーラ化成工業では人生100年時代において重要な「フレイル」に着目し、国立長寿研と共同研究をしてきた。フレイルとは、健常と要介護状態の中間を指し、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義する(日本老年医学会による)。
フレイルは身体・認知機能・心理状態・社会性などが相互に影響し合う「多面性」を持ち、悪化が連鎖してQOL低下や要介護状態への移行、そして医療費・介護費の増大につながる。そのため、フレイルは多面的に評価することが重要だが、項目数や所要時間が増えやすく、被験者・評価者双方の負担が大きいため、評価の普及には“簡便性”が課題だった。
フレイルを簡便かつ多面的に評価するための手段として、「表情」に注目した。表情は、非侵襲で捉えることができる上に、表情筋の動き、相手に対する認知・反応、心理状態、社会性など、多岐にわたる状態が反映されている可能性がある。また、ポーラ化成工業には顔や表情の分析技術やノウハウが蓄積されている。
そこで、国立長寿研の大規模高齢者コホート研究に参画し、70歳以上の2300人以上の日本人高齢者の表情や各種フレイルに関する指標、生活習慣、血液検査などの、500項目以上に及ぶ膨大なデータセットを取得。
さらに笑顔、微笑み、怒り、恐怖、悲しみ、嫌悪、驚きの7種類の表情について、表情の見本画像をまねしてもらう課題や、シナリオ文から場面を想像して表情を出してもらう課題を行い、表情動画を撮影して研究を行った。得られた表情動画から、顔の動きを詳細に解析し、表情筋の動きに対応する指標であるアクションユニット(AU)(※1)の強さや速さなどを数値化。また、各表情の強さは、その表情を構成する複数のAUの強さを合計して評価し、合計値を4段階に分けて解析した(Q1:高〜Q4:低)。
フレイルの判定はそれぞれ、
身体的フレイル……日本版CHS基準(※2)で3項目以上に該当した人
認知機能低下……国立長寿研のタブレット型認知機能検査で評価した4領域(記憶、注意、遂行、処理速度)のうち、1.5SD(標準偏差)以上低い領域が一つ以上ある人
うつ傾向……老年期抑うつ調査票GDS-15(※3)で35点以上の人
とした。
また、各種フレイル状態と表情の関係を調べるため、年齢、性別、BMI、教育歴、就業有無、独居、生活習慣病の有無などの影響を考慮して解析した(ロジスティック回帰分析)。
表情と各種フレイルとの関連性を解析した結果、身体・認知機能・心理状態・社会性に対し、表情特徴量(笑顔の強さなどを数値化)が有意に関連することが確認された。
結果の一例として、身体的フレイルの高齢者は笑顔の表出強度が小さいこと、認知機能が低下した高齢者は笑顔に伴う口周辺の表出強度が小さいこと、またうつ傾向の高齢者は微笑み強度が小さいことが明らかとなった(図1)。
具体的には、身体的フレイルでは笑顔をまねしたときの笑顔の強さが高い群(Q1)に比べ、低い群(Q4)では、身体的フレイルに該当する割合(オッズ)が約1.9倍高いことが明らかとなった(年齢/性別、糖尿病有無、高血圧有無、高脂血症有無、GDS-15スコア、MMSEスコア、BMI、独居、外出頻度低下の影響を考慮)。
認知機能低下カテゴリーでは、笑顔をまねしたときの笑顔の強さ(特に口まわり)が高い群(Q1)に比べ、弱い群(Q3、Q4)では、認知機能低下に該当する割合(オッズ)がそれぞれ約1.6倍、約2.1倍高いことが明らかとなった(年齢、性別、BMI、教育歴、就業有無、独居、糖尿病有無、高血圧有無、高脂血症有無、GDS-15スコア、外向性スコア、頬部の動き強度の影響を考慮)。
うつ傾向では、微笑みをまねしたときの微笑みの強さが高い群(Q1)に比べ、弱い群(Q3、Q4)では、うつ傾向に該当する割合(オッズ)がそれぞれ約1.7倍、約2.0倍高いことが明らかとなった(年齢、性別、BMI、教育歴、就業有無、独居、糖尿病有無、高血圧有無、高脂血症有無、毎日誰かとの会話有無の影響を考慮)。
同結果から、表情を用いることでフレイルを多面的に評価できる可能性が示唆された。それにより、一人一人のフレイル状態を短時間で簡便に把握でき、ケアの最適化が可能となることが期待できる。
これらの研究成果は、6月11~13日に神戸国際会議場にて開催された第68回日本老年医学会学術集会において、3件の口頭発表として発表した。演題はそれぞれ、①「地域在住高齢者における表情表出と身体的フレイルの関連」(発表者:竹本泰)②「地域在住高齢者における認知機能と表情表出の関連」(発表者:錦織秀)③「地域在住高齢者における表情表出変化とうつ傾向の関連」(発表者:木内悠人)。
今後は、表情から簡便に多面的フレイルを評価するツールの開発・社会実装を進める。そして、同成果を超高齢社会の課題解決に繋げ、人と社会のウェルビーイングの実現を目指すとしている。
※1:どの表情筋が、どのように動いたかを分解して表すための単位。口角が上がる、頬が持ち上がる、といった顔の部分ごとの動き
※2:Cardiovascular Health Study基準(CHS基準)を日本人高齢者向けに改変したフレイル評価基準
※3:Geriatric Depression Scaleの15項目短縮版であり、高齢者の抑うつ状態を簡便に評価するためのスクリーニング尺度






















