『なぜ日本人は、それを選ぶのか? データで読み解く 時間とお金の使い方』
著:株式会社インテージ
刊:朝日新聞出版
価格:1045円(税込み)
生活者の本音からリアルな消費を探り出す
これからの消費を読み解く上で、羅針盤となる一冊である。本書は、1960年の創業以来、国内最大手のマーケティングリサーチ会社として生活者の行動を見つめてきたインテージグループのアナリストたちによる分析をまとめたものだ。生活者の本音や時代の変化をデータから読み解く、と聞くと難解に感じるかもしれない。だが、図表を多く用い、文章も平易で、専門知識がなくても読み進めやすい。全4章で構成され、各章の項目も細かく分かれているため、関心のあるテーマから読むこともできる。もちろん、通読すれば、現代の消費をめぐる大きな変化がより立体的に見えてくる。
インテージが65年以上にわたり蓄積してきたデータを基に、各分野のアナリストが生活者の行動や意識を分析する。取り上げられるテーマは、食卓、自動車、メディア、街、お金、世代ごとの価値観など幅広い。どの項目にも、読者が自身の生活や仕事と重ね合わせられる発見がある。単なる統計の紹介ではなく、数字の背後にある生活者の気分や選択の理由を探ろうとしている点に、本書の面白さがある。
とりわけ読みどころとなるのは、第3章と第4章である。第3章では、今後の日本の消費を担う若い世代に焦点を当て、未来の生活者像をデータから推察する。ここで示される「リキッド消費」は、Z世代を中心に広がる消費の特徴を捉えたキーワードだ。所有や定着よりも、状況に応じて柔軟に選び、使い、乗り換えていく。その流動的な消費感覚は、従来のマーケティングの前提を揺さぶる。
第4章では、この「リキッド消費」に加え、「多様化」「賢堅消費」「個人最適化」という四つの潮流が整理される。いずれも、単なる価値観の変化ではない。生活者が商品やサービスと向き合う際の「選択のしかた」そのものが変わりつつあることを示している。価格、機能、ブランドイメージだけではなく、自分に合っているか、無理がないか、納得できるか。令和の生活者は、より複雑で、より慎重で、同時により自由な判断基準を持ち始めている。
この後半2章があることで、過去と現在を分析した前半2章の意味も深まる。現在の消費行動は、突然生まれたものではない。人口構造、所得環境、メディア接触、家族観、時間の使い方といった変化が積み重なった結果として、いまの選択がある。本書は、その連続性をデータで示しながら、未来の消費を考える視点を与えてくれる。
印象的なのは、アナリストたちの語り口である。「はじめに」「コラム」「結びに」などで、読者に何度も呼びかける。そこには、一方的に分析を提示するのではなく、読者と一緒に生活者の変化を考えようとする姿勢がある。無機質になりがちなデータを、事業や日々の生活に引き寄せて読むことができるのは、そのためだろう。
マーケティングに携わる人はもちろん、生活者の変化を捉えたい企業人にとっても示唆は多い。データを読むことは、数字を確認することにとどまらない。その背後にある人の気持ち、社会の変化、選択の理由を考えることである。本書は、その入り口として有用な一冊である。★
月刊『国際商業』2026年07月号掲載




















