資生堂の光学研究では、透明感のある肌を実現するために、肌に当たる光が角層から真皮まで届き、再び肌の外へと戻ってくる「内部散乱光」、すなわち肌における光の振る舞いに注目し、非侵襲的に顔の立体形状や光の状態を測定・解析できる世界初の光学計測システムを開発し、研究を進めている。今回、室蘭工業大学との共同研究により、この光学計測システムをさらに進化させ、肌内部での光の振る舞いについて、到達深さ別に評価する技術を開発した。

内部散乱光は肌の内部に侵入し、吸収や散乱の影響を受けて最終的に肌の外部へと出射する光。表面下散乱光とも呼ばれる。

測定・解析の結果、短い波長の光(青色)は表皮に、中間の波長の光(緑色)は基底膜を中心とする表皮から真皮上層付近に、長い波長の光(赤色)は真皮のコラーゲン層にまで届き、再び肌の外部へ出射することが明らかになった(図1)。

図1:肌の内部から外部へと戻る光の到達深さ

また、短い波長の光(青色)は表皮層に届くことから、表皮層に到達して出射する光とメラニン量の関係性について非侵襲的に測定・解析した結果、メラニンによる光の吸収が強く関与し、光が遮られて肌の内部へ入りにくく、肌の外部へと出射する光の量を減少させることが分かった。さらに、長い波長の光(赤色)は真皮のコラーゲン層にまで届くことから、非侵襲的に生きたヒトの肌のコラーゲン状態が観察できる肌内外3D弾性イメージング技術(本多電子、豊橋技術科学大学との共同研究により開発した皮ふ内からの超音波反射信号を弾性率に変換する特許取得技術)を応用しコラーゲン線維密度を評価、関連性を解析した。

その結果、コラーゲン密度が低下すると真皮に到達して肌の外部へと出射する光の量が減少することが分かった(図2)。これらの研究成果により、角層・表皮にあるメラニン量と、真皮にあるコラーゲン密度が、透明感のある肌づくりにおいて特に重要であることが示された。

図2:メラニン量およびコラーゲン密度が肌内部における光に影響を与えるメカニズム

同社は今後も美しい肌を実現するための光コントロール技術の開発を進め、新たなソリューション開発に生かしていく。

なお、同研究の成果の一部は、学術論文として「Optical Review,31(2),266-279」に掲載されたほか、「European Conference on Biomedical Optics(2025年7月)」、「Optics Photonics Japan(2025年12月)」にて発表された。

資生堂の光学研究では、顔の印象に強く影響を与える「つや感」や「透明感」など、肌の見た目の「質感」にいち早く着目し、光学的手法や心理物理学的手法を用いて研究を進めてきた。ノルウェー科学技術大学との共同研究では、顔の立体形状に加えて、これまで分析が難しかった肌の内部からの出射光を、非侵襲的にビジュアルや数値で計測・解析できる画期的な光学計測システムを開発した。これにより、加齢によって肌の内部からの出射光が減少することや、内部での光にはメラニン量、角層の状態、皮膚水分量、コラーゲンの状態、キメの状態の五つの要素が関連することを突き止めてきた。

しかしながら、肌の内部を伝播する光が肌のどの深さに到達して肌の外部へと出射する光なのか、その詳細については把握できていなかった。今回、室蘭工業大学との共同研究では、光学計測システムの解析技術をさらに進化させ、肌内部での光の振る舞いを解明するため、検討を進めた。

実際の肌の構造を説明する9層の数学的モデルを構築し、そこに照射した光子が肌のどの層に到達し、再度肌の外部に戻ってくるかをシミュレーションすることで、光の波長と到達深さの物理的な関係性を明らかにした。新たに示された、光の波長と到達深さの関係性から、計測システムで測定された光がどの層を経由して出射する光なのかを詳細に解析することができるようになった(図3)。

図3:肌の9層構造モデル(左)、長波長光の伝播の様子(右)

さらに、光学計測システムを用いて20~70代の約150名の女性を対象に、新しく開発された評価技術を適用すると同時に、資生堂が有する肌の非侵襲計測技術により膨大なデータを取得した。到達深さ別の出射光に影響を及ぼすパラメータを確認したところ、表皮層に到達して再び肌の外部へと出射する光には、表皮メラニンによる吸収が最も強く関与し、さらに真皮層に到達して再び肌の外部へと出射する光には複数の指標が関連すること、その中でコラーゲン線維密度の影響も大きいことが確認された(図4)。

図4:表皮を中心に伝播する内部散乱光とメラニン指数の関係(左)、真皮を中心に伝播する内部散乱光とコラーゲン密度の関係(右)

これまでの研究から、肌の内部から出射する光は加齢に伴い減少する傾向にあることが明らかになっていたが、到達深さ別の特徴は分かっていなかった。今回、到達深さ別に測定・解析することによって、表皮層に到達して再度肌の外部へと出射する光は、加齢に伴い徐々に低下する傾向がある一方で、真皮層に到達して再度肌の外部へと出射する光は、若い年代における変化はやや小さく、高い年代では低下する傾向が強くなることが新たに示された(図5)。

図5:表皮を中心に伝播する内部散乱光と加齢の関係(左)、真皮を中心に伝播する内部散乱光と加齢の関係(右)