ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、天然保湿成分である高分子多糖体を用いた、肌に優しい新しい洗顔料の技術を開発した。その秘密は、この天然成分を従来よりも高速で液中に分散させることで生まれる、きめ細かい繊維ネットワーク構造だ。このネットワークはミクロなスポンジのように働き、余分な皮脂や汚れを優しく効率的に絡め取る(図1)。
同技術は、横浜事業所にて2024年から稼働している横浜事業所のテクニカルディベロップメントセンター(以下、TDC)に導入された新装置により実現した(図4)。
洗顔料には、豊かな泡でしっかり汚れを落とすだけでなく、肌をやさしく洗いたいといった声が多い。一般消費者を対象に実施した洗顔料に関する同社アンケート調査では、洗顔料に対し、泡質や後肌実感などの機能面に加え、肌への刺激が少ないことを望む人が多いことが確認された(図5)。
洗浄力や泡質を高めるには石鹸成分や他の界面活性剤など洗浄剤の増量が一般的だが、人によっては肌への刺激や乾燥感につながってしまうことがある。そこでポーラ化成工業が新しく注目したのが、糖が連なり巨大分子となっている「高分子多糖体」だ。
熊本阿蘇地域に生息する日本固有の淡水性ラン藻「水前寺海苔(スイゼンジノリ)」からは、「サクランⓇ」と呼ばれる多糖体(図2)が抽出できる。分子量は2900万にも上り、化粧品に使われる高分子多糖原料の中でも極めて大きく、ふわふわとしたやわらかなボディスポンジのよう。水に溶かすととろみが出て、水分を多く保持できるため、保湿剤としても活用されている。
高分子多糖体は繊維状のネットワーク構造を形成する。その構造を微細で緻密なものにすることができれば、ミクロのスポンジのように働き、洗浄成分に頼らずに汚れをやさしく絡め取ることができると考えた。
ポーラ化成工業では、TDCに導入した独自の高性能装置によりスイゼンジノリ多糖体を通常よりも高速で分散処理することで、水中の繊維ネットワークをより細かく緻密にすることに成功。これにより、皮脂に見立てた油分をしっかりキャッチすることができるようになった。スイゼンジノリ多糖体を水に溶かし、TDCに導入した独自の新装置により、超高速で分散処理を行った(図6)。電子顕微鏡で観察すると、従来の分散速度と比べて、微細で緻密な繊維ネットワーク構造に変化していることが確認された(図7)。皮脂に見立てた油分をキャッチする能力をテストした結果、独自の分散液では油分をたくさん抱え込むことが確認された(図8)。
これらの結果から、高速分散がスイゼンジノリ多糖体の繊維ネットワーク構造に変化をもたらしたことで、油分を効率よく取り込む天然のミクロスポンジのように働くようになったと考えられる。これにより、従来の洗浄成分に頼らずとも汚れ落ちを向上させることができる。
またこれを配合した洗顔料は、官能評価で洗い上がりの良さを支持する割合が高いことが確認された(図3)。これはスイゼンジノリのきめ細かい繊維ネットワークがミクロのスポンジとしてうるおいを守りながらやさしく汚れをキャッチしてくれている作用だと考えられる。






























