ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、肌表面の状態を改善するアプローチについて研究を進め、以下の2点を発見した。
1.細胞間脂質の1つである脂肪酸が、透明感とバリア機能に重要な、角層の細胞間脂質の入る隙間の形成を促進することを発見。
2.細胞間脂質の脂肪酸を作る酵素に着目し、表皮細胞において脂肪酸生成酵素の発現量を増加させるエキスを発見。
角層のバリア機能とは、体内の水分が外に逃げるのを防ぐのと同時に、雑菌や乾燥などの外部刺激から肌を守る働きのこと。角層の下層では、角層細胞の表面全体に「コルネオデスモソーム」と呼ばれるタンパク質複合体が存在し、上下の細胞同士が強く結びついている。しかし、表層に向かうにつれて、コルネオデスモソームを構成する主要因子「デスモグレイン1」などのタンパク質は徐々に分解され、細胞は辺縁部だけでつながるようになる。これにより、表層の角層が正常に剥離しターンオーバー(肌〈表皮〉の内側では新しい細胞が生まれており、徐々に肌表層へ押し上げられ、その過程で角層細胞へと変化し、最終的に表面の古い角層細胞は剥がれていく。この一連の過程)が維持されると同時に、角層表層において、まるでスポンジのように隙間が生まれ、そこに脂質が充満する(図1)。
このようにして「成熟化した角層」は、高いバリア機能を発揮するようになると考えられている。なお、細胞間を満たす脂質(細胞間脂質)の主な構成は脂肪酸、セラミド、コレステロールであり、バリア機能にはこれらどの脂質も欠かせない。
ポーラ化成工業では、「角層の成熟化」についての研究を長年続けており、肌の柔軟性との関連など、さまざまな新知見を発表してきた。特に2016年には、角層の成熟化度合いと肌の明るさの指標(L*値)に相関関係があることや、成熟化した角層は、そうでない角層に比べて、光の散乱性が高いことを発表している。このことから、角層の成熟化は、肌の透明感とも関連性があることが考えられる。
一方、細胞間脂質の主要成分には「脂肪酸」が含まれるが、「角層の成熟化」には、脂肪酸が重要との仮説を設定し、その働きを調べた。
研究の結果、特定の脂肪酸が、角層表層でデスモグレイン1の減少を促していたことが明らかとなった(図2)。脂肪酸が、バリア機能の構成成分であるだけでなく、細胞間脂質が入り込む隙間をつくる働きも併せ持っていたことを示している。したがって、脂肪酸が肌内部で適切に生成・維持されていることは、肌本来のバリア機能や透明感を引き出すうえで重要であると考えられる。
毎日の洗顔などで、細胞間脂質は少しずつ失われてしまう。中でも脂肪酸は特に失われやすく、その生成を促すことは角層を健やかに保つ上で重要だ。そこで脂肪酸を生成する酵素であるPLA2G2F(Phospholipase A2 Group IIF)を増加させるエキスを探索し、エイジツエキスとハトムギ発酵液の複合物に、その作用があることを見いだした(図3)。
肌の表皮に存在する脂肪酸生成酵素PLA2G2Fは、角層が形成される過程でリン脂質を分解し、脂肪酸を生成する。またこの酵素によって作られた脂肪酸は、肌のターンオーバーを整える働きや、細胞間脂質の構成成分として機能するなど、肌のバリア機能の形成に重要な役割を果たしていると考えられている。
同研究では、さらに同酵素の作用を追究。培養表皮細胞を用いた実験でこの酵素を人為的に減少させると、表皮にメラニンを蓄積しやすくする因子が増加することが分かった(図4)。したがってPLA2G2Fの増加はバリア機能の向上に働くだけではなく、メラニン関連因子の減少によるシミやくすみのケアにもつながることが期待できる。


























