御木本製薬は、ゼロエミッションに基づいた真珠養殖システム(図1)を活用し、真珠貝Pinctada fucataから新たな多機能原料「真珠パウダー」を開発した。この真珠パウダーは、環境に配慮した独自製法により製造され、化粧品粉体として高い機能性を持つことから、マイクロプラスチックパウダーなどの代替原料としての活用が期待されている。

同成果は、2025年9月15~18日にかけてフランス・カンヌで開催の「第35回 IFSCC世界大会」にて発表した。

図1. ゼロエミッション型の持続可能な真珠貝養殖システムの概念図

ゼロエミッションとは、製品の製造や使用、企業活動などの過程で、温室効果ガスや有害な化学物質などを環境中へ放出させないことを目指す考え方のこと。例えば、CO2など温室効果ガスの排出をゼロにすれば、地球温暖化の防止や環境負荷の軽減につながる。この考え方に従い、未利用資源の再資源化、クリーンエネルギーの活用などを通じて、持続可能な社会の実現を目指すものだ。

近年、地球規模で進む環境変化に対応するため、社会全体で「持続可能性」を重視した取り組みが求められている。特に、さまざまな産業分野では化学物質に対する規制が強化されており、化粧品業界でもマイクロプラスチックなどの原料に対する規制が進んでいる。

これまでスクラブ剤などに使われていたマイクロプラスチックが環境汚染の懸念から規制され、使用できなくなってきており、環境に配慮した代替原料の開発が急務となっている。その代替原料として、天然由来の生物資源が注目されており、「真珠」はその有力な候補の一つである。

真珠はその美しさだけでなく、真珠貝が自らの貝殻や真珠を形成する過程でCO2を固定する「生物鉱化」の性質を持つことから、環境負荷の低減にも貢献できる素材だ。生物鉱化はバイオミネラリゼーションともいい、生物が自分の体内で鉱物を作り出す仕組みのことをいう。例えば、貝やサンゴは、体内でカルシウムなどの成分を使って、自然に鉱物を作り出している。この仕組みは環境にもやさしく、CO2を取り込んで固体に変える働きがあるため、地球温暖化対策の面でも注目されている。真珠ができる過程もこの一つだ。

同社グループでは、こうした真珠の可能性にいち早く着目し、真珠貝P. fucata由来の素材を化粧品や健康食品に活用する独自のシステムを構築してきた(図1)。このシステムを生かし、真珠貝のあらゆる部位を無駄なく使い切るという視点から、これまでにも環境にやさしく、かつ魅力的な化粧品原料を数多く開発してきた。

同研究では、真珠貝由来の成分を製造する過程で生じる「脱灰液」に注目した。真珠や真珠貝の貝殻で独特の光沢をもつ部位を真珠層というが、この真珠層からはコンキオリンと呼ばれる保湿成分が得られ、これを加水分解することで化粧品原料へと活用されている。コンキオリンを製造する過程で、さまざまなミネラルや真珠層を形成する成分が含まれた大量の液体が生じる。この液体を脱灰液というが、これまで化粧品原料として十分に活用されてきていなかった素材だ。同社はこの脱灰液から、球状結晶の「真珠パウダー」を新たに開発した(図2)。

図2. 真珠パウダーの電子顕微鏡画像

真珠パウダーが化粧品原料としてどのような特性を持つかを調べるために、まず物理的な性質(粒子の形や大きさなど)を評価した。次に、肌への使用感など、化粧品としての特性を検証し、さらに実際の化粧品に配合した際の人への影響も確認した。

その結果、真珠パウダーはマイクロプラスチックパウダーに近い滑らかな感触を示し、皮膚老化の原因と考えられる特定の脂肪酸を選択的に吸着させるなど、多機能な粉体原料であることが分かった(図3)。

図3. 真珠パウダーの化粧品原料としての特性。A: さまざまな油種に対する粉体原料の吸着性の比較。真珠パウダー(赤色の枠線)において、皮膚老化の原因と考えられるオレイン酸に対して有意な吸着を示した(n=3, p<0.05)。B:粉体原料の摩擦特性の比較。真珠パウダー(赤色の枠線)において、赤丸で示したマイクロプラスチックパウダーと近しい摩擦特性を示し、両者の使用感が近いことが確認された。C: 粉体原料の光学特性。真珠パウダー(赤矢印)において、高いソフトフォーカス性があることが確認された。

さらに、実際の化粧品に配合した際の人への特性として、リキッドファンデーションの塗布前後の毛穴の隠れ具合を確認したところ、真珠パウダーを配合した製品の方が無配合のものよりも毛穴を目立ちにくくする(メイクアップ効果による)度合いが高くなる傾向が確認された(図4)。また、製造方法においても環境への負荷が少なく、持続可能な素材としての可能性が示された。

図4. 真珠パウダーを配合したリキッドファンデーションによる頬の毛穴隠れ度合いの比較(n=10、平均年齢42.0 ± 11.3歳)。被験者(30歳、女性)における塗布前後の無配合品との比較。塗布後、無配合品よりも毛穴数が減少している傾向が確認された。

同研究では、真珠貝から得られる副産物を活用し、新しい化粧品原料「真珠パウダー」を開発した。この原料は、真珠層の形成に関わる成分を含む脱灰液から作られており、これまで十分に活用されてこなかった素材を、高機能で持続可能な原料へと生まれ変わらせたものだ。

環境への負荷を抑えながら、従来の粉体原料と同等以上の性能を持ち、マイクロプラスチックパウダーの代替としても注目される。美容や健康分野への応用が期待されるこの原料は、真珠貝資源の持続的な利用にもつながる、循環型社会の実現に向けた一歩だ。

今後は、同技術をもとに、真珠パウダーのさらなる特性を探りながら、さまざまな製剤への配合を可能にする研究も進めていくことで、より環境負荷が少なく幅広い製品展開が期待されている。