コーセーは、肌の老化研究の成果として、老化した真皮線維芽細胞(真皮でコラーゲンなどをつくり、肌を支える細胞)から放出される特定のマイクロRNA(miRNA、遺伝子の働きを直接制御する因子)が、表皮や真皮、血管を構築する細胞の老化を連鎖的に引き起こすことを発見した。この知見は蓄積した老化細胞が周囲の細胞を老化させていく“老化連鎖”に対するアプローチへの応用が期待できる。また、ノイバラ果実エキスにこの「老化連鎖miRNA」の産生を抑制する効果があることを見いだした。同研究成果の一部は、2025年9月15~18日にフランス・カンヌで開催の第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)学術大会にて発表する。

図1:「老化連鎖miRNA」の作用メカニズム

肌の老化は、シワやたるみなど、外見に大きな変化をもたらす。近年、体内に老化細胞が蓄積することで、周囲の組織にも老化を広げる“老化連鎖”が起きていることが知られるようになった。この老化の連鎖を断ち切ることはエイジングに対抗する有効な手段になると期待できるが、その原因やメカニズムには未解明な点が多く残されている。そこで、同研究では細胞間の重要なコミュニケーション手段である細胞外小胞に着目して、老化連鎖のメカニズムの解明を目指した。

細胞外小胞に含まれる様々な成分の中でも注目したのが、遺伝子の働きを直接制御する因子であるmiRNAだ。はじめに、細胞の老化によって細胞外小胞内の量が変化するmiRNAを明らかにするため、シワやたるみなどに関わりの深い真皮の線維芽細胞を老化させ、細胞外小胞に含まれる全てのmiRNAを網羅的に解析した。その結果、細胞の老化に伴って著しく増加するmiRNAを特定した。このmiRNAは線維芽細胞の中に比べて、細胞外小胞の中で顕著に増加していたことから(図2)、このmiRNAは細胞外小胞を介した細胞間のコミュニケーションに大きく関与しており、「老化連鎖miRNA」の有力な候補因子であると考えた。

図2:細胞老化による「老化連鎖miRNA」の量

次に、この特定のmiRNAが肌をつくる主だった細胞の老化に影響を与えているかを検証した。このmiRNAと同じ配列をもつ模倣物質を表皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞に添加したところ、細胞増殖能の低下や細胞老化を示すタンパク質の増加が確認された。すなわち、この特定のmiRNAは老化した線維芽細胞から細胞外小胞を介して、周囲の他の線維芽細胞や表皮細胞、血管細胞の老化を引き起こす「老化連鎖miRNA」であることが明らかになった(図1)。

また、ヒトの皮膚組織に「老化連鎖miRNA」の模倣物質を添加したところ、皮膚の弾力性を保つエラスチン線維が細かく分断されていることが観察された(図3)。これは、これまでに知られている加齢による皮膚組織の変化と非常に類似しており、「老化連鎖miRNA」が組織レベルでも老化を誘発する可能性を示している。

図3:ヒト皮膚における「老化連鎖miRNA」のエラスチン線維への影響

さらに、今回見出した「老化連鎖miRNA」の産生を抑える成分探索を行い、ノイバラ果実エキスを見いだした。線維芽細胞にノイバラ果実エキスを添加したところ、「老化連鎖miRNA」が減少することが確認できた(図4)。

図4:ノイバラ果実エキスの「老化連鎖miRNA」の抑制効果

同研究により、老化細胞から放出される「老化連鎖miRNA」が周囲の細胞や組織に老化を広げる老化連鎖因子であることが明らかになった。この知見を老化の連鎖を断ち切るという、画期的なエイジングケアに応用すべく研究を続けていく。今後も老化現象に対する多面的な研究を推進し、お客の幅広いニーズに応えられる価値提供につなげていくとしている。